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生き方

他人の目が気になる...人間関係の疎外感から解放される“体へのアプローチ”

大沼竜也(鍼灸師)

2024年09月16日 公開

あがり症で人と話すのが苦手。他人の目が気になってしまう。いつも疎外感がある...。こんなときは、頭で考えるのではなく、体に目を向けるほうが有効です。人づきあいに関する悩みに体からアプローチする簡単な方法を鍼灸師の大沼竜也氏が紹介します。

※本稿は、大沼竜也著『心と体のコリをほぐすセルフリセット』(大和出版)から一部抜粋・編集したものです。

 

信頼関係がないと、コミュニケーションに「緊張」がうまれる

日々クライアントの皆さんの話を聞いていると、多いのがコミュニケーションに関する悩みです。「人と話すときに必要以上に緊張してしまって、肩は凝るし心臓はバクバク、息は上がるし汗はかくし...」と悩みは尽きません。

こうした悩みを持つ方の特徴として、「コミュニケーション」と「緊張」が強く結びついていることが挙げられます。

人と話すときに緊張するのは、そのほとんどが相手との「信頼関係」に不安を感じている、と捉えることもできます。それは平たくいえば、相手に対して心を開いていない、受け入れる姿勢になっていないといえます。

体をガチッと緊張させることは「防御反応」ともいい、外敵から身を守るための動物的な本能です。つまり、相手との信頼がないために、本能が暴走して体が緊張している。体が緊張することで、精神的にも塞ぎ込むようになってしまいます。

しかし、現代人は社会的な動物です。積極的に人と関わることができないというのは、それなりの生きづらさに直結します。そして、これには個体差があり、コミュニケーションにストレスを感じやすい人、感じにくい人がいることも確かです。

ですが、人づきあいが苦手な方でも、コミュニケーションにおいて適切な身体イメージを持つことで、コミュニケーションが「楽しい」と思えるようになるのです。

ここでは幼い頃から人見知りだった私が、このイメージを体に覚え込ませた結果、コミュニケーションが大好きな人間に変わったやり方を紹介します。

 

「胸」を意識してあたたかい気持ちを受け取る

そもそも人は、言葉だけではなく、声音、目線、姿勢や抑揚、リアクションなどの身体言語を用いてコミュニケーションを取ってます。「ボディランゲージ」というと馴染みがあるかもしれません。こうした中でも、特にデリケートな部分「胸」の意識が重要です。慣れるまでは、ひとりで感覚を掴んでみましょう。

鏡の前に立ち、鏡に映る自分を相手に見立てるとわかりやすいです。まず、胸をさすって、胸の奥にソフトボール程度の球体をイメージします。このボールには、人のあたたかさや人間らしさを詰め込んだ「熱性の気」が詰まっています。ほんのりあたたかく、意識するとふわーっと胸がほぐれるような感覚をイメージしましょう。

このボールから相手(鏡に映る自分)の胸へ向かって、「柔らかな放物線」を描くようにお互いを結びます。この放物線を通して、相手からあたたかくふわーっとした気持ちを受け取るようなイメージです。

呼吸するときに重要な胸郭の中心に、柔らかなイメージを覚えさせることで、コミュニケーションが心地よいものだと記憶され、深い呼吸へと導いてくれます。イメージを体に染み付かせることで、自然と呼吸は深く、心理的にも深いリラックスをもって、人と関わることができます。

 

疎外感を抱くのは、「身体的つながり」を感じられないから

他人の目が気になって、自分を装ったり、周りを伺ってしまう。

これを心理学的に見ると、「他人から低い評価をされて、嫌われたり笑われたりするのではないか」という「疎外感」に対する恐れだと捉えることができます。

この場合の疎外感は、本人が想像の中で勝手につくり上げたものがほとんどで、実際には、他人は全く気にしていなかったり、もっとフラットな目で見ている可能性のほうが高い。それにも関わらず、「疎外感」を必要以上に抱いてしまう要因として、他人との「身体的なつながり」を感じられていないことが挙げられます。

身体的なつながりとは、言葉にするのが難しくても「あの人は大丈夫」「見守ってくれている」と思えることです。こうした安心感やつながり感は、より動物的な感覚です。頭だけで理解しようとすると、虚しさに押しつぶされるかもしれません。

実際にカウンセリングの場で、「頭ではわかっているけど、そうなれない」というもどかしさがストレスとなり、心身を壊してしまった方を何人も見てきました。ここでは、大切な存在から尊重されていることを「感覚」ありきで、感じられるのが理想なのです。

では、体のどの部分で「人とのつながり」を感じられるのでしょうか?

これには、先ほどフォーカスした「胸」が大きく関わってきます。相手からあたたかくふわーっとした気持ちを受け取るイメージができたら、さらにこちらから相手に投げかけて、自分を受け止めてもらう意識を体に結びつける必要があります。

 

胸を開いてあたたかい気持ちを相手に注ぐ

まずは、胸骨の上端とみぞおちを結んだ線のちょうど真ん中、ここから少し奥に入ったところに丸くあたたかい「ムネ」の意識を持ちます。

ムネは「あなたと仲良くなりたい」「あなたのためになりたい」といったあたたかな気持ちがふんだんに含まれる場所でしたね。

この自分のムネから、周囲の人のムネに、放物線を描くように「気」を渡すようなイメージを持ちます。これは対面にいる人に限りません。

手のひらを使って、ほぐれるように、あたたかく、ふわーっとした感覚を引き出すようにさすります。その柔らかな感覚が、相手に注がれるイメージです。このイメージがうまくできない人は、胸を開く、つまり心を開くことがしばらくできていなかった証拠かもしれません。

動物的な本能として、無防備な体の前側は守りたくなるのが当たり前ですが、これを理性の部分で再教育していきましょう。

実践してみると親しい人にはできるけど、苦手な上司にはイメージが湧きにくい。むしろしたくない、という感覚が生まれるかもしれません。これはまさしく、特定の人に「心を開きたくない」と思っている証拠です。嫌なことをされたとか、怖い思いをした人と似ているとか、何らかの経験が紐づいている可能性があります。

こういった意識を新しく上書きできるのが、この身体的アプローチの特徴でもあるのです。前述の「相手を胸で受け止める感覚」、そしてここでお伝えした「自分から相手に投げかける感覚」、この相互の結びつきが得られて初めて、本当のつながりを心から感じることができるはずです。

 

著者紹介

大沼竜也(おおぬま・たつや)

鍼灸師

大沼鍼灸院長。1991年宮城県生まれ。幼少期にカトリック系の教育を受け、東西文化の融合に対する寛容な視点を培う。旧赤門鍼灸柔整専門学校を卒業後、医療・介護領域での豊富な臨床経験を基盤に、2018年仙台市で大沼鍼灸を開業。身体心理学およびソマティック心理学に基づき、精神領域と身体運動の相互関係を変容させる独自のアプローチを実践し、クライアントの心身のバランスを取り戻すことに貢献している。
また、全国規模でのワークショップやセミナーを主催し、専門家向けの学習プログラム【somatics(ソマティクス)】を展開。一般向けには、レジリエンス(精神的回復力)を高めるセッションプログラムを提供し、多方面から支持を集めている。

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