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生き方

沢村賞投手・金子千尋の投球論 思考は才能を超える

金子千尋(プロ野球選手)

2014年11月17日 公開 2018年09月26日 更新

《PHP新書『どんな球を投げれば打たれないか』より/写真撮影:加藤慶》

 

人と同じことをしてもつまらない

「ストレートを投げないピッチングをしてみたい」─。

2014年のプロ野球オールスターゲームに選手間投票で選出されたとき、僕はメディアの人たちにそう伝えました。「ファンのみなさんに、全力で変化球を投げているところを見てもらいたい」と。

翌日のスポーツ紙には《金子、異例の〝オール変化球勝負〟を宣言》という記事が出ました。このことで、多くの野球ファンの人たちに、オリックスの金子=変化球投手というイメージを持っていただいたと思います。

数年前からでしょうか、オールスターのマウンドにあがるエース級のピッチャーは、ストレートにこだわって勝負することが当たり前、それがオールスターという舞台なんだという雰囲気が強くなってきました。

例えば、阪神の絶対的なストッパーとして大活躍された藤川球児投手(現シカゴ・カブス)のように、ストレート勝負を宣言して、そのストレートでパ・リーグの強打者を抑えられるようなピッチャーは特別ですが、僕にはできません。

もちろん、ストレートをただ投げるだけならできますが、それで抑えられるかというと、僕のストレートではセ・リーグの強打者たちを抑えられない。大げさではなく、そのイニングを終わらせることができなくなってしまいます。

選手間投票でオールスターに選ばれたとき、その喜びと感謝の気持ちをファンの人たちにしっかりと伝えるためにも、僕は自分の持ち味を最大限発揮しようと思いました。

ストレートに自信のあるピッチャーでも、シーズン中はストレートだけを投げることはありえません。でも、普段できないピッチングができるのも、オールスターという特別な舞台の魅力です。もちろん、僕もシーズン中は変化球だけでは抑えられませんが、オールスターだったら、ぜんぶ変化球で勝負するのも「あり」だな、と。

そもそも「人と同じことをしても、つまらない。人と違うことをしたい」という発想が、いつも僕の心の底にはりついているのです。

自分の性格を自己分析すると、あまのじゃくと言っていいかもしれません。

チームメイトやメディアの人たちから「変わってる」とよく言われるのですが、その“他の人とは違う発想”を明確に意識したことが、僕がプロ野球の世界でエースと呼ばれる存在になれた大きな要因の1つだと思います。

どういうボールを投げれば、打者に打たれないのか。 

そのテーマと向き合い続けた結果、他のピッチャーとは違う、自分だけにしかない価値観を見つけることができたのです。

全球変化球宣言をしたのですから、変化球に絶対的な自信を持っていると思われた人も多いかもしれませんが、それは違います。僕には自信があるから、変化球を投げるという意識はありません。

ストレートだけでは抑えられないから、変化球をたくさん投げるしかない。自信を持っているのではなく、打者を抑えるために、必然的にいろんな変化球を投げ分けているのです。変化球をたくさん投げることで、ストレートを打ちづらくしているという言い方もできるかもしれません。

オールスターでは宣言どおり、3人の打者に対し、すべて変化球で勝負しました。

パ・リーグの先発投手を務めた大谷翔平投手(北海道日本ハム)が史上最速となる162kmのストレートを投げたことが、大きな話題になりました。

そのインパクトが強かったぶん、あとを受けてマウンドにあがった僕の対照的な“全球変化球勝負”も注目されたと思います。確かに大谷選手はすごい投手ですが、僕は僕でオールスターのマウンドをじゅうぶん楽しむことができました。

とりわけ、雄平選手(東京ヤクルト)に投じた2球目のカットボールは、初めて投げたボールでした。ダルビッシュ有投手(シカゴ・カブス)のカットボールをイメージして、下から上にボールが少し浮くような感覚で投げてみたのです。それまで投げたことのなかったボールで空振りをとれたのですから、ピッチングとは不思議なもので、だからこそ、面白いのです。

オールスターでも僕のボールを受けてくれたチームメイトの伊藤光は「オールスターを練習台にするとは」と驚いたそうですが……。

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「僕は最初から選ばれた才能を持つ投手ではありませんでした」

著者紹介

金子千尋(かねこちひろ)

プロ野球選手・投手

1983年生まれ。長野商業高校、トヨタ自助車を経て、2004年自由枠でオリックス・バファローズに入団。右投げ左打ち、投手。08年に初の2けた勝利(10勝)をマーク。10年・14年に最多勝、13年に最多奪三振、14年に最優秀防御率のタイトルを獲得。特に14年は16勝5敗、防御率1.98という圧巻の投球を披露し、シーズンで最も優れた先発完投型投手に贈られる沢村賞を受賞。「日本一の投手」の呼び声も高い。

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