日本企業が“サムスン”に学ぶべき「グローバル戦略」
2012年08月07日 公開 2024年12月16日 更新
“グローバル化”の流れから取りこぼされつつある日本企業。効率や生産性を追求し、コストダウン、原価低減など、社内の構造改革に気を取られ過ぎた結果、内向きになった企業が増えてしまった。
このように指摘するのは、経済ジャーナリストの片山修氏だ。日本企業が、グローバル化に成功している海外企業に学ぶべきことは何か。具体的に解説する。
※本稿は、片山修 著『日本企業がサムスンから学ぶべきこと』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
日本企業よ、“Open your eyes!”
日本企業が「内向き」になっていると指摘されて、久しいものがあります。2011年7月にインタビューした際、ホンダ社長の伊東孝紳さんは、リーマンショック後に社内の空気に危機感をもったとして、次のように語りました。
「社内が“内向き”になっている。社内システムの改善や、コスト削減、品質改良など、社員の目は社内にばかり向いていた。これはヤバイなと思いました」
ホンダだけではありません。日本の多くの企業は、失われた20年の間、どんどん内向きになりました。効率や生産性を追求し、コストダウン、原価低減など、社内の構造改革に気を取られました。
しかし、それは環境のせいだけではないような気がします。
サムスンのロゴマークは、ギャラクシーのヒットを機に、日本でも目にする機会が増えましたが、先日、サムスンのロゴについて、こんな話を聞きました。
ブルーの楕円に「SAMSUNG」の文字が白抜きになっています。よく見ると、頭文字の「S」の左上と、最後の「G」の右下は、楕円から少しだけはみ出し、端が切れています。
「外とつながっている」、すなわち、これは「外向き」を意味するというのです。企業の視線は、外に向かって開いているといってもいいでしょう。日本企業と「覚悟」が違うといったらいいすぎでしょうか。
なるほど、こんなところにも、サムスンのグローバルを意識した経営姿勢は反映されているのかと、大変興味深く聞いたものです。
好むと好まざるとにかかわらず、このグローバルな時代を迎え、日本企業は、外に目を向け、海外企業との競争に打って出る以外に、生き残る方法はありません。
眠っている場合ではありません。外に向かって“Open your eyes!”です。
サムスンの「地域専門家制度」のマネだけではタメだ!
最近、日本企業の人事部の間では、「グローバル人材」の採用や、育成が流行りです。しかし、にわか仕立てのグローバル人材の育成は、何の役にも立ちません。
グローバル人材の育成といえば、サムスンの「地域専門家制度」が有名です。この地域専門家制度に触発されて、それをマネる日本企業が増えています。
実際、マネているかどうかは別にして、現代において、世界で活躍できる「グローバル人材」の確保は、企業にとって、喫緊の課題です。
地域専門家制度が、その課題に目覚めるキッカケになったのは、間違いありません。
ソニーは日本の新卒採用における外国人の割合を、30%にまで増やしています。パナソニックは、国内外の1450人の新卒採用のうち、1100人、率にして約76%を、海外人材にしています。
両社とも、海外展開の強化に合わせて「グローバル人材」の採用に力を入れているわけです。また、海外研修にも、各社はにわかに力を入れ始めました。
農業機械大手のクボタは、新入社員全員を語学留学させます。帝人も、総合職新入社員全員を約2週間、中国やインドに派遣しています。
ほかにも、三菱東京UFJ銀行、NTTコミュニケーションズ、大成建設など、新入社員の海外研修に力を入れる企業は、分野を問わず、近年、増えているのです。
サムスンの地域専門家制度は、入社5年を過ぎた若手の人材を、世界各国に1年間派遣する制度です。その間、何をしてもいいのです。期間中の給与は保証されますが、仕事をする義務はありません。
その代わり、家探しや日常の生活、人脈づくりなどはすべて自分で行います。現地の文化や習慣に理解を深めるのです。終了後は、その経験を生かして商品の現地モデルの開発に従事したり、現地法人のトップへの道が用意されています。
サムスンは、これまでに20年以上、この制度を続けています。近年は、年間、およそ150人を派遣しており、いまや、のベ4000人を超えています。
サムスンの社内では、地域専門家制度について、過去、疑問の声が何度もあがったと聞きます。コストをかけて社員を派遣しても、帰国後に辞める人がいる。
帰国後に、身に付けた言語や習慣、文化などを、新商品の開発やマーケティングに、本当に生かせているのか。つまり、コストに見合った成果が出せているのかわからないというわけです。
地域専門家の派遣には、1人当たり約1000万円かかるといわれています。費用対効果からいって、そうした疑問が出てきて当然でしょう。
実際、1997年のIMF危機の際、サムスングループ各社の社長は、派遣中の地域専門家を一斉に呼び戻したといいます。ところが、後にそれを知った会長の李健熙(イ・ゴンヒ)さんは、激怒しました。
「私が100年、200年先のことを考えてやっていることを、なぜお前たちが勝手に止めるのだ」というのです。以来、リーマンショックの際にも、サムスンは地域専門家制度を変わらず続けてきたのです。
李健熙会長の強い意志があったからこそ、今日まで続いているのです。トップが、強い意志をもって人材育成を続けなければ、制度を継続し、成果を上げることはできないということです。
その点、日本企業で流行している、新卒の外国人採用枠拡大や、新入社員の海外研修は、付け焼刃にすぎないのではないか。
本当に「グローバル人材」を育てるのは、そんなに簡単なことではないはずです。単純に外国人の新卒採用を増やしたり、海外研修に出しさえすれば、「グローバル人材」が育つかといえば、そんなはずはありません。
むしろ、グローバルに活躍できる人材を即戦力にしようとするなら、中途採用で、能力の高い外国人を採るべきでしょう。あえて、異論を唱えれば、外国人の頭数を増やしたり、誰でも彼でも、海外に研修に出せばいいというものではないのです。
やる以上、李健熙さんのように、20年以上続ける覚悟が必要だと思います。