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自信を失う“ほめ方”とは...多くの人がやっている、実績だけ見た自己評価

谷本惠美(一般社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー)

2024年04月25日 公開 2024年12月16日 更新


イラスト:matsu(マツモトナオコ)

カウンセラーとして33年、スクールカウンセラーとして18年の経験があり、また長年モラルハラスメント問題に力を入れて取り組んできた谷本惠美さんは、「自分の心を守る方法について、なにも知らない無防備な状態でいると、どうしても傷ついたり、落ちこんだりしやすい時代に私たちは生きている」と言います。

悩みを抱えがちな編集者Kが「自分のほめ方」について聞きます。

※本稿は、谷本惠美著『13歳からの自分の心を守る練習』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

 

自分をほめるときに、やってしまいがちな失敗

【K】前回、谷本さんに「自分をほめてあげられるといいかもしれませんね」と言われたのでやってみましたが、なんだか恥ずかしいし、難しいですね......。

【谷本】実際にやってくださったんですね。どんなふうに自分をほめてみたんですか?

【K】過去に人から「すごい」と言われたことを思い出したり、人と比べて自分のほうがすぐれているところを探してみたり......。でも、人から絶賛された経験なんて一度もないし、胸を張って「これだ!」と誇れる長所も思いつかなくて。自分をほめるつもりが、なにもないという事実をつきつけられたようで、かえって落ちこみました。

【谷本】自分をほめようと思っても、そんなところは一つもないと?

【K】はい......。

【谷本】そんなふうに考えてしまうのは、Kさんだけじゃないんですよ。多くの人は、いざ自分のことをほめようとすると、「一般的な」ほめ方しか思いつかないんです。

【K】一般的なほめ方......?

【谷本】前回、少しお話しした「数字」や「結果」だけに注目するほめ方ですね。「かけっこで一等賞をとった」とか「偏差値の高い高校に合格した」とか「会社で出世して部長になった」といった、目標を達成したり、わかりやすい実績があったり、人から「すごい」と言われたり、といったことだけに目を向けるほめ方です。

【K】うう......。私がやったのは、まさにそれですね......。

【谷本】私たちは小さなころから、いろいろな場面で、数字や結果で評価されてきたので、いざ自分をほめようとすると、そうなるのも仕方ないと思います。

 

これまでの過程にも目を向ける

【K】それじゃあ、どうやって自分をほめれば......?

【谷本】ぜひ、数字や結果だけでなく、「過程」にも目を向けてみてください。前回、Kさんは、高校生のときに落ちこぼれになったと話してくれましたよね。

【K】はい。まわりは優秀な子だらけで、それこそ人に誇れる数字や結果なんて一つもなかったですね。

【谷本】たしかに、数字や結果だけを見ると、Kさんが言うように、落ちこぼれだったのかもしれませんが、そんなしんどい状況でも学校には通っていたんですよね。

【K】休んだことは一度もなかったです。

【谷本】それって本当にすごいことだと思うんです。

【K】でも、なんとなく休むのがこわかっただけで、強い気持ちがあったわけでも、「負けてたまるか」という根性があったわけでもないんです。

【谷本】なるほど。実際、そうだったのかもしれませんが、大人になって、いろいろな世界を知ったKさんが、今、あらためて高校生のときの自分を振り返ったとき、どんなことを思いますか?

【K】えっ......。まあ、よく3年間も耐えたな、とは思いますが。

【谷本】よくがんばったと思いますよね。そんなふうに、過去を振り返って、数字や結果だけでなく、過程にも目を向けてみると、「自分って案外よくやっているよ」と思えるようなことが、たくさんころがっているんです。

【K】自分しか知らない、小さなことですけど......。

【谷本】小さくていいんです。たとえ一つひとつは小さくても、拾って集めてみると、結構大きなかたまりになりますよ。いきなり自分をほめようとするとハードルが高いかもしれませんが、「過去を振り返るなかで、過程にも目を向けて、自分の小さながんばりを集めてみる」くらいの感覚だとやりやすいかもしれませんね。

【K】つい、「人に自慢できるような実績を出した」とか「いい学校に入れた」といった、外に向けてアピールできることで自分をほめようとしますが、そうじゃなくて、自分のなかにすでにある小さながんばりを見つけることが、そのまま自分をほめることにつながると......?

【谷本】そうです。なかには、かつてのKさんと同じような状況になったときに、学校をやめるという選択をした人もいましたが、そのあと高卒認定試験を受けたり、就職したりするなどして、しっかり自分の人生を歩んでいます。それもまた本当にすごいことですよね。だから、どんな選択をしたとしても、自分をほめてほしいんです。

【K】いきなりは、なかなか難しいですが......。

【谷本】少しずつで大丈夫ですよ。過去を振り返ると、しんどいことを思い出して、落ちこむことがあるかもしれませんが、その近くに、実はたくさんのお宝が眠っているんです。あせらず、ゆっくり掘りおこしていきましょう。

【K】お宝、私にもありますかね......。

【谷本】必ずあります。自分しか知らない小さながんばりを集めていくと、「私って、ダメなところもたくさんあるけど、それらも全部ひっくるめて、まあなんとかやれているよね」と思えるようになります。自分のことをいとおしく感じて、じわーっとあたたかい気持ちになりますよ。

 

自分に言葉のごほうびを

【K】谷本さんも自分をほめることってあるんですか?

【谷本】もちろんです。これまでの人生、どれだけ自分をほめてきたことか。小さなこと、ささいなことでも、すぐに自分をほめますよ(笑)。

【K】たとえば、どんなことで?

【谷本】「朝、ちゃんと起きられた」とか「晩ごはんをおいしくつくれた」とか「今日は気分よく一日をすごせた」とか、ですね。

【K】失礼ですが、本当に小さなことですね(笑)。

【谷本】はい(笑)。それくらいのことでいいんです。

【K】ほかには、どんなことで自分をほめてきましたか?

【谷本】私はシングルマザーで、働きながら三人の子育てをしてきました。それはもう大変な毎日でしたが、ふとしたときに「いつのまにか、こんなに子どもが大きくなっている。私、子育てがんばっているよ」とか「もう卒業式か。なんとかここまでやってこられた。すごいよ、私」みたいに、一人でつぶやいていましたね。

【K】やっぱり過程に目を向けるんですね。

【谷本】そうですね。いろいろな事情を抱えながら、なんとかここまで生きのびてきた過程に目を向けると、「自分も捨てたもんじゃないな」と思えるんですよね。自分をほめるって最初は恥ずかしいかもしれませんが、自分に何度も言葉をかけるうちに慣れてきて、そのうち習慣になります。「がんばった自分へのごほうび」なんてよく言いますが、物だけでなく、言葉のごほうびもおすすめですよ。

【K】ごほうびは大好きなので、やってみようかな......。

 

【谷本惠美(たにもと えみ)】
1962年、大阪府生まれ。1991年、カウンセリングルーム「おーぷんざはーと」を設立。カウンセラーとして33年、スクールカウンセラーとして18年の経験がある。得意分野は、家族・子育て・職場の問題。特に、モラルハラスメント問題に力を入れて取り組み、理解を深める活動や被害者支援にたずさわる。著書に『カウンセラーが語るモラルハラスメント』(晶文社)などがある。

 

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