
「自分は疲れやすい体質だ」と思っている人はいませんか? ですが、「疲れにくさ」や「疲労からの回復力」は実はトレーニングによって、誰でも高めることができるそう。多数のプロアスリートをサポートしてきたスポーツトレーナーの中野崇さんが、「疲労回復能力」を高める「リカバリートレーニング」について解説します。
※本稿は、中野崇著『最強の回復能力 プロが実践するリカバリースキルの高め方』(かんき出版)を一部抜粋・編集したものです。
疲労回復は鍛えることと同じぐらい重要
同じスポーツをしたとしても、翌日に疲れが残ってクタクタな人と元気な人がいます。
このように、同じ運動量(疲労行為)を行っているにもかかわらず、なかなか疲労が抜けない人と、すぐに疲労が抜ける人の違いはいったいどこにあるのでしょう?
その答えこそが、「疲労回復能力」です。
この「疲労回復能力」は、その人の体質や生まれながらの能力によるものではなく、トレーニングによって、誰でも、意図的に、高めることができる能力なのです。
疲労状態にあるのに、さらにトレーニングをして解決? ちょっと不思議な感じがするかもしれませんね。
私の経験上、プロ選手の中でもベテランと呼ばれる年齢の選手たちは疲労回復の領域―クーリングダウンや日々のストレッチ、栄養補給、睡眠など―を重視する傾向にあります。なぜなら彼らは疲労とパフォーマンス、そしてケガの間にある影響関係の深さを身をもって理解しているからです。
そして、的確にケアすることで疲労は少しでも解消できること、鍛えることと同じぐらい疲労回復することが重要であることを知っています。だからこそ、ベテランと呼ばれる年齢まで選手でいることができるのです。
早めからトレーニングをスタートする
若いうちはこの重要性を理解できないかもしれません。なぜなら、そもそも疲れにくく、疲労回復能力が高いからです。
現在のあなたと数年前のあなた―たとえば子どもや学生のときとでは、どちらのほうが疲れがとれやすかったですか?
多くの人が後者ですよね。
しかし、誰であっても、年齢を重ねるにつれて必ず疲労からの回復能力は低下していきます。そして、知らないうちに、本当に少しずつ疲労は蓄積します。それゆえ、回復能力は鍛えなければならないし、鍛えなければ向上しません。
とはいえ、筋骨隆々になることを意味するものではなく、それぞれの器官(筋肉、皮膚、神経、内臓)がそれぞれの役割に応じた、高い機能を保持した状態になるように鍛えます。
これこそがリカバリートレーニングであり、そのためのリカバリースキルは身体の機能を広範囲にわたって高めるものとも言えるのです。
疲れがとれにくくなったり、ケガを繰り返すようになったりしてから疲労回復能力を高めるのは大変です。時間もかかります。ですから、疲れにくい、または疲れてもすぐ回復できる状態の時期にこそ、ふだんのトレーニングに取り入れておきましょう。
シュート練習やウエイトトレーニングなど、攻めのトレーニングと同じぐらい重要な位置づけとしてとらえてもらいたいです。
もちろん、すでに疲労がとれにくい人、疲労が蓄積している人、そんな人でも粘り強くリカバリートレーニングを積み重ねれば、身体にはよい変化が起こります。
何歳からでも身体は変わります。身体が変われば動きや感覚が変わります。それらの変化はパフォーマンスにも必ずよい影響を与えます。
リカバリースキルは、競技レベル、年齢、競技を問わず、どのような人にも有効です。疲労回復能力という"身体能力"を高めるために役に立ってくれるはずです。
「疲れない」=「疲れることを避ける」ではない
「疲れにくい身体を手に入れよう」といったフレーズをよく目にします。実は「疲れにくい身体」を目指すことと、「回復能力の高い身体」を目指すことは似て非なるもの。その違いを解説しましょう。
そもそも一般的な「疲れにくい身体づくり」で語られる方法論―たとえば、「柔軟性を高めることで疲れにくい身体になれる」「アミノ酸を摂取することで代謝がアップし、疲れにくくなる」―などはいずれも回復行為です。
本来「疲れにくい」という場合、疲れないような動き=省エネができていることを指します。余分な力みを使わずに大きなパワーやスピードが発揮できるなど、効率的な動きができている場合です。
ただし、「疲れない身体」を目指すマインドは、無意識に「疲れることを避ける」ことにもつながりがちです。
これは疲れにくい身体を手に入れたいがために陥りやすい問題なのですが、「疲れないように」という意識はどこかで「疲れてはいけない」という意識を働かせてしまうのです。
限界まで追い込んでこそ高パフォーマンスが生まれる
パフォーマンスを高めたい場合において、疲れることを避けるのは得策ではありません。
練習やトレーニングで脳や身体を限界まで追い込むからこそ、身体はその負荷に適応するようになり、パフォーマンスは上がっていきます。
ですので、「疲れにくい身体づくり」というのは、ハイパフォーマンスを求める人が目指す方向性としては少し違和感があります。
それよりも回復能力をどんどん高めることにより、いくら疲れても回復できるという意識を持ったほうが、練習やトレーニングで限界ギリギリまで全力で取り組むことができ、ひいてはパフォーマンスアップにつながります。
もちろん、試合という活動時間や活動範囲が限られている状況下で「疲れにくいこと」は、高いパフォーマンスを発揮するために重要な要素ではあります。しかし、根本的な疲労回復能力の底上げのためにも、ハイパフォーマンスを発揮するためにも、疲れにくい身体づくりだけでは不十分で、回復能力の高い身体づくりを目指す必要があるのです。
「足裏縦アーチ調整」
<『最強の回復能力 プロが実践するリカバリースキルの高め方』P.182-183より>
本来のリカバリートレーニングでは、複数のトレーニングを組み合わせて順を追って行いますが、具体的にイメージしていただきやすいように、今回はその中から一例をご紹介しましょう。
崩れやすい土踏まずを整える「足裏縦アーチ調整」です。
足裏には縦2本、横1本のアーチがあります。アーチはバネやクッションの役割を担い、体重支持や重心移動での負荷を吸収・分散させますが、複数の小さな骨で構成されるため崩れやすい傾向があります。特に足裏の内側と外側を通る2本の縦アーチが崩れるとこれらの機能が使えず、ふくらはぎの筋肉などが過剰に使われます。
さらに、ひざや股関節、腰のトラブル、疲労蓄積の温床になることも。ここでは縦アーチを構成する要である舟状骨と立方骨に刺激を与えることで、足裏全体を整えることを目的とします。
<ここをチェック>
▶押し込んで痛みがある場合はアーチがかなり崩れている
▶その場合は痛気持ちいい程度の力で押し込みながら続ける
みなさんも、運動と「リカバリートレーニング」をセットにして、きちんと体をケアしてあげてください。
【中野崇(なかの たかし)】
スポーツトレーナー。フィジカルコーチ。理学療法士。株式会社JARTA international 代表取締役。
1980年生まれ。大阪教育大学教育学部障害児教育学科(バイオメカニクス研究室)卒業。2013年にJARTAを設立し、国内外のプロアスリートへの身体操作トレーニング指導およびスポーツトレーナーの育成に携わる。イタリアのトレーナー協会であるAPF(Accademia Preparatori Fisici)で日本人として初めてSOCIO ONORATO(名誉会員)となる。イタリアプロラグビーFiamme oroコーチを務める。また、東京2020パラリンピック競技大会ではブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチとして選手を支えた。
YouTubeをはじめとするSNSでは、プロ選手たちがパフォーマンスを高めるために使ってきたノウハウを一般の人でも実践できる形で紹介・発信している。 著書に、『最強の身体能力 プロが実践する脱力スキルの鍛え方』(かんき出版)がある。