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社会

「死んでしまいたい」と絶望感を吐露する人に、誰がどう対応すべきか?

河西千秋(精神科医)

2020年07月22日 公開 2023年09月12日 更新

 

マイナンバーの発展的な活用が自殺対策の鍵

私がもうひとつ必要だと考える対応の軸は、マイナンバー制度の発展的な活用である。

現状、日本では個人情報を電子化して行政と紐づけるといった仕組みが確立されておらず、マイナンバーカードを携帯している人も限られている。そういった不備が、コロナ禍における特別定額給付金の申請において露呈したのだ。

多くの先進国では、国民総背番号制度が普及しており、とくに、北欧においては国民のソーシャル・ナンバーによって、受療行動などの大量の保健医療データが管理されている。

スウェーデンの場合、ストックホルムとその周辺地域では、地域のかかりつけ医のあいだで患者データが共有されており、どこの診療所にかかろうが、患者の背景や治療歴・治療内容を把握することができる。

これらの国々では、社会の変革や、医療制度のイノベーションが起きた場合はもちろん、今回のようなパンデミックにおいても大きな効力を発揮する。国民全体の受療状況や治療内容、転帰、生存・死亡情報などについて、その前後のデータを解析することで、問題の所在や課題を明らかにすることができるのだ。

自殺問題は、社会情勢と人の精神、医療にまたがる複雑な問題であるが、デンマークでは、蓄積された莫大な医療データを解析するレジストリ研究が行われ、自殺問題への科学的視点からのコミットメントが可能となっている。

日本は、1998~2011年に国内の自殺者数が3万人を超え、最悪、3万4000人を上回る年もあったが、現在は2万人を切るところまで減少した。

この30%を越える減少は、海外でも成功例として捉えられている一方、保健・医療データをはじめ社会心理学的データを十分にもち合わせていないことから、自殺者数の増減の奥にある実態を解明できていない。

そのため、今後、自殺者数が大きく変動した場合にも、自殺原因の解析や課題抽出、施策立案のプロセスを科学的に進めることが難しい。とりわけ、日本では政治や行政に対する不信感がマイナンバー制度の普及に影響しているようである。

政府がいますべきは、個人情報管理の徹底と、マイナンバー制度が各方面で活用される場合のメリットについて、国民に真摯な説明を重ねることだ。

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