沈む欧州、崖っぷちの米国、そして日本が“独り勝ち”?
2012年02月06日 公開 2023年01月05日 更新
「想定外」という前に、想定せよ!と、評論家の日下公人氏は警鐘を鳴らす。
国債ショックの波がヨーロッパを襲うなか、日本経済を支える「国力」とそれを生かすアイデアとはどのようなものなのか。
※本稿は、日下公人著『「超先進国」日本が世界を導く』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
世界中が日本に助けを求めてくる
2012年以降、国際情勢はどうなるか。ひと言でいえば、「世界中が日本に助けを求めてくる」である。
アメリカの影響力が弱まっていることは明らかで、深刻な財政赤字を抱え、ドル安を容認して輸出増大に躍起になっている。
TPPへの日本参加を求めたのも、日本を使って自国を立て直そうという意図で、オバマ大統領が自由貿易の発展よりも雇用増大を国内向けに強調したのはその現れの1つである。さらに今後は、赤字解消のために国防費にも手をつけざるを得ず、とてもユーロを救済するどころではない。
そして弱体化がより顕著なのは、ユーロ圏諸国である。そもそも欧州連合(EU)は日本やアメリカに対抗するマーケットの共同体で、そこに根本的な弱点があった。財政規律がない国に対して規律を強制する手段を用意していなかった。
第二次世界大戦後、日本がアメリカと肩を並べるまでに急成長し、ヨーロッパ市場は霞んだ。そこでスケールメリットだけを考え、市場を統合しさえすれば世界三大マーケットの一角を成せると、とにかく加盟国家を増やしたことが問題なのである。
いまイタリアやギリシアなどは財政破綻寸前で、「カネのある国が支援してくれ」になったが、域内で唯一その力のあるドイツは拒んでいるし、イギリスもそっぽを向いている。このままでは確実にユーロは崩壊するだろう。
EU内で解決できないとなれば、次はIMF(国際通貨基金)を頼るしかないが、最大出資国のアメリカには資金を出す余裕がなく、頼みは日本と中国である。中国に頼めば「出資ならする」「ポストを準備しろ」「担保をつけろ」といった条件を必ず付けてくるので、EUとしては「何も要求しない日本にお願いしたい」となる。
その中国は、日本の技術を喉から手が出るほどほしがっている。とはいえ、「お金を払います」とはいえない。なぜなら、国内では江沢民一派と胡錦涛一派の政治闘争がいまも繰り広げられており、カネで技術を買えば一気に評価が下がる。大金を払わず、いかに技術を取(盗)ってくるかが問題という変わった国柄なのである。
わが国は中国に対し、「紳士的に振る舞えないのなら投資をしない」といえる立場である。それをいわせないために、中国は「友好親善」という笑顔と、「日本軍国主義の復活」という怒りの顔の2つを使い分けて日本を揺さぶろうとする。首相の靖国参拝への異議も本音はそこにある。もういい加減に見抜かなければいけない。
「海洋国家」として見ればもともと大国だった
このように世界は日本が頼りだが、そこで日本はどのように対応するのか、である。
戦略とは「誰に寄り添えばよいのかではなく、相手を自らの望むところに誘導すること」であるのだから、相手が擦り寄ってくるときはチャンスであり、こちらの言い分をどんどん主張すればよい。まずは救済融資の担保には何を取ればよいかを、あらかじめ考えておく。
先の例でいえば、中国に対しては「技術がそんなにほしいのであれば相応の支払いを」とスマートにいえばよい。 そういうと、「そんなことが本当に通用しますか?」といった反応が日本国内から返ってくる。あるいは、「中国が反発する」と心配する人もいる。
劣位戦の習い性で、実際にやってみる度胸がないのが「戦後派」の特徴である。その「戦後派」は大震災を機に日本社会から後退していくから、これからの日本は優位戦を戦える人材が出てくる。これは日本にとって明治開国以来初といってもいい。
そもそも日本は、世界第1位の軍事大国アメリカの同盟国である。そのうえ経済大国なのだから、主張が通らないと考えるほうがおかしい。むしろこれまでも、世界からは「なぜ日本は国力に見合う主張をしないのか」と思われていたのである。
しかし、それが「戦後派」の日本人にはわからなかった。国土の狭小さゆえにか、あまりにも自身を小さく見る癖があった。謙虚にすぎるのである。
私にいわせれば、それは冷静な分析に立ったものではなく、一種の趣味のような態度で、ドイツやフランスなどのヨーロッパの列強が、相互の国力比較をまず領土面積から始めたのを見習ったにすぎない。東西南北に広がる海洋は広大な勢力圏で、進出可能な領域はとても広い。日本は「海洋国家」として見れば、もともと大国なのである。