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生き方

シリコンバレーの小さなオフィスからイサム・ノグチを追いかけた

深澤直人(プロダクトデザイナー)

2018年08月09日 公開 2021年05月11日 更新

シリコンバレーの小さなオフィスからイサム・ノグチを追いかけた

<< 待望の新モデルが発表され話題になっている、au/KDDIの携帯電話「INFOBAR」。その生みの親であるプロダクトデザイナーの深澤直人氏。

無印良品やイッセイミヤケ、ハーマンミラーなどの家電や家具、店舗デザインなどを手がけてきた。数々のプロダクトはMoMAにも収蔵されている。

その「シンプルさ」や「使い心地」にファンも多い深澤氏のデザインの背景にあるものとは?>>

 

平面より立体、データより「モノのかたまり」

今年の春に、『Naoto Fukasawa: Embodiment』という本を出しました。自分の作品集というのは10年ほど前に一度出しているんですけれども(『NAOTO FUKASAWA』2007年)、そのあとの約10年間のプロジェクトを収めています。

本ができあがってみると、電子的な情報とは深度が違う。ページをめくる呼吸を、1回、2回……と自分で何回も確かめて、いいものだなあと。「モノのかたまり」として、この作品集自体が作品という気がしました。

この5月にはイサム・ノグチ賞というのをもらって、授賞式でニューヨークに行ってまいりました。

そのときに、「僕は彫刻家になりたかったんだ」ということを思い出した。絵画などの平面ではなくて立体物を作りたいという気持ちが昔からあったんです。

授賞式の会場はイサム美術館だったんですが、やっぱりこの人はすごい人なんだなとあらためて思いました。

僕は30代のときずっとアメリカで生活してまして、そのときにイサム・ノグチのことも勉強した。日本の美学に飢えていたというか、アメリカに行ったがゆえに、日本の美しさってどういうものなんだろうと考えていました。

岡倉天心の茶の本とか新渡戸稲造の武士道の本とか、日本の美について外国語で書かれている本がおもしろくて、読みまくっていました。イサム・ノグチはそのころから憧れて続けてきた一人のヒーローといっていい。

式のスピーチで、生意気な言い方になるかもしれないですけど、僕はイサム・ノグチさんを尊敬して勉強してきたので、この賞をもらえるのは必然的なことかもしれません――と言ったら、みんなすごく笑ってくれました。

新しい作品集の序文は、僕がアメリカのID TWO(現IDEO)で働いていたときの同僚で、認知心理学者のジェーンさんに書いていただきました。

彼女は僕の隣の席でたどたどしい英語を聞いてくれるところからのつきあいで、今回書いてくれた文章を読むと、僕もほかの同僚たちもみんな懐かしがって、「こういうときがあったなあ」って。

カリフォルニアの、シリコンバレーと呼ばれて盛り上がっていく黎明期、アップル社の小さなコンピュータがオフィスに一台しかない時代です。

ジェーンさんも授賞式に来てくれて、イサム・ノグチの作品を見ながら「一体この人はどういう人なんだろうね、なんでこんなに素晴らしいんだろうね」という話になった。そうしたら、彼女はさらっと「いい人間になった人だから」と言ったんです。

僕はその言葉に感動して。さすがだなと思いました。

神になったとか言っちゃうと、ちょっと言い過ぎじゃないですか。アートをやり通すってことは、いい人間になるということなんだ。

 

『Naoto Fukasawa: Embodiment』の表紙

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