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「2%+2%」で財政再建をめざせ

2011年07月11日 公開

飯田泰之(駒澤大学准教授)

増税の負の影響が支配的に

 小用あって税務署に足を運ぶと、その壁には昨年度の税を考える週間に行なわれた「中学生の税についての作文コンクール」優秀作品がポスター掲示されていた。文章もみなセミプロ級で、卒論を控えたうちの学生に文章術の指導をお願いしたいくらいである。さらには財政規模を表わす際に通常用いる国民負担率(租税負担+社会保険負担)ではなく、主催者である国税庁の管轄下にある租税の負担率によって国際比較を行なうなど、省庁間の垣根にも十分配慮して記述を進めている作品もある。

 ちなみに、最近の中学生はみな少子高齢化による財源不足を埋め合わせるために増税が必要で、その増税は消費税増税で行なうべきと考えているらしい。中学生の能力に感銘(?)を受けつつも、なんだか割り切れない気持ちで税務署を後にした。

 民主党は6月20日に「社会保障の抜本改革調査会」の総会を開き、2015年度までの消費税率の10%への引き上げを含む最終案の党内調整を試みたが、党内からの反発は根強く、意見のとりまとめはできなかった。コンクールの受賞作品ほどには民主党の議員の意見は画一化されているわけではないという点に、胸をなで下ろした。

「財政再建には増税。増税は消費税」という方針は一部正しく、おおむね誤りである。財政再建を増税だけで達成することはできない。増税はむしろ税収の減少を通じて財政状況を悪化させる可能性がある。とくにデフレと、それによるゼロ金利状況において緊縮財政の景況への悪影響は大きい。

 変動相場制下のマクロ経済を考える際に注意しなければならないのは、マンデル・フレミング効果である。ちなみにマンデル・フレミングモデルそのものは経済モデルとしてはやや時代遅れになってしまったが、同モデルのインプリケーションは現代的なモデルにおいてもそれほど変わるものではない。

 通常、マンデル・フレミング効果は「変動相場制下の財政支出拡大は、金利上昇による通貨高に相殺されるため無効である」という形で教えられる。これをまったく逆立ちさせても話は同じだ。財政の引き締めによる悪影響は、金利低下とそれによる通貨安を通してその一部が埋め合わせられる。

 しかしながら、現状のゼロ金利状態では金利低下による引き締めショックの緩和は期待できない。そのため、増税の負の影響が支配的となる。与謝野経財相は「デフレの定義自体が決まっていない。消費税引き上げの時期とデフレを相関させること自体が相当ではない」(6月15日会見)というが、まったくの誤りである。増税の負担はデフレ・ゼロ金利状態にあるか否かでまったく異なる。消費税引き上げは、デフレからの脱却を条件としないかぎり、財政再建に寄与できない可能性が高い。

 ちなみにデフレの定義も、若干の差があるものの「継続的物価下落」という点で一致しており、どの機関の定義に照らしても日本がデフレであることに変わりはない。

危うい混同

 財政再建を考える際には、現時点でのプライマリーバランス赤字と、今後の社会保障関連支出に分けて考える必要がある。

 現時点でのプライマリーバランス赤字の解消は(財政支出の伸びを2%以下に抑えたうえでの)2%経済成長と2%のインフレ下で達成可能である。抜本改革調査会の会長である仙谷由人氏は、増税なしでの財政再建論に対して「10%もの経済成長があるなんて経済理論がどこにある」と息巻くが――これは成長の累積を無視した議論だ。たしかに今年10%の経済成長を達成することができれば、1年少々で財政再建は達成されるだろう。しかし、それは不可能だ。ならば名目4%成長を数年間、または名目3%成長を5年以上維持すれば、累積値で20%近い経済成長が達成可能である。プライマリーバランスの改善にはそれで十分なのだ。

 増税が必要とされるのは、今後の社会保障費負担増加に対してである。社会保障費というと焦点がぼやける。ここで問題になっているのは、格差や障害への対応の話ではないからだ。むしろ医療費・年金問題というべきであろう。問題は明確に定義され、適切に分割されなければならない。医療・年金支出に適する財源は、経済的に余裕のある高齢者から徴収可能な消費税である。その意味で、現在の財政状況の改善のためにではなく、将来の財政負担に対しては消費税を充てるのが望ましい。

 現在、民主党のみならず自民党も、その執行部は現在のプライマリーバランスと将来の医療・年金支出を混同したままに、デフレという特殊状況を考慮せずに増税へと進もうとしているようだ。これまで述べてきたように、この方針はきわめて危ういことに気づいていただきたい。


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