古田敦也が実践していた「スランプの抜け出し方」
2016年04月20日 公開 2020年03月12日 更新
なぜかいつもの結果が出ず、成績がどんどん下がってしまう。なんとかしなければと焦れば焦るほど、スタイルが崩れてうまくいかなくなる……この状態からいかに脱却するか。
※本稿は、古田敦也著『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)より一部抜粋編集したものです
焦った時ほど落ち着いてみる。打ちたい時こそ基本に帰れ。
実は僕自身は現役時代、どん底のスランプにはまるということはあまりありませんでした。キャッチャーとして、相手をスランプにはめてやろうという意識が強かったのが大きいかもしれません。
僕にはスランプのロジックがある程度わかっていました。スランプには原因があるものです。野球におけるスランプとは「打てなくなる」ということだと思います。
毎年打率3割を打つような実力ある選手が開幕から1、2か月、どうしたことか、.250、.230とどんどん落ちていき、挙句2割を切ってしまうなんてことがあるわけです。スランプの深みにはまっていく大きな要因が、この「打率」というファクターなのです。
野球選手の評価は良くも悪くもこの打率に左右されてしまいます。毎日スポーツ新聞には打率ランキングが大きく紙面を割いて掲載されています。
当然3割を打つような選手が2割そこそこで低迷していると、それが紙面でわかりやすく掲載されてしまい、否が応にも意識させられてしまう。
仮に見ないようにしていても、今ではご丁寧に各球場で電光掲示板に、.210とか、.190などと出てしまう。3割後半、4割近く打っている人にとってみれば誇らしいことでしょうが、打てていない人にとっては恥ずかしいことこの上ない。
まして2割を切ろうものなら、心無いコーチから「お前そろそろ身長だぞ」などと言われてしまう。プロ野球選手はだいたい180センチ前後ありますから、打率が2割を切ると、本当に自分の身長と数値が変わらなくなってきます。
もっと酷くなると、「お前体重まで切る気か?」などと揶揄されてしまいます。それほど、この打率の数値に敏感なのですが、悪くなればなるほど、打たなくてはという心理が強くなり、余計に打てないボールにまで手を出していくという悪循環にはまっていってしまうのです。
この打率という数値は、とにかくヒットを打たないことには上がってくれません。つまり当たり前ですが、四球を選んでも上がらないのです。そのため「どうにかして打たなきゃいけない」という焦りが生じてくるのです。
キャッチャーの仕事として、僕は開幕間もない時期には相手チームの主力選手の打率を常に調べていました。開幕からどうも乗り切れないでいる選手というのは打率が上がらず、とにかく早く打ちたいという心理が強く働くものです。
こういう打ちたがっている選手に対して、甘いところへストライクを投げる必要はありません。少々のボール球でも手を出してくれる可能性が高いのです。さらに、打率を上げたいので四球で塁に出るという意識も薄い。そういう選手をどんどん追い詰めていくのがキャッチャーの仕事です。
裏を返せば、スランプになったのは自分の調子だけが原因なのではなく、対戦相手に誘導された結果なのかもしれない、ということです。自分が気付かないうちに嵌められている可能性があるので、それを疑ってみると脱出できるかもしれません。
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調子が良いときこそ「隙きや綻び」がないか警戒する