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「いつやめてもいい」と思っている人ほど、三日坊主にならない

井上新八(ブックデザイナー)

2024年05月14日 公開

圧倒的な仕事量・質・実績で、業界では知らない人がいないブックデザイナー・井上新八さん。常時40件ほどの案件を抱えながらも、ジョギングや読書、ゲームなど数多くの習慣をこなしています。そんな井上さんでも、やめたくなることやしんどさを感じることがあります。そんなときどんなふうに考えれば三日坊主にならずに済むのか。その思考に迫ります。

※本稿は『「やりたいこと」も「やるべきこと」も全部できる! 続ける思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。


 

「いつやめてもいい」と思う

毎日やると決める! 前章の冒頭でそう書いた。さっそくくつがえすようだけど、別に本気で「毎日続けよう」なんて思わなくていい。

大事なのは「毎日やる」と決めておくこと。別にやらない日はやらなくていい。無理して続けてもつらいだけだし、無理すると続かない。

続けるって何かというと、「やめない」ってこと。やめなければ続く。どうやったらやめないでいられるか? それってじつは「いつやめてもいい」って思うことだったりする。

なんでも「続けよう」と思うとしんどくなる。昔、太ってしまったときに体重を減らそうと思って、夕食を枝豆だけにしたことがあった。そのとき「これいつまで続けるんだろう」そう思ったら、すごくイヤになった。こんなこといつまで続けるんだろう......そう思うと続く時間が途方もなく長く感じた。

「やめたくなったらやめよう」そう思うことにした。「明日はジャンクな夕食を許そう」なんて思いながら自分をだまして、枝豆を食べる毎日を送っていた20代の思い出。「いつやめてもいいや」って思ったほうがラクに続くという小さな発見だった。

そのことを痛感するできごとがその頃もうひとつあった。

20代の頃、会社勤めをしていた。新聞社でムック本の編集をする仕事。ちょうど20世紀の終わりを間近に控えた時期で、新聞社のプロジェクトとして20世紀史をまとめたシリーズ本を出すことになり、その編集をすることになった。100年分の様々なことを調べてまとめていく仕事。

企画を考えたり、資料を集めたり、写真を探したり、原稿を依頼したり、取材に行ったり、やることは多岐にわたった。かなりハードな職場で、みんな途中ですぐ離脱していく。わたしはなんとか耐えていたけど3年目にきて、仕事のハードさが限界に達して、精神的にきつくなった。

食事をしても、ものの味がわからない。帰りの電車で意識を失って倒れたり、頭にはフケが大量に出て歩く度に雪のようにフケが肩に積もったり、腹痛で動けなくなったり、身体に異常が出まくって、ストレスのかたまりのような状態になっていた。

毎日、「仕事をやめたい」って思っていた。通勤で乗っている電車が会社のある駅に近づくごとに、頭痛がしてきて、永遠に到着しなきゃいいのにって思っていた。でもやめるわけにはいかない。「続けなきゃ」、そう思って続けていた。

あまりにつらくて友人に相談したら「やめちゃえばいいじゃん。今すぐやめな」そんなことを言われた。「え!?」っていうほどあっけらかんとした答えだった。このひと言で急にラクになった。

「ああ、やめてもいいんだ」「いつでもやめられる」って思ったら、きつかった仕事が少しラクに感じられた。「今日を乗りきったらやめよう」と思うだけで、気持ちがラクになって、結局やめないですんだ。毎日「明日はやめよう!」そう思いながら、最後まで乗りきった。

ムック本が約4年で終わるプロジェクトだったので、最後まで勤務して、そのプロジェクトが終わって円満に会社をやめた。そのとき気づいた。「続けなきゃ」なんて思うとつらくなる。「いつやめてもいい」と思うと意外になんとかなる。ちょっと違う例えかもしれないけど「シロクマのことだけは考えるな」って実験に近いかもしれないと思った。

『シロクマのことだけは考えるな! 一人生が急にオモシロくなる心理術』(植木理恵著、新潮社)という本に載っている、要約するとこんな実験。

1987年に行われた実験で、集めた人を3グループに分けて、何も説明せずにシロクマの1日をおった50分程度の映像を見せる。見終わったあと、研究者がそれぞれのグループに
「シロクマのことを覚えておけ」
「シロクマのことは考えても考えなくてもお好きなように」
「シロクマのことだけは考えるな」
と別々のことを告げる。

1年後、内容をいちばん克明に覚えていたのは「シロクマのことは考えるな」と言われたグループだったそうだ。

「考えてはいけない」と禁止されることで思い出してしまう。思考を抑制しようとすることで、かえって思考が活性化してしまうのだという。「覚えよう」って思うより、「忘れよう」って思うほうが覚えていられる。心理的リアクタンスというらしい。

「続けよう」と思わないで、「やめてもいい」って意識するほうが、案外ものごとは「続く」のかもしれない。「毎日やる」と「いつでもやめていい」をセットで標準装備する。これがきっとうんざりしないで続けていくコツなのだ。

 

やったフリだけすればいい

どうしてもやりたくない日がある。あまり気が乗らない日......わたしだってある。そんなときどうするか。そんな日は、やったフリだけする。

例えばジョギングに行くなら、ウェアに着替えて玄関を出るまでやってみる。そこまでやって終わりにする。掃除をするならとりあえず掃除機を手に持つまで。日記なら、ペンを持ってページを開くまで。やったフリだけすると決めて、ワンアクションやった「フリだけ」する。

ただ不思議なことに、さわりだけやれば、意外にそのあとのことができてしまう。「玄関を出るところまで」なんて思っていても、出てしまえば「ついでに、少しだけ走っておくか」ってスイッチが入る。走っているうちに、「どうせここまで走ったら最後まで走るか」って、結局やりきってしまう。

やったフリだけして、それ以上やりたくなければそれでもよし。「やろうとした」自分を褒めて終了。やろうとしただけで100点!

「やる気」って、どうやったら起きるか。「やる気」って、「やる」と出てくるものなんだって。
脳科学の本に書いてあった。やらないと起きないのが「やる気」。「やる気」を出すためには「やる」しかない。永遠のパラドックスだ。

だから、最初の一歩だけ「やる」。やろうと思わないで、なんとなく小さくそのきっかけだけ手を付けちゃう。これでいい。「やる気のスイッチ」ってものがあるとしたら、それは「やるフリ」をすることかもしれない。

きちんとやろうと思わない。フリだけする。それが、簡単にスイッチを入れるコツ。

 

「休むなら明日!」は魔法の言葉

どうしてもスイッチが入らないとき──ある。そんな日もある。やったフリをするのもめんどうになる。特に新しいことをはじめてまだ自分がそれに馴染んでないとき。

ただそんなときこそやっておくべき日だったりする。続けることはやめないこと。そのためにはできるだけ「例外の日」はつくらないことだ。

今日は忙しいから。
今日は旅行に来ているから。
今日はほかにやることがたくさんあるから。
今日は気分が乗らないから。
今日は少し具合が悪いから。
今日は二日酔いだから。

ちょっとお休みしたくなる日が現れる。これがくせ者だ。気を抜くと、この例外の日が増えていく。だから、少なくとも「やることが当たり前」になるまでは、旅行中だろうが、正月だろうができるだけ「例外の日」をつくらないようにする。ストイックな話に思えるかもしれないけど、結果的に例外なくやるほうが圧倒的にラク。

本気でやりたくないと思ったら、こう言ってみよう。

「休むなら明日! 今日だけはやる」

明日は休もう。そう思うとラクになる。「休むなら明日!」、そう思って今日を乗りきる。毎日そう宣言する。すると......なんと、毎日やることになる。

明日に「お休み」というご褒美を毎日ぶらさげておく。ときどき本当にご褒美を与えると、ものすごく自分の中の人が喜ぶかもしれないので、適度にその願望もかなえてやりつつ続けていく。

特に「小さい」ことだと、やってもやらなくても同じように感じて、サボってもいいかなって思えてくる日がある。ただ「小さい」ことだからこそ、例外の日をつくらないことがすごく大事になってくる。「小さい」からこそ、その積み重ねが大事だ。旅行に行ってもやる。少しくらい熱があってもやる。例外なく今日を小さく積み重ねる。

休むとしたら常に明日なのだ。今日だけは絶対にやる。小さいことだからこそ。

 

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