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拙い英語でもいい! 「自分」を相手に伝える力をつけよ

2012年05月17日 公開

内永ゆか子 ( ベルリッツコーポレーションCEO ) 

《 『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2012年 5・6月号より》

経済の見通しが暗い日本。すでに多くの国内企業が海外に活路をみいだし、ビジネス活動のグローバル化は加速する様相を呈している。ただ、多くの日本人経営者・幹部の「意識」がそのグローバル化の流れに追いついていないのもまた事実。世界で通用するリーダーの育成は日本企業にとって喫緊の課題だ。そのグローバルリーダーの育成をまさにグローバルな事業として展開し始めたベルリッツのトップに、日本人経営者・幹部が心得ておくべきことを語ってもらった。<構成:齋藤麻紀子>
 

グローバルリーダーは「肩書き」で語らない

もはや「語学」だけではない

 私は2008年4月、アメリカのプリンストンに本社をおくベルリッツコーポレーションのCEO(最高経営責任者)に就任しました。ちょうどビジネス界では急激なグローバル化が起こっており、「グローバル人材」を求める動きが加速していたころです。

 創業130年の伝統ある語学学校として知られていたベルリッツも、こうしたビジネス界の要請に対応するため、グローバルに活躍できる人材(「グローバル人材」)を育成する教育機関に生まれ変わろうと、ミッションを新たに「グローバル・エデュケーション・カンパニー」としました。そして、そのための包括的で具体的なスキームも作成しました。

 ベルリッツは今でこそ、多くの企業で「グローバル人材」育成のお手伝いをさせていただくようになりましたが、当初は私自身が30~40社にトップコール(社長はじめ役員クラス以上の人に面談のアポをとること)をし、直接訪問して、「御社の求めているグローバル人材とはこういう人ではないですか、それにはこういう教育をしたらどうですか」と、説明して回ったものです。

 2010年に入ると、事業の具体的な成果が出るようになりました。その年にカジュアル衣料品店ユニクロを展開するファーストリテイリングとインターネット通販の楽天が相次いで「英語社内公用語化」を宣言して話題となりましたが、両社ともに、われわれベルリッツの提案した教育プログラムを採用しています。

 これ以降、銀行や証券会社などの金融機関、ネット関連の企業などからの受注が相次ぐ一方、海外のベルリッツ、とくにアメリカほかメキシコ、ドイツ、フランス、ベルギーのベルリッツでも、「グローバル人材」育成の事業が軌道に乗り始めました。日本国内のみならず世界中の多くの企業が、それだけグローバル化に舵を切っているということです。

グローバル化に対する認識が甘い

 グローバル化の流れは否応なしにやってきます。しかし、いまだにこの現実をよく認識されていない日本企業のトップの方にお会いすることがあるのも事実です。私が「グローバル人材」育成の必要性を訴えても、「国内でしか事業を展開しないから当社には関係ない」「いま社内で英語を使っていないので、英語を使い始めるとかえって業務の効率を下げてしまう」といった返答が返ってきます。

 しかし、企業のトップが事業を展開するうえで考えるべきことは、「現状」ではなく「将来」のはず。日本の人口は今後右肩下がりという明確な予測があります。労働力人口が減るとGDP(国内総生産)が減ることすら考えられます。そんな国内のみで事業を続けて成長し続けることができるでしょうか。人口が減ることが明確な以上、グローバルな事業展開が必要なのは明らかです。

 「大きなシェアがあるから大丈夫」という企業もあります。でも、グローバル化が進むと、国内のおいしい市場には、すぐに外国企業が目をつけます。そうなると、競争にさらされるか、買収対象になるでしょう。国内に留まっていられるのはいわゆる家族経営の「パパママストア」くらいではないでしょうか。

拙い英語でも「自分」を言葉で語れ

 最近、「英語社内公用語化」に対する批判の声を耳にします。私には理解できません。現実にグローバル化が進むと、社員の英語力は必須となるからです。もちろん、イザというときになって、英語のできない人を解雇し、英語のできる人を採用すれば済む話かもしれません。しかし、日本企業でそれができないことはだれでも知っているはずです。

 英語は勉強し始めてすぐに話せるものではありません。ですからきたるときに備え、少なくとも語学教育などの手を打たない経営者は、社員に対して罪を犯しているも同然です。企業のグローバル化は、トップの経営者が危機感をもつことから始まるのです。

 その経営者自身も、自分の言いたいことを相手に伝える程度の語学力は求められます。ただ、流暢である必要はありません。大切なことは、アイデンティティを自覚し、自分自身について、あるいは自国について、意見を相手に伝えることです。

 グローバルな場ではまず、自分の国や文化について問われます。日本人が思っている以上に、外国人は日本に興味を抱いています。相手の方が日本について知っている場合でも、自分なりの具体的な意見を述べなければなりません。日本の国や文化について、最低限の見識を身につけておくべきでしょう。

そのうえで、自分自身の強みを「知り」「語る」ことも求められます。自分は何ができるのか、どんなことに秀でているのか、相手にどんなベネフィット(利益)を与えられるのか ── などを分かりやすく相手に伝えるのです。

 どうも日本人は、高邁なことや相手が感心するようなことを言わなきゃ、と思いがちですが、そんなことはありません。自分独自のネタを、自信をもって話せば、きちんと伝わります。たくさんネタを用意する必要はなく、いくつかあれば十分です。私の場合、「ダイバーシティ(人材の多様性)」「グローバルリーダーシップ」「IT」の3つ。これまで培った強みが自分の個性となり、会話のきっかけとなります。これが結果として人脈のタネとなります。

 大切なのは会話に踏み出すこと。まずは「ハロー」と言って相手に声をかけ、自分は日本から来たこういう人間だと、拙い英語でも、きちんと伝えてみてください。相手はきっと応えてくれます。こういうことの積み重ねが大事なのです。

人脈は「肩書き」によらず「個」で

 グローバルリーダーには独力でなれるわけではありません。強力な人脈があればこそ、大きな仕事ができるのです。個人でできることなど限られています。グローバルリーダーにとって人脈づくりは欠かせない仕事です。

 私が昨年から参加しているダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)には、世界中の各界のリーダーが一堂に集います。人脈をつくる絶好の機会。政治家、識者、経営者ら、どんなに偉い人でも所狭しと駆け回り、「自分」を売りこんでいます。

 ところが、日本人はどうかと言うと、通訳をつけている人が多い。これでは自分で直接コミュニケーションをとる方に比べて存在感を発揮できません。みすみす人脈をつくる機会を逸しているようなものです。

 グローバル社会では、個人間の「トラスト(信頼)」や「リスペクト(尊重)」が重要視されます。人間同士が「個」として結びつき、人脈を形成していくということです。「個」をベースに築いた関係は、自分が所属する組織を替えても引き継がれます。だから、経営者はパーティに出るだけではなく自分で主催したり、クリスマスカードを何枚も送ったりすることに必死になる。「自分」という「個」を訴えるところから、グローバル化は始まるのです。

 しかし、日本の経営者は概して、「個」としての意識が薄いのではないでしょうか。「社長」であることならアピールできるが、「個」としての自分をアピールすることは苦手。それでは「社長」の肩書きを失うと同時に、人脈まで失ってしまう。私はそれを“人脈”とは言わず、「ポジションネットワーク」(肩書でくっついたネットワーク)と呼んでいます。

 多様な人材から成るグローバル社会では、肩書きではなく、自分はどこからやってきて、どんな考えをもっているのかを相手に語ることから始まります。「あなた」という「個」のアイデンティティが問われるからです。

 ベルリッツでは、こうした日本の経営者の苦手とする面にも教育に力を入れています。たとえば、リーダーシップ能力の育成で定評のある日本アスペン研究所と共同で開催している「アスペン/ベルリッツ グローバル・リーダーシップ・セミナー」。直島という、瀬戸内海の美しい自然と現代アートの作品群で囲まれたすばらしい環境のなか、参加者は古今東西の「古典」に触れ、リーダーとしての自分をみつめなおします。

 さらにベルリッツでは、グローバルリーダーの人脈づくりの支援も検討しています。創業から130年、ベルリッツで学ばれたことのある著名な人物は多数に上ります。そうした方々をつなげるネットワークを構築し、グローバル企業のエグゼクティブになろうという人たちにつなげたいと考えているところです。

 ☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の前半部分を抜粋したものです。インタビューの全文につきましては本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 

内永ゆか子

(うちなが・ゆかこ)

ベルリッツコーポレーション代表取締役会長兼社長兼CEO

1971年東京大学理学部物理学科卒業、同年日本IBM入社。’95年同社初の女性取締役に。2008年よりベルリッツコーポレーション代表取締役会長兼社長兼CEO。ベネッセホールディングス取締役副社長を兼務。日本の代表的な女性リーダーとして海外でも知名度が高い。著書に『部下を好きになってください』(勁草書房)、『日本企業が欲しがる「グローバル人材」の必須スキル』(朝日新聞出版)がある。


◇掲載誌紹介◇

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2012年 5・6月号

特集「『本物』の経営者を育てよ!」
「コマツウェイ」で強みを磨き、代を重ねるごとに強くなれ  コマツ会長 坂根正弘
松下幸之助が経営者を育てるために考えたこと  本誌編集部
経営者は「育てる」より「育つ」もの  ユニデンCEO 藤本秀朗
「自分」を相手に伝える力をつけよ  ベルリッツコーポレーションCEO 内永ゆか子
ほか

 

BN



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