
本屋大賞に5年連続ノミネートされている人気作家・青山美智子さんの大ファンだという、アイドルの筒井あやめさん。お2人の意外な共通点や生き方について、お話しいただきました。(取材・文:辻由美子、写真:遠藤宏)
※本稿は、『PHPスペシャル』2025年5月号より内容を抜粋・編集したものです。
日本語の奥深さに惹かれて
【青山】筒井さんは本がお好きだと伺いましたが、どんなものを読まれるんですか?
【筒井】いつも本屋さんに行き、本が並んでいる中で「これ、おもしろそう」とか「これ可愛い」とか、帯や表紙を見て、読む本を決めています。青山さんの本も全部読みました。
【青山】ありがとうございます! 最初に読んだ本はどれですか?
【筒井】『木曜日にはココアを』です。表紙がすごく可愛らしくて、手に取ったのが最初でした。
【青山】じゃあデビュー作から読んでくださっているんですね、感激。表紙には紙からこだわっているので、気に入っていただけて嬉しいです。本は昔からお好きだったんですか?
【筒井】いえ、じつはそんなこともなくて。子供の頃はあまり本を読まなかったので、読書感想文を書くときに厚さ数ミリくらいの薄い本を選ぶ、というような姑息な手も使っていました(笑)。
【青山】そうなんですか! どうして本好きになったんでしょう。
【筒井】どうしてかな......。14歳のときに、乃木坂46のオーディションに合格して上京したのですが、趣味があまりなく、時間を持て余してしまって。本だと家で簡単に読めるし、状況を選ばないので、それで読み始めたのかもしれません。
【青山】本を読んでいると、その世界に没頭できますしね。
【筒井】それと日本語は、とくに漢字にはたくさんの意味が込められているじゃないですか。そういった日本語の奥深さにも惹かれて、本を読んでいるのかもしれません。
【青山】私は日本語が世界一難しくて、美しい言葉だと思っているんですよ。文字も響きも美しくて、一文字ずつに意味があって、いろいろな歴史がつまっている。日本に生まれ育ち、日本語で文章を書くことができて、本当に幸運だと思っています。
【筒井】たしかにそうですね。私も曲をいただいて歌詞を見たとき、この曲を通して何を伝えたいのか、どういうふうに表現したらいいのかを、いつも考えます。
【青山】筒井さんは歌うだけじゃなくて、お芝居もされていますよね。歌詞もセリフも読み込まれると思いますが、歌とお芝居では表現の仕方を変えていますか?
【筒井】じつは、アイドルとしての自分はわりと素のままで。ステージに立つと心から楽しいし、自然と笑顔になれるので、歌でもありのままの気持ちを表現しています。けれど、お芝居は素の自分でいてはいけないので、どう表現するかを考えるのが難しくて......。
【青山】でも、お芝居もお好きなんですよね。
【筒井】はい。最初は悩むことも多かったのですが、今では好きと言えるようになりました。相手のセリフを聞いてから自分のセリフを言うと、1人で練習しているときとはセリフの言い方が違ってくるんです。そういうときは、相手とお芝居ができているなと、楽しくなります。
「言葉」は受け取る人のもの
【筒井】青山さんの最新作『人魚が逃げた』も読ませていただきました。『人魚姫』に登場する王子らしき人と、恋や人生に悩む5人の登場人物の運命が交差する物語で、おとぎ話と現実の融合というか、ずっと夢を見ているような......。読み終わったあとに、幸せな余韻が残りました。
【青山】わあ、読んでくださったんですね。ありがとうございます!
【筒井】この作品は5つの章ごとに主人公が変わるんですけど、ある章の主人公が別の章ではまったく違う捉え方で描かれていて。とくに年の差の恋で悩む登場人物の章は、すれ違いがもどかしく......。人の考えていることは、ひとつの面だけで見てもわからず、決めつけてはいけないなということを、青山さんの作品から学びました。
【青山】そんなふうに言っていただけて、すごく光栄です。
そういえば、小説を書くことと役者さんが演じることは似ていると、前から思っていたんです。どちらも自分の人生ではない人生を生きるというか。考え方も気持ちも、その人になりきる必要がありますよね。
私は小説を書き上げるまでの間、人格の半分はその人になってしまうんです。買い物に行っても、道を歩いていても。中でも絵画コレクターと作家が主人公の章は、私自身と重なる点が多かったので、思い悩む2人を書いているときは、かなりしんどかったです。
【筒井】そうなんですか。私の場合は、お芝居が終わったら役を引きずることなく普段の自分に戻るので、そういうご苦労があったとは知りませんでした。
【青山】でも、そういう章を書き上げられるのが、作家として一番の喜びであり、幸せなんです。
【筒井】青山さんが登場人物と一体化するからこそ、キャラクターが生き生きとしていて、共感できるのかもしれませんね。青山さんのどの本にも共通するんですが、登場人物にかけられた言葉が、まるで自分にかけられた言葉のように感じて、背中を押してもらえるんです。ちょっとした言葉にも勇気をもらえて。
【青山】筒井さんにそう受け取っていただいて、すごく嬉しいです。私には読者の方をこんなふうに感動させようとか勇気づけようとか、そういう狙いは一切なくて。
小説に限らずですが、言葉は発する者のものではなくて、受け取る側のものだと思っています。なので、読者の方には本当に好きに読んでほしい。
【筒井】たしかに、読むときによって感想も変わりますもんね。
【青山】私はただ、私の本に出合っていただけたことに感謝するだけ。ご縁があったんだなと、ありがたく思っています。
心を込めて接すればご縁は育つ
【筒井】青山さんは、ご縁をとても大切にしていらっしゃいますね。私も青山さんの作品を読んで、ご縁という言葉に敏感になりました。
【青山】でもご縁って、あるだけではダメで、育てないといけないんと思うんですよ。
【筒井】えっ、どうやって育てるんですか?
【青山】ご縁は相手のことをちょっとでもないがしろにしたら、あっけなく消えてしまうもの。相手を大事に思っているという気持ちを、ちゃんと自分の胸に刻んでおくことが大事だと思っています。
【筒井】私は仕事でたくさんの方とお会いしますが、1回会ってそれっきりになるような人とは、どうやってご縁を育てたらいいのでしょう?
【青山】ご縁があったからこそ1回でも出会えたわけだし、心を込めて接することができれば、ご縁は育てられるんじゃないでしょうか。
じつは何年か前に、Xで筒井さんが私の本を紹介してくださったと人伝てに知って。そのときから「筒井あやめさんは私の読者さんなんだ」って、嬉しくて自分の中で大切にしていたんです。そしたら今日、こうやってお会いすることができた。これは、ご縁が育ったということなんじゃないかな。
【筒井】すごい、本当にそうですね!
【青山】ご縁つながりで言うと、筒井さんは誕生日が6月8日、私は6月9日生まれで同じ双子座。血液型は2人ともO型。愛知県出身というのも同じなんですよ。
【筒井】わあ、すごい偶然!
【青山】私たち、似ているのかもしれません(笑)。もうひとつ加えると、じつは私、14歳のときに作家になろうと決意したんです。筒井さんが上京したのと同じ年齢です。
【筒井】14歳で、もう作家を目指されていたんですね。
【青山】でも、実際に私がデビューできたのは47歳。そこは筒井さんと違いますね。デビューするまでの33年間、ひたすらコツコツ書き続けたことが、今の自分を支えてくれていると感じています。
素直に生きることで未来への扉は自然と開く
【青山】筒井さんはこれから先、やりたいことなど、何か考えていらっしゃいますか?
【筒井】私はあまり未来のことは考えないタイプで。アイドルとして叶えたい目標は掲げているんですが、その先の未来までは決めないようにしています。
ひとつの目標に向かって頑張っていても、途中で別の道を選んだら、それまでの自分の努力を無視することになってしまうかも、と思うので。だからまずは、今を生きることを大切にしています。
【青山】すごい! 私が「未来を見据えるよりも、今が大切なんだ」と心から思えるようになったのは、50歳をすぎてからだったので。未来を考えると不安も野望も膨らんで、今が見えなくなるというか。だから、筒井さんの年齢で「今しか考えない」と言えるのは、とてもすごいことだと思います。
【筒井】ありがとうございます(笑)。まずは今の道を誠実に歩んでいって、挑戦したいことや必要なことに出合ったらやる。そういう生き方をしたいです。
【青山】今の自分を大事にして正直でいれば、ご縁や運を引き寄せて、次の扉を開くことにつながるんじゃないかな。そして気づいたらこんなところまで来ていた、というのが豊かな人生だと思います。今日は筒井さんにお会いできて、本当によかったです。
【筒井】私も勉強になりました。このご縁、大切にします!
【青山美智子(あおやま・みちこ)】
1970年、愛知県出身。大学卒業後、2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。デビュー作『木曜日にはココアを』(宝島社文庫)が第1回宮崎本大賞を受賞。『お探し物は図書室まで』『月の立つ林で』(ともにポプラ社)、『赤と青とエスキース』『人魚が逃げた』(ともにPHP研究所)、『リカバリー・カバヒコ』(光文社)が本屋大賞にノミネートされている。
【筒井あやめ(つつい・あやめ)】
2004年、愛知県出身。’18年に「乃木坂46」のメンバーとしてデビュー。’22年よりファッション雑誌『bis』(光文社)のレギュラーモデル。’21年から’23年までラジオ番組『乃木坂46の「の」』の第16代MCを務めた。出演作にテレビドラマ「真相は耳の中」、映画『矢野くんの普通の日々』、舞台『目頭を押さえた』がある。