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経営者が必死に考えた「理念」は、なぜ社員に届かないのか?

小堀健一(変人[かわりびと])

2023年02月08日 公開

 

研修ではまず対話から

私はいつも研修を始めるにあたって、「今からこういうことをやろうと思うんですけど、皆さんの率直な思いや意気込みを聞かせてください」と受講者にお願いしています。

すると、「私は会社の指示で研修を受けにきているだけで、本当は参加したくないのです」とキッパリ言われることが珍しくありません。

また、「研修を頑張ります!」と言いながら、心の中では逆のことを思っている人や、「この研修は自分にとって何の意味があるのだろう」と思っている人もいます。それが現実であり、当然のことであると思っています。ですから、まず受講者に対して、「研修を受けている」という概念をなくしてもらっています。

「研修」とは字の如く、受講者が「研鑽」して「修める」こと。しかし、研鑽する気持ちがなければ、しっかり修められるはずがありません。それならむしろ、「研修」と身構えないようにしてもらったほうがいいのです。

ただ現実には、研修に対して消極的な意思表示をしてくれる受講者はまだいいほうで、そもそも本当に思っていることを話すことのできる人があまりいません。会社の中では自分の立場や周囲とのしがらみがあって、これまで他人に本音を話す機会があまりなかったせいでしょう。それに加え、日本の学校教育が影響しているのか、「正解を言わないといけない」「間違いたくないから何も話さないでおこう」と思っている社員が半分以上はいると感じています。

受講者に話をしてもらうことを促すためにも、私は対話を重視しています。たとえば4人1組のグループ対私で話すこともありますが、個人面談も比較的よくします。

そして会社に関することだけではなく、本人の生い立ちなども含めて対話をします。そうすると、本音が引き出しやすくなります。

こうして本音を包み隠さず話せるようになってようやく、理念を浸透していくうえでの事前準備が整います。受講者である社員の皆さんと私の対話がうまくできたら、次は経営陣と社員同士で本音で対話できる状態を目指します。

経営陣は社員に一方的に理念を浸透させようとするのではなく、理念を通じて社員に影響を与えつつ、社員からも影響を受けられる関係になることが理想です。

「お互いにどのような影響を与え合いたいのか」を常に考えて対話できる組織は、一方通行のコミュニケーションに陥らず、理念浸透もうまくいきやすい。これまでの研修を通しても、そう感じています。

 

いかに互いを許容し合えるか

本音を話せるようになれば、「お互いに許容する状態」が生まれます。「いろいろな境遇を持つ社員がいて、理念に対する受け止め方も、人によって様々。それでいいんだ」と受け入れることができれば、「この後はどうしていきたい?」ということをお互いに考え、言い合える組織になってきます。

そうやって互いに問いかけ続けるうちに、一人ひとり自分のしたいことやありたい状態が言葉で出てくる。その風土をつくることが、経営理念を浸透させていくうえで、一番の肝になります。

互いの違いを理解したうえで、「どう変わりたいのですか?」という問いかけの対話をいかに重ねていけるか。

違いを受け入れられないまま、"「四重人格」フレームワーク"の(1)のような積極的な状態に全社員を持っていきたいという気持ちだけが先走ってしまうと、(4)のような消極的な面を持つ人に対して「ダメ」というレッテルを貼ることにつながり、浸透させたい側(経営陣)と浸透される側(社員)の双方に、ますますストレスがかかってしまいます。

いかに互いを認め、許容し合える風土を社内につくれるか。注力すべきはそこなのです。

 

消極的な人を積極的に変えるには

とはいえ、いくらお互いに認め合える環境をつくったところで、「所詮、仕事は給料を得る手段でしかない」という考えの人も確かにいます。そういう人に対しては、「経営も人生も、どちらも同じ"営み"なんだよ」ということを説明します。

「営み」は、すべてのことが関連し合って成り立っています。たとえば、会社経営で売上を出すには、大前提として社屋や工場などの設備が必要ですし、それも定期的に掃除したりメンテナンスしたりする必要があります。

製造業であれば、まず商品が必要でしょう。生産部門がそれを製造し、営業部門が販売して売上を出す。それらの人員を雇うためには人事が面接をして採用し、また出した売上は経理が処理する必要がある――といった具合に、多くのことが循環しています。社員が受け取る給料は、こういった循環があってこそ生み出されるものなのです。

そしてまた、その社員自身の生活も循環のうえに成り立っています。お金を得るためにはまず労働する必要があり、労働によって得たお金で物を買ったり、家族を養ったり、余暇を過ごしたりする。そういった物事がすべて揃って「営み」になっており、会社の「営み」と社員個人の「営み」はつながっている。

ですから、会社を含めた「営み」を今後どうしていきたいかよく考え、実行していくことが、個人としても大切だと理解してもらうのです。

それを一言で表現すれば、「思いを馳せる」ということです。自分の仕事をしていればそれで十分というわけではなく、もっと他の人のことに思いを馳せる必要がある。それができていれば、消極的なマインドを脱し、自分の仕事や人生において、積極的な姿勢に変わっていくはずです。

経営理念が社員に浸透している会社では、こうした「営み」がうまく循環しているのを感じます。挨拶の仕方やコミュニケーションの様子といった日常のささいなところからも、それをうかがうことができます。

経営も人生も、どちらも同じ「営み」で、すべてが循環している。そうした視点でとらえることが理念浸透のカギになるのだと思います。

小堀健一(こぼり・けんいち)

1975年生まれ、京都府出身。ミュージシャンとして活動したのち、2002年より人材開発・支援企業にて勤務。2015年に独立し、中小企業の組織風土改革のコンサルティングを行なっている。

 

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