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社会

人類の祖先は、毒を食べてエネルギーを得るモンスターだった!?

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月08日 公開 2023年01月10日 更新

古代の微生物たちの復讐が始まった?

植物は、酸素を排出し地球環境を激変させた環境の破壊者である。

しかし現在、その地球環境が今、再び変貌を遂げようとしている。今度は、人間が放出する大量の二酸化炭素がその原因だという。

人類はものすごい勢いで石炭や石油などの化石燃料を燃やして大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させている。そして私たちの放出したフロンガスは、かつて酸素から作られたオゾン層を破壊している。遮られていた紫外線は再び、地表に降り注ぎつつある。そして、人類は地上に広がった森林を伐採し、酸素を供給する植物を減少させている。

生命38億年の歴史の末に進化の頂点に立った人類が、二酸化炭素に満ち溢れ、紫外線が降り注いだシアノバクテリア誕生以前の古代の地球の環境を作りつつあるのである。

酸素のために迫害を受けた古代の微生物たちは、地中の奥深くで再び時代が巡ってきたことをほくそ笑んでいるだろう。

 

数億年の変化が100年単位で進んでいる

38億年の地球の歴史の中で、地球環境は大きく変化してきた。それに比べれば、人間のやっている環境破壊など、ほんの小さなことかも知れない。

シアノバクテリアが出現する以前、地球の歴史で、最初に光合成を行う微生物が生まれたのは、35億年前と言われている。やがて、古代の海に生まれたシアノバクテリアが、酸素を撒き散らし、オゾン層を作り上げるまでに生命の最初の光合成から30億年の歳月を費やした。さらに地上に進出した植物が酸素濃度をあげるまでに6億年の歳月が必要だったのである。

人類による環境破壊は、たかだか100年単位で引き起こされている。これは、光合成による地球環境の変化の100万倍以上のスピードだ。この変化のスピードでは、生物たちの進化が環境の変化に追いつけることはないだろう。そして多くの生命が滅ぶことだろう。

たとえ、いくらかの生物が地球に生き残るとしても、人類はこの地球環境の激変に耐えられるのだろうか。

もし、遠くの星から、宇宙人たちが地球を観測しているとしたら、人類のことをどう思うだろうか。自分たちを犠牲にしてまで、本来の古代の地球環境を取り戻そうとする健気な存在だと思うのではないだろうか。

『敗者の生命史38億年』(PHP研究所)より一部抜粋

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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