「年齢制限あり。60歳以上」 シニア採用で経営改革
2019年01月23日 公開 2019年01月23日 更新
高齢者の「働きたい」意識に呼びかける
どうすれば設備のフル稼働が実現できるか頭を悩ませていた加藤社長のもとに、中津川市にキャンパスがある中京学院大学から、あるデータが届けられた。それは「中津川市在住の高齢者意識調査」で、知人の講師から「アンケート結果を見てほしい」と連絡があったのだ。それを見て、加藤社長は「ハッとした」と言う。働きたいという意欲を持っている高齢者が、地元にたくさんいることに気づかされたのだ。調査では、中津川市には就労していない高齢者が約5割いること、また年金をもらっているのに、仕事がないことを不安に感じている高齢者が6割以上もいることが明らかにされていた。
働きたいと思っている高齢者なら、休日出勤の求人にも応えてくれるかもしれない。そう思った加藤社長は、広く一般家庭に配布される新聞の折り込みチラシで、仕事を求める高齢者に呼びかけようと考えた。そこで知り合いのコピーライターに考案してもらったのが、先ほどの「意欲のある人求めます。男女問わず。ただし年齢制限あり。60歳以上の方。」というキャッチコピーだ。サブコピーは「土曜・日曜は、わしらのウイークデイ。」。高齢者の場合、平日は趣味や農作業で忙しいが、土日なら時間が空いている。だから休日に就業してもらいやすいと考えた。その狙いが、見事に的中したのだ。
「教える若手」と高齢者とのせめぎ合い
工場を動かすには、最低でも10人の従業員が必要となる。加藤社長は10人を目安に募集を行なったが、予想に反して100人という大量の応募者が集まった。ところが、そのほとんどが工場未経験者。技能やスキルで採用する人を選ぼうとしても、それができない。「それなら人柄で選ぼう」。加藤社長は、より意欲的で前向きな姿勢を持つ高齢者を、面接で選出していった。その結果、14人に採用通知を出し、シニアによる土日の工場稼働がスタートした。
だが、ここからが苦労の本番だった。いかに意欲が高いとはいえ、部品加工にかかわるのは全員が初めて。仕事を覚えてもらうという最初の難関が、なかなか突破できなかったという。「部品加工の世界は、材料1つとっても英語の品名が並んでいます。例えば、ブラケット、プレスなど。高齢者の方にとって、これがまず大きなハードルでした」。
もう一つの大きな課題は、「年下の社員が、年上のシニアを教える」という点だ。高齢者スタッフは新人といえども、若手社員にとっては人生の先輩。どうしても遠慮や違和感が生じてしまう。だが、仕事はきちんと覚えてもらわなければならない。小さなミスが重大な問題や事故につながりかねないからだ。
「取引先が評価するのは、われわれがつくった製品の品質です。高齢者がつくろうが誰がつくろうが、一定の品質は必ず備えていなければなりません。それに、ケガなく安全に作業してもらうためには、ルールをしっかり守ってもらわなければなりません。そういうシビアな面をどう実現するかで、現場の社員たちはずいぶん苦労したと思いますよ」
片や意欲にあふれた高齢者、片や仕事を覚えてもらうことに苦慮する若手社員。最初はそのせめぎ合いだったと加藤社長は振り返る。
しかし、やっているうちに工夫が生まれるものだ。高齢者は高度な判断やNC機械(数値で制御される工作機械)のプログラミングは苦手だが、箱詰めや接着剤を塗るといった簡単な作業なら根気強く取り組む。そうした特性を活かすため、誰にでも取り組めるルーティンな「定型業務」と、臨機応変な判断が必要な「判断業務」の切り分けを実施。高齢者にはまず定型業務から取り組んでもらい、だんだんと難易度を上げることで、機械を扱うような作業もできるようになっていったという。
一から十まで高齢者に任せるのではなく、難しいところは若手社員が、そうでないところは高齢者スタッフが担うことで、コストを抑えながら生産性を上げることも可能になったと加藤社長は語る。