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大規模ショッピングセンターが消える?! 人口減少社会の新常態

河合雅司(人口減少対策総合研究所 理事長/作家・ジャーナリスト)

2020年09月11日 公開

 

日本最大の小売店もいつ消えるかわからない

「未来を見る力」を養うには、日常の風景を疑うところから始めることである。大規模ショッピングセンターを例に挙げよう。郊外を中心に、いまや全国どこでも見られるようになった。とりわけ店舗が少なくなった地域にとっては大概のものが揃う"頼りになる存在"だ。

だが、人口減少時代においても"そうした存在"であり続けられるのだろうか。

大型ショッピングセンターの将来を垣間見る象徴的な出来事が2019年9月に富山県で起こった。業界最大手のイオンの「イオンモール高岡」が増床オープンするにあたり、テナントとして入居している飲食店が新規のアルバイト店員を思うように集められなかったのだ。

複数の店舗で東京・銀座のアルバイト給与水準を超える「時給1500円」に引き上げて募集する事態になったという。飲食店以外でも、通常時より割増の時給で募集するところが見られた。

背景にあったのは人手不足である。近隣の大型商業施設も増床を進めていたことが、応募者の不足に拍車をかけた。こうした販売店員をめぐる悩みはイオンに限らず、どの大型商業施設でも起こる共通の話だろう。

これを大型ショッピングセンターの「未来」として人口減少に即した視点で捉え直したならばどうなるのだろうか。もちろん「人手不足は地方でも深刻なのか」などと感慨にふけっている場合ではない。

ここで気づくべきは、リニューアルオープン早々にアルバイトが集め切れないというのは、地域内の働き手世代が減ってきているということである。

働き手世代というのは、同時に消費者の中心層でもあるので、その層が薄くなってきているということは店舗を維持するのに最低限必要となる顧客数の獲得が今後困難になっていく、ということである。

すなわち、店舗数をどんどん増やしたり、売り場面積を拡大したりして売上高を増やしてきたモデルが転換点を迎えたということである。

拡大路線を続けようと無理を重ねていこうとしても、店員はもとより肝心な顧客を確保・維持できなくなればうまくいかない。決して各テナントのアルバイト募集の苦労話などではなく、大型ショッピングセンターの在り様に発展する問題だと考えるべきなのだ。

さらに異なる視点で考えるならば、時給を引き上げたことによる副作用である。当然ながら、同地域内の時給相場に少なからぬ影響を及ぼしたであろう。このとき、アルバイトの争奪戦が起こり、近郊の店舗からは「1500円も払ったら採算が合わなくなる」という悲鳴が聞こえてきた。

これからも地域内の働き手世代が減っていくことを考えると、恒常的にアルバイトの募集に苦労する状況が想定されるわけだ。もし、それを時給の引き上げで対応し続けようとするならば、競争についていけず撤退や廃業を余儀なくされる近郊の店舗も出てこよう。

それは結果として当地が不便なエリアとなることを意味する。人口流出が加速するという最悪の事態ともなりかねない。

 

大型ショッピングセンター誘致の大きなリスク

拡大路線から発想の切り替えが進まない現状においては、大型ショッピングセンターの勢いは衰えない。イオンの売り場面積だけで全国の百貨店(賃貸面積を除く)の総計を逆転する状況にあるという。

一方で、変化の予兆も見られる。大型ショッピングセンター同士の顧客獲得競争も激しく、敗れて撤退を始めたり、商圏の人口減少が著しい地区では空きテナントが埋まらなかったりという事例も見られるようになってきた。

インターネット通信販売(ネット通販)も客足を遠のかせる要因になっている。

大型ショッピングセンターへの来店者数の減少については、高齢化の影響も踏まえておかなければならない。郊外型の大型ショッピングセンターは高齢者にとって本当に使い勝手がいい店舗なのか、ということだ。

週末や数日に1回、郊外型の大型ショッピングセンターにマイカーで出かけ、大きなショッピングカートに次々と品物を入れ、大量購入するというアメリカ型の消費スタイルがベースとなっているが、こうしたスタイルはとりわけ一人暮らしの高齢者に合っているとは言えない。

第一、年齢を重ねると運転が難しくなり、郊外まで足を延ばすことができなくなる人が多くなる。しかも年をとればとるほど、一般的に消費欲は減退する。食品をたくさん買って冷凍冷蔵庫で貯蔵するにしても、余らせてしまったのではもったいない。

大型ショッピングセンターは、高齢者が買い物をするには広すぎて使い勝手がよいとは限らないのだ。大型ショッピングセンターもロケーションによっては、いつ地域から消えてなくなるかわからない時代に突入しているのである。

こうした大型ショッピングセンターを取り巻く環境の変化の予兆を無視するかのように、全国の地方自治体の中には、地域おこしの一環として、雇用も創出する大型ショッピングセンターの誘致に一生懸命なところが少なくない。

しかしながら、その進出は往々にして既存の地元商店に壊滅的な打撃を与える。地元商店街が勢いを完全に失ってしまった後に、大型ショッピングセンターまでもが撤退する事態に至ったならば、それこそ目も当てられない。

大型ショッピングセンターの撤退というのは、商店街に少しずつシャッターを下ろした空き店舗が増えていくのとは異なり、ある日、突如として何十という店舗が一斉に"消滅"するようなものだ。それこそ「商店の空白地帯」となれば、住民の流出は止められなくなるだろう。

大型ショッピングセンターはいつまでも存続する公共インフラではない。人口減少社会においては、「当たり前」の存在ではないことを認識しておく必要がある。

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