何より恐ろしいのは北朝鮮の生物化学兵器を搭載したミサイルだ
2018年02月23日 公開 2022年11月02日 更新
小さく遠くなってしまう日本
2017年12月、私は東京にいた。街にクリスマスのイルミネーションが輝いていた頃、ウオール街の若い優秀なアナリストと寿司をつまんだ。ニューヨークにある彼の投資銀行の支店が近いこともあって、丸ビルの最上階にある老舗の寿司屋を選んだが、窓から見下ろす東京の街は私がこれまで訪れたことのある世界のどの街よりも輝き、美しかった。
寿司が好物というこのウオール街の若いアナリストは、日本と中国の企業の業績を調査するため出張してきたのである。彼は豊富な情報と冷徹な分析力によってウオール街でもめきめきと頭角を現していた。日本酒を口にし、刺身から始まって寿司をゆっくりと味わっていた彼が、何気なく指摘した2つの点に私は慄然とした。
「日本への投資はこれから数年が限度ですね。日本はあらゆる意味で世界から遠くなり、小さくなっていると世界の投資家は思っていますよ」
彼は日本が世界のどの国よりも早く老齢化しているにもかかわらず、老齢化社会を維持するための対策を、経済的にも社会的にもうまくとっていないという懸念を持っているようであった。
中国については、中国政府の不法な国営企業体制が結局、世界とうまく妥協することができず、中国経済との関わりを深めている日本経済には、先行きあまり希望が持てないと述べた。
彼は老舗の寿司を楽しみながら、驚くほど的確に日本と中国の現在の状況を説明し続けた。中国について彼はこう言った。
「中国のことを欧米の投資家は誰も信用していない。アメリカやヨーロッパの金融機関は中国の資金で儲けようとはしているが、中国に自分たちの資金を投資するつもりはまったくない」
この日の若いアナリストの指摘は、日本が世界からどう見られているかをよく示している。アメリカの経済が驚異的とも言える拡大を続けているため、その影響を受けて日本や中国の経済や金融市場も、これまでにない活況を呈している。
しかしながら、アメリカやヨーロッパの投資家たちは、そうした世界的な好景気のなかで、日本と中国を遥か離れた遠くの現象であると考えている。こう言い切ってしまうと、日本でいまもてはやされている楽観的な日本論とまったく相容れないことになる。日本の人々にとってはあまり考えたくない状況であろう。
現実問題として見ると、すでに指摘したように、中国経済はバブルが崩壊したあと、自分勝手な金融政策、すなわち低金利政策と不明確な通貨増大政策によって、表面的な辻褄を合わせているだけである。中国経済の実態はまったく明らかではない。世界の投資家から見ると、確かに危うくて投資をする気にもなれない経済状態となっているはずである。日本については、ドル高に伴う円安によって輸出が増えているが、国内の経済体制は一向に改善されていない。企業や組織、そして政治が古い体制のまま続いているなかで、輸出だけが伸び、とりあえずは経済が良くなっているように見える。このため「世界が日本経済を見習っている」などという思い上がった評論や考え方が横行しているが、友人のアナリストが指摘するように、日本は世界から遠くなり、小さくなり続けている。彼は最後にお茶を飲みながらこう言った。
「日本の経済界の人々に会うと、まるでバブル経済が一段落してしまったような疲れが目につく。経済が拡大しているというエネルギーではなく、円安という現象によってバブル的に経済が大きくなり、いまやそのバブルが終わってしまうのではないか、という恐れからくる疲れを感じているようだ」
こうした彼の考えには私も納得した。いま我が国では円安の問題があまり論議されていない。その最大の原因は、現在起きている現象は円安ではなく、ドル高であるからだ。この点については少し説明が要ると思う。
アメリカではトランプ景気が、まさに歴史始まって以来の大型減税によってさらに続くと思われる。しかしながら、そうしたアメリカ経済が抱え込んでいるもっと大きな問題は、オバマ大統領がつくりあげた財政赤字を中心とする、氷山のように危険きわまりない大赤字である。
この氷山の実体は、アメリカ政府が発行している10年、30年の連邦債であり、高い金利によって外国から集めている資金である。世界中から資金を集め続けなければ、現在の赤字財政を維持することができない。そのためにはドルを安くすることなどとてもできないのである。ドルを高くし続け、世界からの資金を集めなければならない。この結果が円安であり、日本経済の好調の理由となっている。
こうした、いわば危うい状態の日本経済を破壊する恐れがあるのは、朝鮮半島における戦争であり、日本本土を襲う北朝鮮のサリンやVX神経ガスを搭載したミサイルである。
2018年1月の初め、年が明けてすぐ、ワシントンにあるアメリカの陸軍大学の研究所が北朝鮮のミサイル戦略に関する研究結果を発表した。そのなかで、はっきりと指摘されているのは、一発のVX神経ガスを搭載したミサイルが東京に撃ち込まれれば、100万人の死傷者が出ることである。
この報告はアメリカのマスコミがあまり大きく取り扱わなかったところから、日本でもあまり注目されていない。日本の軍事専門家や政治家がもっぱら関心を持ち、懸念しているのは、北朝鮮の核兵器を搭載したミサイルが日本本土に撃ち込まれることである。それに備えて避難訓練が行われるという話もあるが、現実の被害として考えると、核兵器よりも忌まわしく、恐ろしいのは生物化学兵器なのである。
核爆弾による被害について日本では、放射能による被害だけが指摘されているが、実際には熱と爆風による被害のほうがより深刻である。このことは広島と長崎のあと実施されたアメリカ軍の調査でも明らかになったことだが、どうしたことか、我が国では放射能の危険だけが先走りしている。
生物化学兵器の恐ろしさは、東京などの大都市に撃ち込まれた場合、核爆弾よりも避けるのが難しいことである。日本政府は核攻撃に対する避難訓練を考えているといわれるが、生物化学兵器から逃れることはきわめて難しい。避難すること自体不可能と言える。
北朝鮮が生物化学兵器を開発し続け、シリアやイラクに輸出していたことはよく知られている。アメリカ国防総省の2016年8月6日の報告は、次のように述べている。
「北朝鮮はシリア、イラク、中国、あるいはアフリカの国々に対する生物化学兵器の供給国となっている。生物化学兵器は核兵器と比べると、重量的に軽く、初歩的なミサイルによって簡単に遠くへ運ぶことができる」
アメリカには核兵器による攻撃に対するほど、生物化学兵器、毒ガスによる攻撃に対して断固たる措置をとっていない、という前歴がある。2013年、シリア政府がサリンやVX神経ガスを使って反政府勢力を攻撃し、子供たちにまで大きな被害を与えたときに、当時のオバマ大統領は、何の対応策もとろうとしなかった。「シリアはレッドラインを越えた」などと口では攻めたものの、シリアのVXガス使用についてはまったく野放しの状況であった。