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「砂漠の狐」ロンメルがヒトラーと初めて出会った日

大木毅(おおきたけし:現代史家)

2019年04月22日 公開 2022年07月19日 更新

 

ヒムラーの面構えを好まず、ゲッペルスには共感

さて、こうして忠誠の対象となった総統ヒトラーに、ロンメルが初めて出会ったのは、1934年9月30日のことであった。この年のゴスラーにおける収穫祭に、ヒトラーが出席することになり、ロンメルの第3大隊に総統の護衛にあたるべしとの命令が下ったのだ。

ところが、式典の前に、ヒトラーを守るSS、親衛隊とのあいだに摩擦が生じた。護衛のために、ゴスラー猟兵よりも前方の列に立つと主張したSSに対し、ロンメルは、それならば自分の大隊を引き上げると応じたのである。

この件を聞いた親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラーと国民啓蒙宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスは、投宿していたホテルにロンメルを招き、昼食をともにした。

ヒムラーとゲッベルスは、ロンメルの抗議を当然のことであると認め、SSの提案は下僚が出過ぎた真似をしただけのことだから、すぐに撤回すると約束したのだ。

わが家に帰ったロンメルは、ヒムラーの面構えはそう好きになれないが、ゲッベルスは共感の持てる興味深い人物だと妻に話した。

のちに、ヒムラーがロンメルの仇敵となり、その一方でゲッベルスが彼の味方となることを考えれば、一種予言的な感想だったといえる。

しかし、ヒトラーとの初の接触は通りいっぺんのものだった。かつて、神聖ローマ帝国皇帝の居城だったカイザープファルツで行われた式典で、ロンメルは、猟兵大隊の儀仗隊を閲兵するヒトラーの数メートル背後にいたが、二言三言挨拶を交わしただけで終わったのである。

けれども、ロンメルにとって、国家元首と接したことは印象深かったらしく、今日までも残る彼のアルバムには、総統との会見の写真に加えて、この件を報じる新聞の切り抜きなどが貼られている。

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