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社会

元寇も地政学が原因? 「紛争が起きやすい地域」の境界線

船橋洋一(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)

2022年07月11日 公開

 

日本は「ランドパワー」になろうとして失敗した

島国である日本は海洋国家(シーパワー)ですが、かつては大陸に進出して大陸国家 (ランドパワー)になることを狙っていました。

1904年に勃発した日露戦争に勝利して、朝鮮半島、中国・遼東半島を手に入れた大日本帝国は、満州(現在の中国東北部 )に進出するなど大陸における領土を拡大していき、「大東亜共栄圏」を唱え、ランドパワー大国を目指して東南アジアまで勢力を拡大していきました。しかし、第2次世界大戦の敗戦で失敗に終わりました。

かつてドイツ、ソ連(現在のロシア)はランドパワー大国でありながらシーパワー大国を目指しました。しかし、いずれも失敗に終わっています。

両立しないといわれているのです。その意味では、中国の「一帯一路 」構想(2013年、習近平国家主席が打ち出した巨大経済圏構想。中央アジア経由の陸路とインド洋経由の海路で、道路や鉄道、港湾などのインフラ整備を進める構想のこと)がどうなるかは注目されています。

 

「ハートランド」と「リムランド」ってなんだ?

ランドパワーとシーパワーは国の特徴を表す概念ですが、ハートランドとリムランドは、領域の特徴を表す概念です。

「ハートランド」とは、ユーラシア大陸の中央部にある海から簡単に近づけない内陸部のことを指します。ハートランドを支配すれば、ユーラシア大陸の各地に通じる交通路の中心を確保できます。

しかし、ユーラシア大陸周辺の地図を見るとわかるように、ハートランドの北側に海はありますが、その海域は北極海で冬になると凍結して海として使えないので、やはりハートランドは海にアクセスしづらい領域です。

そのため、ハートランドにあるロシアは、昔から冬でも凍らない不凍港を手に入れることが悲願でした。逆の見方をすれば、ハートランドは海から攻められることはほとんどないという利点もあります。

一方、国境のように明確な境界線があるわけではありませんが、ユーラシア大陸のフチで海に面している地域が「リムランド」です。

中国やインド、スペイン、フランスなどが含まれます。リムランドのフチは海に面していますが、その海は地政学用語で「マージナルシー」と呼ばれています。日本周辺でいえば、日本海、東シナ海、オホーツク海などはそのマージナルシーということになります。

 

「リムランド」は紛争地帯になりやすい

ハートランドは現在のロシアを中心とする領域です。冬は寒くて雨が少なく、荒れ地が多いので農業に適さない土地です。そのため、古くから人口は少なく、世界的な大都市はありません。

一方、リムランドは温暖な気候で豊かな土地が広がっています。また、海があり、外国との貿易が盛んなため、海沿いには、上海、香港、バンコク、リスボン、パリといった名だたる大都市が集まっています。

中国のようにリムランドに位置するランドパワーもありますが、「ランドパワーとシーパワー」との関係をみると、「ハートランドに位置するランドパワー」、「リムランドに位置するシーパワー」と大ざっぱに分類できることがわかります。

前述したようにランドパワーとシーパワーは対立しやすい関係にあります。厳しい環境のハートランドに位置するランドパワーは「豊かな土地まで領土を拡大しよう」「海に出たい」とリムランドへ出ようとします。

一方のシーパワーはそれを食い止めようとします。それゆえ、リムランドやマージナルシーは両者が衝突する場所になりやすく、歴史的にも多くの戦争が起こっているのです。

 

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