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そもそも「緊急事態宣言」は必要だったのか? データから見えてきた“真の評価”

栗田順子(常磐大学看護学部講師)

2020年12月16日 公開 2020年12月16日 更新

 

そもそも緊急事態宣言は必要だった?

そもそも必要だったのか? データから見えてきた「緊急事態宣言」の本当の評価

ここまで、緊急事態宣言はあくまで必要であったという前提でお話ししてきました。必要であることは前提で、その自粛率を議論してきました。ここで振り返って、緊急事態宣言は必要だったかどうかを考えてみましょう。

結果的には、第1章でも確認したように、発症日で測った流行のピークは4月3日でした。

また、感染のピークは3月28日、R(t)のピークは3月19日でした。つまり、結果的にはピークを越えてから緊急事態宣言が出たことになります。

ただ、流行のピークは、第1章でも述べた遅れ報告や潜伏期間の分布に幅があるために、少なくとも2週間、完全に確定するには1ヵ月ほどの期間を要します。したがって、緊急事態宣言4日前の流行のピークは確認できなかったでしょう。

しかし、9日前の感染のピーク、16日前のR(t)のピークは、もしかしたら4月7日の時点で確認できていたかもしれません。事後的に評価することはフェアではないので、第1章での4月7日時点での流行状況を再確認しましょう。

上記の図のうち、棒グラフは流行曲線(発症日ごとの新規発症者数)を示しています。折れ線グラフは、線の太い順に、感染日ごとの新規感染者(一般に報道されている新規に陽性が判明した方ではなく、その日に感染した人、つまり数日後に発症するであろう人)、R(t)、R(t)の95%信頼区間を示します。

この図によると、R(t)のピークは3月中旬に確認できますが、R(t)<1 になるのは3月28日ごろ、4月7日時点の10日ほど前です。潜伏期間は14日ほどあるので、まだ若干変動する可能性のある段階です。ですので、この段階で4月1日に流行がピークを迎えたという判断はなかなか厳しいかもしれません。

したがって、7日の緊急事態宣言は避けられなかったのかもしれません。また、減少傾向に転じたとはいえ、まだまだ高い水準にあった患者発生を確実に抑制する効果は少なくともあったのでは、という評価もあるでしょう。

 

4月中旬には緊急事態宣言を解除できた?

そもそも必要だったのか? データから見えてきた「緊急事態宣言」の本当の評価

では、ピークから1カ月が経過した4月末の状況はどうだったでしょうか。この時期はまだ緊急事態宣言下であり、結果的には5月6日以降も延長されたわけです。こちらの図は、前出の図の3週間後にあたる、4月28日時点での流行状況です。

結果的に、R(t)(2番めに太い線)は、4月当初から1を下回っていたことが確認できます。新規感染者数(最も太い線)も3月28日をピークに単調に減少しており、流行曲線(棒グラフ)も同様です。

R(t)<1 が安定的であることから、少なくともこの時点では緊急事態宣言の継続は不要であったと思われます。4月中旬には緊急事態宣言を解除できる状況にあった、と思えます。

結果的には、先のアップルとドコモのグラフから4月6日時点では、アップルは74、ドコモは71でした。つまり、宣言前でも25%から30%の自粛は実現していました。

宣言後、おおむねアップルは70前後、ドコモは50前後で推移していますので、ドコモではさらに20%自粛が進行したのに対してアップルではほぼ反応しなかったわけです。

つまり、アップルで測ると緊急事態宣言も「8割の接触削減」発言も自粛を促す効果はなかった、ということになります。ドコモだと、さらに2割自粛を促しました。

いずれにしても、「専門家」や総理が何を言おうが言うまいが、国民は見事にR(t)<1 を保てる自粛率を維持していた、というのが正当な評価でしょう。

 

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