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しんどいけど自由...「フリーの温泉ライター」を生業にする人のリアル

高橋一喜(温泉ライター)

2023年09月05日 公開

 

ストレスの種類を選ぶ

フリーランスになってよかったことはいろいろあるが、個人的に大きいのは「ストレス」をコントロールしやすくなったことだ。

たとえば、満員電車のストレス。東京で会社員をしていた頃は、9時出社がルールだった(途中から10時出勤)。比較的会社の近くに住み、乗換もなかったとはいえ、通勤時間の地下鉄は満員電車で身動きもままならないような混雑度だった。

私だけではないだろうが、やはりぎゅうぎゅう詰めの電車内はしんどいし、見ず知らずの人と肌が触れたりするのは不快である。一触即発の殺気立った車内の雰囲気もきつかった。

温泉も人気施設になると、週末などは入浴客で混雑することがある。多くの人が訪れるスーパー銭湯などでは湯船が芋子を洗うような状態になることもある。仮に源泉かけ流しだとしても、キャパシティを超える人が入浴すれば、湯は汚れ、鮮度は落ちていく。やはり、広い湯船にのびのびとつかるのが温泉の醍醐味である。

もともと人で混雑する場所は苦手だった。満員電車によるストレスを回避したかったのも、会社員ではなくフリーランスの道を選んだ理由のひとつである。

混雑回避という面では、フリーランスは休日を自分で設定できるのもメリットだ。フリーランスになってからは、基本的に土日は仕事にあてて、平日に休みをとってきた。

温泉めぐりをライフワークにしている私にとっては、平日に温泉に行けるのはメリットが大きい。土日祝日は日ごろ閑散としている温泉地でも、それなりに観光客でにぎわう。ゆっくりと温泉につかることができないことも、車の渋滞や公共交通機関の混雑に巻き込まれることもある。

週末に宿泊しようとすれば、旅館がいっぱいで予約がとれないこともある。とくにソロ温泉を好む私にとっては不都合が多い。週末の書き入れどきはひとり旅よりも、グループや団体客が優先されがちで、運よく予約がとれたとしても、休日料金で宿泊料が割増になるケースも多い。その点、平日に温泉めぐりをすれば、そのようなストレスを回避することができる。

世間のカレンダーと逆の行動をとりやすくなったことは、大きなメリットである。ちなみに、子どもが産まれてからは土日のどちらかを休むようにし、温泉には平日に出かけることが多い。

フリーランスになってからは、人間関係のストレスも一気に減った。

会社での人間関係は比較的良好だったとは思うし、人間不信になるような事件があったわけでもない。いっしょに働く人には恵まれていたほうだ。

しかし、苦手な人がいたのは否定できない。著者にはクセの強い人もいる。もともとひとりで何かをするのが好きな私にとっては、少しずつ人間関係のストレスが積み重なっていった。

満員電車も休日も人間関係も、会社勤めをしているかぎり避けがたいストレスである。自分でコントロールするのがむずかしいから、心身の疲労が積み重なっていく。

もちろん、フリーランスになったからといって、ノーストレスなわけではない。「収入が不安定になる」「自由な分、自己管理が求められる」など、フリーランスなりのストレスがある。

それでも、会社員時代と違うのは、自分でストレスの種類を選び、やり方次第でそのストレスを軽減することが可能であることだ。

収入が不安定なら安定するような働き方を模索できる。自己管理も結局は自分次第である。満員電車や休日の混雑、会社の人間関係など避けられないストレスと違って、自分で緩和したり回避したりできるストレスだ。

いつ、どこで働くかは自由に決められるし、満員電車などの混雑を避けることもできる。人間関係も相性が悪い人や苦手な人とは、無理して付き合わなくてもいい。いくら仕事上のメリットがあったとしても、ストレスがたまる人といっしょに仕事をすればデメリットのほうが大きくなる。

もちろん、会社員のほうがストレスは少ないという人もいるだろう。自分が、よりストレスを感じない働き方を選択することが大切だ。

【高橋一喜(たかはし・かずき)】
温泉ライター。千葉県生まれ。上智大学卒業後、2000年ビジネス系出版社に入社し、経営者向けの雑誌やビジネス書の編集に携わる。2008年3月、温泉好きが高じて会社を辞め、「日本一周3000湯の旅」に出発。386日かけて3016湯を踏破。現在はフリーランスとして書籍の編集・ライティングに携わるかたわら、温泉ライターとして活動し温泉の魅力を発信している。2021年東京から札幌に移住。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(ともに幻冬舎)、『ソロ温泉―空白の時間を愉しむ―(ICE新書)』(インプレス)などがある。『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『あさチャン!』『マツコ&有吉かりそめ天国』などメディア出演多数。

 

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