片づけは、内省を深める絶好のチャンス
── 片づけ脳が身につくと、片づけが得意になる以外にもメリットがあると聞きました。詳しくお聞きしたいです。
片づけ脳がもたらしてくれるメリットは、会話が上手になる、観察力が身につく、集中力が上がるなど、多岐にわたります。なぜそんなにいいことづくめかというと、片づけを通じて内省を深められるからなんです。これが本書で伝えたかったもう1つのメッセージです。
── 内省を深められるのはなぜなのでしょう?
片づけの最中は、目の前にあるモノを捨てるかどうか判断したり、手を動かして整理したりしますよね。このとき、普段意識していない自分の判断基準が明らかになります。
見ないふりをして机の上に積み上げてきたものや、棚や箱にしまってきたもの。これらは、自分がたどってきた軌跡そのものといっていい。整理整頓をするときには、それを客観視することになります。
私も片づけを通じて自己理解が進んだ経験があります。片づけの本を書いておきながら、昔は片づけが大の苦手で……。思い入れがあるものをとにかくため込んでいました。
しかし、内省するうちに、ものを捨てられないのは、「自分の経験や成果がなくなるのではないかという恐怖があったから」だと気づいたのです。
内省は自分の理想に近づくための大事な時間でもあります。片づかないものを見ながら、「これからどんな未来にしていきたいのか?」と自問する。
そして、自分が望む未来と現状にギャップがあると感じたら、それを埋めるために「何をなすべきか」を選択していくのです。片づけというのはこのように、内省を深めて、自分の価値判断を効率よく磨く絶好のチャンスなんですよ。
── 片づけの見方が変わりました! 理想に近づけるという意味では、日本だけでなく欧米でも話題になっている『人生がときめく片づけの魔法』(著者:近藤麻理恵さん)と共通点があるように感じました。「こんまりブーム」については、片づけ脳の知見から、どうお考えですか。
あくまで私の見解ですが、『人生がときめく片づけの魔法』では、「こうだといいな」という自分の憧れにたどり着くために、そこから逆算して持ち物を取捨選択していく。
「ときめき」を基準に選ぶというのはこういう発想で、これに共感した人たちが、『人生がときめく片づけの魔法』の本のファンになったのでしょう。
「心がときめくかどうか」を取捨選択の基準にするというのは、脳番地の観点に立つと、喜怒哀楽といった感情を表現する「感情系脳番地」での判断を意味します。ただし、自分自身の感情って、自分ではなかなかわかりにくくありませんか?
── たしかにそうですね。
感情系脳番地は脳番地のなかでも鍛えることが難しい部分です。難しいという意味は、いろいろなきっかけや人との出逢いなどで、感情系が刺激される体験が必要になるということ。
ですから、時間がかなりかかるケースもあるわけです。「この先、いつときめくのだろう? ときめくのは3年後、いや5年後か?」と考えていると、ときめくまで片づけられない日々を過ごすことになる。そんな一種の矛盾をはらんでいるのです。
だからまずは、自分を理解するためにも、「片づけ脳」のトレーニングで自己認知力を高めておくといいですね。そうすれば自分の感情系がおのずと刺激され、「ときめき」がやってくる頻度とその「ときめき」の精度も上がっていくはずです。