5歳児の大人を救う「3つの条件」
私が言いたいのは、この不遇な環境の中でも幸せになった人たちから学ぶことができる、ということである。では、具体的に何を学んだらよいのだろうか。
まず注目すべきは(1)に書いてあるように「特に才能はなかったが、この子たちは、持っている技能を効果的に使った」という点である。際立った才能があるかないかではなく、自分の持っている才能を使うことが幸せになった人々の共通性である。
それが幸せにつながる。だから、とにかく自分が持って生まれた才能がなんであれ、それを使うことである。ただ、ここで注意をしなければならないことがある。
自分の才能を効果的に使うというと、すぐに自分にフィットしたすごいことをすると考える人がいる。実業家になろうかとか、画家が自分の天職だろうかとか、考える。
そうではない。今日一日をきちんと生きる、ということが出発点である。今日一日をきちんと生きられない人はダメ。今日一日をきちんと生きているうちに、やがて自分の才能に気がつき、効果的な才能の使い方も分かってくる。
次に(2)にあるのは、信仰と祈りである。私たちは祈りを忘れてはならない。自分の信じること、あるいは信じたいことを心の中で祈るのである。崩壊した家庭に生まれても、彼らは心の支えをそうして求めたのである。
祈りで大切なのは、ただ祈ることで救われるのではない、ということであろう。祈ることの中で強くなろう、という心の姿勢である。自分の心を鍛えるために祈るのである。だから、祈ることで救われる。ただ神仏に祈るのでは意味がない。
そして(3)は、他人とは関係なく、趣味を持つことの大切さを教えている。趣味の世界に入れば、そこは自分の世界である。そこで心を癒すことができる。
よく、定年後に趣味は大切だということで、無理に趣味を持とうとする人がいる。しかし、何事も悲壮感はダメ。5歳児の大人は、つい何事も悲壮感でしてしまう。楽しく何かをするということである。
もし釣りを楽しくできれば、いつか趣味の釣りはプロ級になるかもしれない。釣りの研究者になるかもしれない。この3点は、5歳児の大人が幸せになるためにも大切なことである。あるいは条件と言ってもよいかもしれない。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。