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なぜ神田昌典は「日本人(あなた)の未来は明るい」と言い切れるのか?

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント)

2012年01月19日 公開 2023年07月03日 更新

『2022―これからの10年、活躍できる人の条件』より 》

独立起業から、共立起業へ

 ある企業トップから本音を聞かされたことがある。

 「神田さん、いま企業が一番困っているのは、どうやって人員削減するかなんです。ただ退職させても、受け皿となる職がない……」

 それから私の頭の隅にずっと、この問いがあった。

 どうすれば希望退職を受け入れた社員が、能力を発揮できる仕事を創れるだろうか?

 再就職支援の専門家によれば、40代が再就職するためには、100社は検討しなければならない。仕事が見つかった場合でも、報酬が前給を下回ることがないのは、宝くじに当たるほど幸運なことだそうだ。しかも仮に再就職が成功して、定年まで勤め上げられたとしても、退職金、年金だけでは不安は残る。さらに現実的な問題として、家族のひとりでも健康を害したならば、そこで生活が一変してしまう40代の再就職環境は、決して楽ではない。

 一方、起業を志すものにとっては、これまでにない恵まれた環境が続いている。とにかく起業への壁が低くなっている。仕事はウェブでのやりとりで済んでしまうために、固定的な事務所はいらない。フリーエージェント同士が、プロジェクトごとにチームを組むほうがスピーディに進むから、社員を雇用する必然性はない。集客のために広告するにしても、いままでであれば予算30万円は必要だった。ところが、いまやグーグルにしてもフェイスブックにしても、数千円から広告できる。

 人類史上はじまって以来、最も起業しやすい環境に私たちはいる。再就職の面接に向けて、多大な努力をするぐらいであれば、自分の事業をスタートするほうがよほど簡単になっているのではないかと思えるほどだ。私には、このような認識があるものだから、リストラにあった40代から相談されると、「やりたいことがあるなら、独立を考えてみては?」と背中を押すことがある。相談者は、一瞬自分もできそうだと、将来像を描きはじめるのであるが、しばらくすると再就職活動をはじめてしまう。

 もちろん、住宅ローンをはじめとした、さまざまな事情はあるのだろう。しかし、やりたいことがあるなら、チャレンジできるような環境をなんとか創れないものかと思うのである。

 象の話がある。サーカスでは、象を逃げないようにするために、小象のとき、大きな杭につないでおくという。小象は逃げようとしても、杭を引き抜く力がない。このように習慣づけておくと、体が大きくなって、簡単に杭を倒せるようになったとしても、象はその場に引き留められたまま。どんなに杭を小さくしても、象は自由に動き回らないようになる。

 もはや多くの人が思っているほど、杭は大きくない。

 50代で天命に沿って生きるためには、40代の間に、ライフワークを見出す必要があるのだ。

 そこで、ここでは、時代の転換点において、どうすれ40代が一生情熱を傾けられる、そしてダイナミックに社会に貢献していけるライフワークに出会うことができるのか、その道筋を探ることにしよう。

時代のギャップがもたらす、40代のビジネスチャンス

 この間、びっくりしたことがある。ある雑誌のインタビューで、いままで確信を持っていた私の見解が、間違っていることに気づいてしまったからだ。

 私はいままで、これから衰退していく事業(成長カーブが下っていく事業)に乗り込むのは、下りのエスカレーターに乗り込んで、上に駆け上がろうとするもの。努力がまったく報われないので、止めたほうがいいという持論だった。

 記者は、私に尋ねた。

 「成熟期を過ぎた商品で、もはや手の打ちようがないという事例には、どんなものがありますか?」

 そこで、私はいつものとおり答えようとした。

 「いまの時代に、松下幸之助のような経営の天才がいたとしても、乾電池や電球は売れないでしょう」と。

 しかし、そこで言葉が詰まってしまった。

(待てよ。乾電池も電球も売れるじゃないか……!)

 ご存じのとおり、震災後、乾電池は爆発的に売れている。LED照明は、一大成長産業となっている。

 同様の理由で、以前、私は、「漬物石は、どんなビジネスの天才が頑張っても売れません」と豪語していた。しかし、少し工夫すれば、いまや漬物石さえ、売れるだろう。たとえば、『引き継ぎたい、おばあちゃんの自然食レシピ』というコンテンツを創って、料理教室やコミュニティスクール、主婦向けポータルサイト等とタイアップ。自然食に関心の高いコミュニティを作って、究極の漬物を作るのに最適な、こだわりの漬物石を販売する。自然食に関心が高い人にとっては、自然食を広げていくというライフワークになる可能性すらある。

 私は、考えた。なぜ数年前までは、どんなに頑張っても売れなかったものが、いまは売れないものがないほどになってきているのか?

 答えは、明らかだった。

 新しい時代に、シフトしはじめたからだ。

 時代が動くということは、いままでの日常との間に、ギャップが生まれるということである。そしてギャップが大きければ大きいほど、そこには大きなニーズが生まれる。消費者が求めるものと、市場で提供されている既存商品が異なってくるからだ。先ほどの例で言えば、手軽に食べられるファストフードが、健康を考えるスローフードになり、また単に明るければよかった電球が、省エネと耐久性が優れていなければ話にならなくなった。

 つまりいま、不景気だとは言うけれども、実は、至るところにビジネスチャンスが溢れている。

 新しい時代へ向かう中で、大きなギャップが至るところに開いている。ビジネスは、その橋渡しをしていかねばならないのである。

 では、この環境において、40代にとってのビジネスチャンスとは何か?
 40代の経験を生かして、どのようなギャップを埋めることができるのか?
 

 結論から言えば、40代のビジネスパーソンの多くが、これまで組織の中で働いてきた経験を踏まえると、今後、組織を側面から支援するサービス ― とくにイノベーションとホスピタリティを提供する役割が、生まれてくるのではないかと、私は考えている。

 なぜなら、繰り返し言っているように、いま日本の組織は、一斉に硬直化。新しいアイデアが生まれてきても、それが潰される。現場は、動きたくても動けない状況にあり、それが慢性病になってしまっている。

 しかし、このままの状態が長続きするはずがない。おそらく企業は、この慢性病の原因を突き止め、今後、組織運営の方向を修正しだすと思うのである。

 動けなくなっている会社を、動けるようにすること ― それはいままで組織で経験を積んできた40代にしかできないことであり、また、そこに40代にとっての、ライフワークを見つける鍵があると、私は考えるのである。

 

神田 昌典

(かんだ・まさのり)

上智大学外国語学部卒。大学3年次に外交官試験合格。大学4年次より、外務省経済局に勤務。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。その後、米国家電メーカー日本代表を経て、経営コンサルタントに。

多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本一のマーケッター」に選出されている。ビジネス書、小説、翻訳書の執筆に加え、ミュージカル、テレビ番組企画など、多岐にわたる創作活動を行う。

主な著書に『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『あなたの悩みが世界を救う!』『全脳思考』(以上、ダイヤモンド社)、『成功者の告白』『人生の旋律』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)、『お金と正義』(PHP研究所)、翻訳書に『ザ・マインドマップ』(ダイヤモンド社)、『あなたもいままでの10倍速く本が読める』(フォレスト出版)等、累計出版部数は200万部を超える。

 

◇ 書籍紹介 ◇

2022―これから10年、活躍できる人の条件

神田昌典 著
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