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トランプ元大統領はなぜ敗れたのか…勝負を決めた「がん治療と宗教」

松本佐保(国際政治学者)

2021年03月01日 公開 2022年10月17日 更新

トランプ元大統領はなぜ敗れたのか…勝負を決めた「がん治療と宗教」

2020年大統領選挙は、トランプが最後まで敗北を認めず法廷裁判に持ち込むなどバイデン就任まで異例の事態となった。この接戦となった選挙戦を読み解く鍵のひとつに、宗教がある。

トランプ再選の鍵を握っていたのは、福音派というキリスト教プロテスタントの非主流派だった。伝統的なキリスト教が衰退する一方で、この福音派が白人ナショナリズムと結びつき「政治化」したことが、アメリカでの前トランプ大統領誕生へとつながり、世界に大きな影響を与えて来た。

国際政治学者の松本佐保さんは著書『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』で、政治化・多様化する福音派の歴史や信仰から現代社会に与える影響、アメリカでの宗教ロビー(宗教票)の役割をわかりやすく解説する。本稿では、同書より一説を紹介する。

*本稿は、松本佐保著『アメリカを動かす宗教ナショナリズム』(ちくま新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

2020年大統領選挙におけるコロナ対策という問題

2020年の大統領選挙を語るには欠かせない新型コロナウイルス感染拡大による宗教と科学の問題を取り上げておきたい。コロナをめぐっては、公衆衛生や医療政策で対立が起きており、これらは重要な争点となった。

「ブラック・ライブス・マター事件」で少なからずのダメージを受けたトランプだったが、より深刻な問題は、彼の支持基盤であるテキサスやフロリダなどを中心にコロナ感染症の被害がさらに拡大したことだった。

結果、これらの州の支持は得たものの、米国全土からの評価となると厳しいものとなり、結果トランプの敗北に繋がった。トランプは、2月~6月までのコロナ対策については、公衆衛生当局との対立など医学や科学への非協力的な態度を露わにし、こうした対処方法の問題点が指摘されてきた。

7月8日にオクラホマ州タルサ市の公衆衛生当局の幹部は、トランプが同市で6月20日に開催した選挙集会が、新型コロナウイルスの感染拡大につながった可能性を指摘している。

 

宗教活動の自粛に反対した福音派

カトリックより新しいキリスト教であるプロテスタント教会の、特にキリスト教福音派のメガ・チャーチのカリスマ牧師たちとその信者たちの中には、宗教活動の自粛に反対している者や団体が多数存在する。

もちろんすべてではないが、トランプを熱狂的に支持するキリスト教福音派の中でも、原理主義的な教会が礼拝を強行するケースが後を絶たない。彼らの多くは、進化論を信じず、人間は神によって創られたとするクリエイションニズム(創造論)を信じ、またワクチン接種にも懐疑的である。

少し前だが、親がキリスト教福音派の信者で、ホームスクーリング(学校で進化論を教えることを嫌悪、学校でなく家で教育を受けさせる)を行い、ワクチン接種は神の摂理に反するなどの理由で子供に受けさせないという家庭があった。

その結果、ワクチンで解決できる麻疹や水疱瘡が大流行するという社会問題を起こしている。コロナ感染症に対しても、多くの福音派の牧師や信者が医学的、公衆衛生的なアドバイスを無視している。

こうしたトランプを支持するキリスト教福音派による、コロナ自粛やロック・ダウンを無視した集団礼拝は、彼らの間の感染を拡大し死者を出すに至った。

トランプ前大統領自身も、これを止めるどころか、「宗教の自由」を唱え、イースター(復活祭)の時期にホワイトハウスに、各キリスト教会のリーダー達を招待してスピーチを行うなどの会を主催し、むしろこうした宗教的な集会を奨励しているかのように見えた点は大いに非難されることとなった。その結果、自身も感染した。

バイデンは、大規模な集会は控えてオンラインで選挙活動を行って、トランプに対してはオバマケアのような医療保険の欠如が、多くの貧困層、特に黒人やラティーノの死者を多く出しているとその責任を追及した。

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福音派とは異なりオンライン・ミサを徹底したカトリック教会

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