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就職が人生を全うすることなのか? 養老孟司が社会から外れている人に注目する理由

養老孟司(解剖学者)

2018年06月21日 公開 2022年08月08日 更新

就職が人生を全うすることなのか? 養老孟司が社会から外れている人に注目する理由

就職状況は売り手市場らしいが、標本作り一流の青年には収入がない

メディアが就職状況を伝えていた。内定率は八〇パーセントの半ばくらい、売り手市場だという。若者の人口減で、こういうことになっているらしい。

身の回りを見渡すと、まったく違う状況が見える。

虫が好きで、標本作成が大好き。そういう三十代の男がいる。親の代から勤務していた工場も辞めて、その道一筋。標本を作らせたら一流だが、そんなものを専門に作る人はほとんどいないから、世界一かもしれない。

彼の問題は何か。当たり前だが、収入がない。

しょうがないから、ネットで広告をして、世界中からお客を探そうか、などと考えている。ただし、うっかりうまくいって、お客が増えたとすると、自分一人では間に合わない可能性がある。

そんな心配までしているから、なかなか仕事が立ち上がらない。

自分で農業法人を立ち上げた男もいる。

元来は土建屋さんだが、仕事が環境破壊だというので、会社を辞めて有機農業に踏み切った。意気に感じて集まった若者が六人いるが、農業だから食べものには困らない。

ただしお金がない。

だから土建屋時代のコネも使い、あれこれ仕事を請け負って、それで現金を得る。この男も虫が大好きで、だから環境に敏感なのである。

専門家もいる。一流大学を出て、科学博物館で手伝いをしていたが、いまは大学に勤務している。ただし契約は一年、親分である教授の研究費が切れると給料が無くなる。

私が見るところ、尋常の学者ではない。きわめて優秀。ただし専攻分野が特殊なので、学界でも一般性がないと見なされてしまう。

こういう人たちと日常お付き合いをしている。これでは世間の常識と折り合うはずがない。

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