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部下から慕われる上司に共通する「心地のよい叱り方」

内藤誼人(心理学者)

2013年10月02日 公開 2022年10月05日 更新

部下から慕われる上司に共通する「心地のよい叱り方」

部下をもつと、時には叱らなければならない状況に直面するだろう。部下との関係を良好に保ちながら、うまく導くためにはどうすればいいのか。心理学者の内藤誼人氏が、上司にとっても部下にとっても心地よい叱り方を紹介する。

※本稿は、内藤誼人著『なるべく嫌われない叱り方』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

自分が感情的になっていることを伝える

最初は理性的に部下を叱ろうとしていたのに、次第に気持ちが高ぶってきてしまって、感情的になってしまう、ということはよくある。こういう現象は、「怒りのエスカレーション」と呼ばれている。

米国ジョンズ・ホプキンズ大学のクレイグ・エワート氏らは、10分間、罵り、皮肉、批判などの言葉を出させると、どんどん血圧が上がっていく、ということを実験的に確認している。

どれほど冷静であっても、言葉を出しているうちに、次第に熱くなってきてしまう、ということは、誰にでも起きることなのだ。

「最初は、ほんのちょっと部下をたしなめたかっただけなのに、いつも叱りすぎてしまう」ということで自己嫌悪に陥る上司も多いのではないだろうか。

かくいう私も、いったん怒り始めると、なかなか感情を鎮めることができずに困っている。

さて、感情的になってきた場合には、どうすればいいのか。

おそらく、「自分の心を落ち着けよう」としても、その試みは失敗する。私自身、どんなに落ち着こうと心の中で念じても、落ち着けないということを何度も何度も、イヤになるくらい体験している。だからわかるのだが、このやり方は、あまり有効ではない。

では、どうすればいいのかというと、自分が感情的になっていることを、相手に伝えてしまうのである。

「すまない。怒っているように聞こえるよな。ただ、それくらいこの件が、私にとっては重大なんだ」

「いきり立っていると思うだろう。実際、いきり立っているんだよ。キミにとっては、5分の遅刻などたいしたことがないのかもしれないが、私にとっては、5分はとても貴重なんだ」

感情的になることは、あまり望ましいことではないが、「隠そう」とするよりは、むしろ相手に「見せてしまう」ほうがいいような気がする。

どうせ、荒っぽい声や、不機嫌な顔の表情などから、自分が感情的になっていることが、相手には筒抜けというか、丸見えなのである。隠そうとしても、感情的になっていることはすぐにバレてしまうのだ。

どうせバレるのであれば、自分のほうから感情的になっていることを素直に認め、それを相手に伝えたほうがいい。そのほうが、部下も理不尽な八つ当たりをされたとは感じないのではないかと思う。

頭に血を上らせて、カッカしている姿は、お世辞にもかっこいいとはいえないが、感情的になってしまったのなら、それを認めて、部下にも伝えることだ。

「俺は今、ものすごく感情的になっている。だから叱りすぎるかもしれない」と前もって説明しておくだけでも、部下の受け止め方はずいぶんと変わってくる。

 

「やむを得ない理由があった」と考える

怒りの感情を鎮めるためには、部下にものっぴきならない理由があったのだ、と考えてあげるのもいい。そういうイメージを持てば、一瞬で怒りの感情は消えてしまうものだからである。

米国カリフォルニア州立大学のバーナード・ウェイナー氏らは、仮に友人が約束の時間に遅れてやってきたとしても、

「電車が遅れてしまった」
「突然の仕事が入ってしまった」
「知人を空港まで送ることになってしまった」

など、コントロール不能な理由で遅刻してしまった場合には、それほど怒りが高まらないことを実験的に検証している。

私たちは、「それは、しかたないよな」という理由を見つけることができれば、その当人への怒りを減らすことができるのである。

セネカは、『怒りについて』(兼利琢也訳、岩波文庫)という著書の中で、やはり他人の行為について怒らないほうがいいというアドバイスをしている。

過ちに対して怒るべきではない。たとえば、暗闇の中で足をつまずかせている人を怒るとしたら、どうであろう。

耳が悪くて命令を聞き取れない人を怒るとか、また子どもが遊んでいるからといって怒るとしたら、どうであろう。病気とか老衰のために弱っている人を怒ろうと思うならば、どうであろう。

部下にも、何か理由があるのかもしれないと思えば、怒りはなくなるのである。

本当は、理由などないのかもしれないが、カッカしないためには、とにかく自分の頭の中で何らかの理由を作って、そういうイメージで部下を見てあげるといい。

「インフルエンザになったのかもしれない」「奥さんとの仲がよくないのかもしれない」「引っ越しをしたばかりで、ゴタゴタしているのかもしれない」などと、いろいろな理由をイメージしてあげれば、部下への怒りはなくなる。

「何か理由があるのなら、言ってみろ。開くだけは聞いてやる!」と最初からケンカ腰でこられたら、部下だって理由を説明する気持ちが失せる。どんな理由を言っても、どうせ怒られると思うからである。

ところが、「部下にも理由があったのだ」と考えて、自分の怒りを鎮めておけば、冷静に部下の話にも耳を傾けることができる。叱りすぎを予防するうえで、これは非常に重要な心構えであると思う。

【著者紹介】内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学特任講師。有限会社アンギルド代表取締役。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ。その軽妙な心理分析には定評がある。主な著書に『どんな逆境にもクヨクヨしない心理術』『一瞬で人の心を虜にする暗示心理術』『心理戦で必ず勝てる人たらし魔術』『人をその気にさせる悪魔の心理会話』『一瞬で人を操る心理法則』(以上、PHP研究所)など多数。

 

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