ファッション、インテリア......。生活のあらゆる場面において、さりげなく「自分らしさ」を取り入れるのが大得意なフランスの人たち。その感性は、どのように磨かれているのでしょうか。フランスのリヨンでフランス人の夫と子ども3人と暮らすロッコさんが、現地で暮らす人たちから受け取った印象的な言葉から、その秘訣を紹介します。
※本稿は『主役はいつも"私自身"フランス人に学んだ「本当の感性」の磨き方』(大和出版)より一部抜粋・編集したものです。
モノ選びで大切なのは、「流行」よりも「自分らしさ」
「ブランド物のバッグ? 20年後ならほしくなるかもね!」
ブランド物に、そもそも興味がない人がいるという事実に衝撃を受けました。なぜなら私は、10 代〜20 代で飽きることなく毎月お洋服にお金をつぎ込み、借金までしていたほど。生まれ育った東京は、いつの時代もブランドのショップで溢れていたので、ファッションに興味がある人なら、「ブランド物の魅力」について共感してくれるものだと思い込んでいたからです。
ある友人は、ブランド物について、「否定はしないけれど、自分らしくない」と断言します。
正直私は、流行を追いかけていた当時は、「自分らしさ」なんて考えていませんでした。
一方、その友人は、ファストファッションや古着でも、服を「ただ着る」だけではなく、自分のスタイルに「なじませる」。友人を通して、そんなふうに洋服と深く付き合うこともできるんだなあと考えさせられました。
ブランド主義だった私は、ロゴ入りの服ばかり持っていました。
恥ずかしながら、「ヴィヴィアン・ウエストウッドのオーブや、マルタン・マルジェラの白いタグにこそ価値がある!」とさえ思っていた時期もあります。
ですが、私の身近にいる「シンプルなのにいつもおしゃれな着こなしをしている女性」は、どんな服でも、選ぶ基準は「自分に似合うかだけ」と言います。
そして、大胆にブランドのロゴが入っている服は、どれだけデザインが好みでも購入しない。「だって私は、歩く広告じゃないもの!」、そんなふうに話してくれました。
迷わない信念を持っている人は、自分が輝くポイントもよく知っているのですね。
緑色のペンは祖母の目印、赤いベレー帽はいつものムッシュー
私たち夫婦が日本に5年間住んでいたときに、フランスの家族や親戚からたくさんの手紙が届きました。
ある日、ポストの手紙を手に取った夫が「緑色のペンは、祖母の目印」と教えてくれました。
フランス人のパスポートには瞳の色の表記があるのを知っていますか?
祖母は瞳の色である緑色が大好きで、服もアクセサリーも、そしてペンの色も揃えてしまう人でした。
そんなふうに自分の「好き」を表現して、自他ともに認める「緑色のペンの祖母」になったのです。
このエピソードをきっかけに、私も自分の色のペンを探していますが、「コレ!」という1本にまだ出会えていません。
もし、あなたが自分の目印のペンを選ぶなら、何色にしますか?
近所のカフェで毎日コーヒー1杯と新聞を頼む、60代のムッシュー。彼のトレードマークは赤いベレー帽子。
挨拶とともに「帽子がお似合いですね」と声をかけると、「いつも同じでいいんだ。遠くから見ても赤いベレー帽子が見えたら俺のことわかるでしょ」と返ってきました。
彼の言うとおり、カフェでもマルシェでも、赤い帽子がチラッと見えると「あ、あのムッシューがいる」と思うのです。
そして、このエピソードで思い出したイヴ・サン=ローランの名言があります。
Les modes passent, le style est éternel.(ファッションは色あせても、スタイルは永遠のものだ)
いろんなファッションに手を出して、トレンドを追い駆けてきたからこそ、自分のスタイルを築くことの大切さに気づくのでしょう。
大切な人の思い出の品「形見」をさりげなく身につける
古い物と新しい物を融合させて独自のスタイルを確立している人に、つい目を奪われることがあります。彼らは、家族の形見であってもうまくスタイリングしています。女性はピアスや指輪などのアクセサリー、そしてバッグや帽子、手袋などの小物を受け継ぐことが多いようです。亡き祖母がどんな人だったのかの思い出や学んだことなども教えてくれます。
そもそも形見とは、亡くなった近しい人が日常的に使っていた物や、その人にとって思い入れのあった物。家族や友人、人との繋がりを大切にしているフランス人だからこそ、悲しい出来事も自分の人生の一部として表現してしまうのでしょう。
私には、着物が大好きだった母が手作りした帯留めがあります。興味があることにはすぐ挑戦して、なんでも手作りしてしまう母のエネルギーを思い出す形見です。
あなたには大切な人の形見、ありますか?
服のサイズは自分に似合っているかを1㎝単位でこだわりぬく
ある調香師さんが新作の香りを発表したと聞きつけて、早速お店へ向かいました。
いつも心地よい香りに包まれている店内。ブロンドヘアをポニーテールにまとめて、キリッとした表情のマダムが、新作の特徴について丁寧に説明してくれました。「これは絶対ほしい!」と衝動買いしそうになった私に、彼女はすかさず提案します。
「手の甲につけてみますね。今日はすぐ買わないで。あなたが身につけた香りの変化を観察して、気に入ったらまた来店してくださいね」
「1回目の訪問で買わせない」というこのお店の方針にはびっくり。それと同時に、「自分に合っているか」を吟味するフランス人の「香り選び」の奥深さについても教えてもらいました。
そのこだわりは、服のサイズにも表れています。
あるとき、ネットで購入したボトムスが長すぎて、家の近くのお直し屋さんに相談しました。
とても小さなお店で、普段はその存在も気づかなかったほど。緊張しつつも思い切って入店しました。シャンソンをBGMとする店内には、おしゃれなマダムがひとり。ヴィンテージのパンツスーツを着こなし、首にメジャーをかけ、丁寧に対応してくれました。
「たった1センチでもお直ししますよ。あなたのベストサイズを見つけましょう」。
彼女の話によると、このお店には、私のような買い物に失敗した人だけでなく、既製品を数センチだけお直しするお客さんも多く来店するとのこと。
洋服に関しては「自分の体型が変化したから……」と妥協することが多かったのですが、今は、ちょっとサイズが違うなと感じたら彼女に相談しています。
毎朝のコーヒーカップ選びは、直感を磨くトレーニング
古い物を大切にする、完璧を目指さない、そして不完全でも美しいと教えてくれたのはフランスの家族です。
例えば、ペアじゃないカップ、不揃いなデザインの椅子で囲むダイニングテーブル、時には道端で拾った物なんかも取り入れる……。
有名なインテリア雑誌に掲載されるような、洗練された物とは少し違うかもしれない。けれど、このタイプの人たちは、自分の「好き」を誰よりも知っていて、とことん向き合い、大切にしている。そんな空間には、型にはまらない発想があると感じるのです。
まさに「お気に入りに囲まれた暮らし」ですね。
私が住むフランスの都市・リヨンでは、毎年9月に「Tupiniers du Vieux-Lyon」という陶芸市が開催されます。カップや器などの日常使いできるものから、花瓶やオブジェなどの大きな作品まで、作家さんそれぞれの表現方法に出会える刺激的なイベントです。
そんな陶芸市に訪れた際、ある作家さんのスタンドで、たまたま横にいたマダムの「コーヒーカップは、毎朝お気に入りを一客選ぶの。直感を磨くトレーニングよ」という一言で、その場の会話が盛り上がりました。
そして感覚を研ぎ澄ませる日々のトレーニングがあるからこそ、多数の作品を前にしても迷わず「今年の一客」を選べる。このような凛とした姿が印象的でした。
私の義母も、陶芸家の作品を集めるのが趣味のひとつ。棚にはバカンスの旅先で出会ったカップやサラダボウルがあります。そんな旅の思い出のシェアも素敵ですよね。