イヤな感情で集中できないときの対処法
人とコミュニケーションをとる上で、もっとも避けたいものの1つが「八つ当たり」です。怒りや悔しさといった感情がいつまでも抑えられず、関係のない人に感情的に当たってしまう現象です。当然当たられたほうはわけがわからず、不快な気分になります。
「八つ当たり」とまではいかなくとも、いつまでも不機嫌な人はセルフコントロールができない、精神的に幼い人に見えてしまうため、特にビジネスシーンにおいては注意が必要です。
感情的にならないコツはいろいろありますが、自分との戦いでもあるスポーツの世界には、わたしたちが明日から使えるコツがたくさん隠れています。
気持ちの切り替えが上手と考えられているアスリートでも、犯したミスを引きずってしまう、あるいはプライベートでの悩みが頭から離れず、プレーに集中できないときがあります。
こういうときの対処法として、スポーツ心理学の「パーキング」という作戦が有効です。パーキングとは、「駐車」という意味。つまり、「悩みを頭の一部に『駐車』する」というのが、メンタルでのパーキングです。
サッカー・ドイツ代表チームにおいて、パーキングは威力を発揮しました。トップストライカーだったミロスラフ・クローゼは、妻の不倫疑惑をマスコミに書き立てられ、プレーに集中できない不本意な状態が続いていました。
そこで、メンタルトレーナーであるハンス・D・ハーマンがクローゼにアドバイスしたのが、「パーキング」という考え方です。
ハーマンは、「どうしても気になってしまう思考があったら、一度、頭の一部にパーキング(駐車)しなさい。それについてはあとで考えればいい。パーキングすれば、ほかのことに集中できるようになる」と助言しました。
そのあとクローゼは調子を取り戻し、2014年にブラジルで開催されたFIFAワールドカップでのドイツ優勝に大きく貢献しました。このパーキング理論は、日本でも松本大学人間健康学部の齊藤茂専任講師が細貝萌選手に行なったことで知られています。
思い思いの「駐車場」を具体的にイメージする
こんな単純な考え方で悩みを「引きずらなく」なるのかと不思議に思われるかもしれません。わたしは、メンタルという目に見えないわかりにくいものを、具体的にイメージしやすい自動車の駐車にたとえたからこそ、「パーキング」が有効だったと考えます。
特にスポーツ選手のような、実際に役に立つ練習法を求める人たちにとっては、「前向きに考えよう」「悩みについて考えないようにしよう」「気持ちの切り替えが大事」では、抽象的すぎて使えないのでしょう。
自分の家の車庫でも、職場の駐車場でも、コインパーキングでもいいので、とにかく自分で見たことのある駐車場をイメージしましょう。そして、悩みや引っかかっているものをたくさん積んだ車を、とにかくいったん駐車する光景をイメージしてみるのです。
言葉だけであれこれ考えるのは、一定の限界があります。想像力を使って気持ちを切り替えるという意味では、パーキングは面白い方法です。スポーツだけでなく、仕事でも十分に使える考え方です。
イヤな気持ちを「引きずっている」くらいならば、パーキングしてしまいましょう。脳の中では駐車違反はありませんから、しっかりとめて前に進んでいきましょう。車は、あとで取りに行けばいいのですから。