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25年以上続く「新卒の3割が辞める」問題...就活に求められるアップデートとは?

渡辺秀和(コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEO)

2024年10月03日 公開 2024年12月16日 更新

日本の若手社員の早期退職問題。その背景には、学生が自分の「やりたい仕事」を明確にせず、社会に出る準備も不十分なまま就職活動を進めているという2つの大きな問題があります。この問題を解決するためにできることとは? コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEOの渡辺秀和氏が解説します。

 

日本の就職活動に潜む問題とは?

「今年入社した新卒社員が早くも退職してしまった」「若手社員がなかなか定着してくれない」――。このような悩みを企業の人事の皆さんから伺うことが多くなっています。

新卒社員の約30%が入社3年以内に離職してしまう状況は、ここ数年だけの傾向ではありません。実は、バブル崩壊後、25年以上も続いています。決して、今の若い世代だけの現象ではないのです。

しかも、新卒社員の早期退職は、企業の規模に関係なく起こっています。キャリア支援を行なう私たちの会社にも、就職人気ランキングの上位企業に勤める20代前半の方から多くのご相談をいただいています。

この現象の背景には、「日本の就職活動に潜む2つの問題」があると私は考えています。

ひとつは、多くの学生が自分の好きなこと、やりたい仕事を十分に考えないまま就職活動をしてしまっている点にあります。もちろん、大半の学生は、ESや面接の対策を入念に行ない、企業説明会に積極的に参加するなど、就職活動に熱心に取り組んでいるでしょう。しかし、ポイントはそこではありません。

当然のことですが、自分の価値観や「やりたい仕事」をしっかり把握してから就職活動をしないと、フィットする会社を見つけることはできません。もし、知名度の高い企業や年収が高い企業からの内定獲得にばかり意識を奪われているとすれば、本末転倒と言えるでしょう。

実際、弊社にご相談に来られる20代の社会人の方々を支援する中でも、自分が本当にやりたい仕事ではなかったという転職理由が多く聞かれます。内閣府発表の「就労等に関する若者の意識」調査でも、初職の離職理由として最も高いのは「仕事が自分に合わなかったため」となっており、43.4%を占めています(※)。

※出典:内閣府『平成30年版 子供・若者白書』 (https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F11340366&contentNo=3)

もうひとつは、社会に出る準備が不十分なまま、就職してしまう学生が多いことです。大学で学べることと、社会に出てから求められる知識やスキル、スタンスとの間には隔たりがあるのが実態でしょう。残念ながら、新卒の学生が企業で即戦力として通用することは稀です。

採用企業も、初めから新入社員に高い成果を求めているわけではありません。しかし、顧客へのメール作成のマナーや簡単な議事録の作成、エクセルの操作から教えなければいけないとなると、上司や先輩社員もストレスが溜まります。

また、他者と協働する上で求められる「報連相」などが十分にできないとなると、トラブルを招きやすくなります。結果として、期待される成果を挙げられず、上司やクライアントとの関係が悪化し、仕事を続けるのが辛くなるという事態が生まれることになります。

先述した内閣府の調査結果でも、離職理由の2番目は「人間関係が良くなかったため」で、その割合は23.7%となっています。実際、「上司から叱られることが多くて、会社にいるのが辛くなった」と退職する若手社会人は少なくありません。

 

「好き嫌いの把握」と「長期インターンへの参加」

それでは、この2つの問題をどのように解決すればいいのでしょうか。

自分にフィットする仕事や情熱を持てる仕事に出会うためには、まず、自分の「好きなこと」や「嫌いなこと」を知る必要があります。しかし、これは決して容易なことではありません。社会人でも、自分の価値観を把握できておらず、仕事に悩む方は少なからずいらっしゃいます。

自分の価値観と向き合う作業は、時間がかかるものです。就職活動が本格化する大学3年生から取り組んだのでは遅すぎます。就職活動が始まってしまうと非常に忙しくなるため、大学1、 2年時には始めるべきでしょう。

具体的には、「自分はどのようなことが好きなのか」という問いを持って日々を過ごす、日記をつけて自分と向き合う習慣を持つ、といったことが大切になります。友人と互いの将来について、ゆっくりと語り合うのも良いことです。毎日何時間も取り組む資格試験の勉強などとは異なり、学業や学生生活に影響が出ることはないですし、意識さえすれば誰でも取り組めるものと言えるでしょう。

次に、社会に出る準備として私がお勧めしたいのは、「長期インターン」への参加です。これは、新卒採用における選考プログラムの一環として行なわれる数日のインターンとは違い、半年から2年程度かけて、若手社員と同じように実務に従事するものです。なお、長期インターンに参加したからと言って、卒業後にその企業に入社しなければいけない、ということはありません。学生は安心して参加できます。

長期インターンで基礎スキルを身につけてから入社すれば、クライアントや上司から早い段階で評価され、仕事が楽しくなるでしょう。そうなれば、努力するエネルギーが生まれ、さらに成果が上がるという「良循環」に乗ることができます。長期インターンの経験は、社会人として良いスタートを切る上で大いに役立つのです。

長期インターンについては、学業への影響を懸念する声も聞かれます。しかし、長年インターン生を受け入れてきた経験を持つ私たちは、むしろ学業へのモチベーションが高まる効果を感じています。長期インターンをきっかけに、大学での研究成果が社会に与えるインパクトに気づき、単位取得を目的にした授業選びから本質的な学びへと変化する学生も多いのです。

ここまでお話ししてきた、好き嫌いの把握をはじめとする「キャリア設計」の知見や、「長期インターン」の機会を学生へ提供するために、弊社は大学1年生から利用できる就活サイト「CareerPod(キャリアポッド)」(https://careerpod.jp/)を運営しています。

「CareerPod」では、ビジネス知識を持たない大学1年生にも理解できるよう、キャリア設計を基礎から噛み砕いて解説しています。さらに、優良な企業・NPOでの長期インターン募集情報を掲載。なお、この掲載は、弊社の社会貢献活動の一環として「完全無料」で実施しています。より多くの企業・NPOの皆様にご参画いただくことで、「日本の未来のために、学生のキャリア形成を支援する」という活動が広がることを願っています。

 

「キャリア設計」が日本の将来に与えるインパクト

少々大げさかもしれませんが、キャリア設計には「日本を豊かな社会にする力」があると、私たちは真剣に考えています。

キャリア設計のリテラシーを身につけ、自分の価値観に合った仕事に就くことで「自分が望む人生」を実現できると、精神的に豊かになるでしょう。同時に、多くの場合、収入を高めることも可能になります。これは、仕事を通じて生み出される付加価値が高くなることを意味しています。

一人ひとりが生み出す付加価値が高まれば、人口が増えなくても、日本全体で生み出す価値が飛躍的に高まります。これは、少子化によって社会の活力が失われることが懸念される中、日本を活性化する上で非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。

言うまでもなく、少子化対策は必要不可欠な取り組みです。しかし、仮に画期的な施策によって新生児が急増したとしても、経済的なインパクトが生まれるまでは、どんなに早くても20年以上かかってしまいます。あくまでも長期的な視点による方策なのです。

一方で、豊かなキャリアを歩む人々が増えることで、早ければ数年後にも成果が表れる可能性があります。

適切なキャリア設計のもと、自分の好きな仕事を通じて、周囲の人々を幸せにし、より良い社会をつくる――このような豊かな人生であふれる社会を、皆様と一緒に実現していきたいと私は考えています。

 

著者紹介

渡辺秀和(わたなべ・ひでかず)

コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEO

一橋大学商学部卒。三和総合研究所を経て、コンコードエグゼクティブグループを設立。1000人を超えるビジネスリーダーに対して、戦略系コンサルティングファーム、PEファンド、外資系企業やベンチャー企業の経営幹部、起業家などへのキャリアチェンジを支援。「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターを務めるなど、学生へのキャリア教育活動を積極的に行っている。著書『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は、東京大学においてキャリア設計の教科書に選定された。

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