滅びないための進化
カブトエビは、極めて不安定な環境で適応度を得る効率よりも「長い時間滅びないという戦略」を選んでいることを意味しています。生物は一度滅びてしまうと復活することができません。
したがって、通常の適応度が高くても滅びるリスクが大きい場合には、「滅びない」ということが大変に重要な問題となるのです。「適応度」の考え方が普通とは違ってきていますね。
「直近の世代でいかにたくさん増えるか」という従来の適応度ではなく、「いかに滅びないか」という尺度で進化が起こっているのです。
このような「リスクマネジメント」の観点は、従来の「進化論」では軽視されてきました。というよりも、このような観点が必要となる環境があるとは考えられていなかったのです。
しかし、カブトエビと同様の戦略は他の生物でも見られます。
例えば、乾燥地に生える植物は全く同じやり方を採用しています。同じ個体が生産したタネの中に、「何度水につかると発芽するか」が異なるものが含まれているのです。
やはり、全てのタネを一度に発芽させてしまうと、その年が芽生えの成長に不適な気候だった時、取り返しがつかないからだと解釈されています。
「ベット・ヘッジング」が必要な環境とは、私たちが想定するよりも多いのかも知れません。と同時に、「短い時間での繁殖効率に目をつぶっても長期的な存続を優先させなければならない」という、いままでの「適応度」に基づいた進化の理解とは異なる原理が、未来の「進化論」には必要となるでしょう。