欧米流「ジョブ型」雇用の浸透
背景の第一は、進みつつある「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用へのシフトの動きです。
メンバーシップ型は、日本企業特有のいわゆる終身雇用体制のもと、社内での人材育成、年功による賃金アップなどを特徴としてきました。入社時に仕事の内容は確定されず、社員は会社のメンバーとなり、人事異動や転勤などに柔軟に応じていきます。
これに対し欧米流のジョブ型は、予め職務内容を子細に定め、それに見合った能力の社員を雇い、仕事に応じた賃金を支払います。仕事も評価基準も明確ですが、その仕事がなくなれば雇用契約も終了となる仕組みです。
メンバーシップ型が「就社」であるのに対し、ジョブ型は本来の意味での「就職」だと言えるでしょう。
コロナ禍以前から、経済のグローバル化と第4次産業革命などを背景に、日本企業は日本型雇用の維持が困難となり、ジョブ型へとシフトし始めています。
リモートワークの急速な普及も、ジョブ型への移行を加速させています。職務内容が明確なジョブ型労働は成果主義とも結びつきやすく、これまでの時間による仕事の管理・評価から、成果による管理・評価への変化の流れも促すでしょう。
そうなると、上司には、一人ひとりの社員の仕事の目的や目標をより明瞭に言語化し共有する力、そして仕事の進捗と成果をできるだけ正確に把握し、的確に評価する力が求められるのです。
多様性とキャリア自律支援の推進
背景の第二は、職場のダイバーシティ(多様性)の進展です。
経済のグローバル化は日本の内なる国際化を進め、外国人労働者が増加します。また、既に叫ばれて久しい女性活躍推進もこれからが本番で、育児や介護と両立させながら仕事を継続し、職場の中核的担い手に成長できる環境整備が不可欠です。
さらに、高年齢者雇用安定法の改正により、企業には社員の独立支援を含む70歳までの就業機会の確保が努力義務化され、ミドル・シニアの活躍支援も求められます。
一方、非正規社員の増加でメンバーの雇用形態は多様化し、さらに副業解禁の流れで複数の仕事を持つ社員も増えていくでしょう。社内外での多彩な働き方を認め、総合的にサポートすることが必要になります。
若手社員は、終身雇用と年功序列が崩れ、ジョブ型に舵を切り始めた企業社会の中で、もはや「昭和型」とは全く異なるキャリア観で働いています。会社には頼り切れないため、人生100年時代を働き抜くためのキャリアを自ら築いていかざるを得ない世代です。
優秀層ほど自分のキャリアにとっての仕事の意味や将来性を考え、働きがいを実感できる仕事を望み、副業や転職も視野に入れながらキャリアを磨いていくことに真剣です。
以上のように、いずれの世代や働き方の社員にとっても、今後は働きがいの実感とキャリア自律が共通のテーマです。上司には、多様な部下一人ひとりを丁寧に理解し、キャリアに寄り添い、日々の仕事を支援するとともに、チームとして束ね成果を出していくという、難しいかじ取りが求められるのです。
管理職から「支援職」へシフト
それでは、これから求められる「上司力」をどのように身につけ、発揮すればよいでしょうか。
結論から言えば、上司は性悪説で部下を監視し管理しようとするのではなく、本人の意欲と可能性を信じ、その持ち味と能力を十分開花し発揮できるよう支援する姿勢に変わることです。
すなわち管理職から支援職へ自己変革すべきなのです。上司の本来の役割は、部下に指示命令をして従わせることではなく、部下が自律的に働ける環境を整え、一人ひとりが働きがいを感じながら成長・活躍する伴走者だと心得えましょう。
上司が具体的に身につけ実行すべきは、支援型マネジメントの5つのステップです。
【STEP1】「相互理解」を深める
一人ひとりが互いに異なる価値観や持ち味を持っていることを知り、理解し合い、心理的安全性を確保する
【STEP2】「動機形成」を図る
組織の目指す目的、部下一人ひとりに任せる役割の目的という、働く目的を共有し、仕事へのモチベーションを高める
【STEP3】「協働意識」を醸成する
チームの中での部下一人ひとりの持ち味が活きる役割を明確にし、互いに協力し合える環境をつくる
【STEP4】「切磋琢磨」を促す
部下一人ひとりが自律的に働き、前向きに切磋琢磨し、日常的に改善・改革が進むよう促す
【STEP5】「評価納得」を得る
節目ごとに部下一人ひとりに仕事と成果を振り返らせ、上司からのフィードバックに納得を得てもらい、次の成長に向かわせる
上司は、部下一人ひとりが担当の仕事をどう工夫し、どうチャレンジしたいのかを傾聴し、質問や対話で、前向きな思いを引き出しましょう。
そして、部下自らが納得して考えた業務目標や行動計画を承認し、仕事が円滑に進むよう支援します。その結果も部下自身が正しく振り返り改善できるよう、フィードバックを行うのです。