SNSマーケティングだけでは限界? ゲーム業界で加速する「オウンドコミュニティ」戦略
2026年08月11日 公開
近年、ゲーム市場はかつてないほど活況を呈しています。AAAクラスの大作から高品質なインディーゲームまで、日々大量の新作がリリースされ、プレイヤーの選択肢は無数に広がっています。ユーザー目線で見れば、様々なタイトルの中から自分好みの作品を選ぶことができるのは喜ばしいことである一方で、作品数が増えるほど、ひとつのタイトルが埋もれてしまうリスクは高まっています。
飽和状態ともいえるゲーム市場でプレイヤーの関心を引き続けるには、これまで通りのマーケティング手法では限界が見えてきています。そこで、近年注目を集めているのが「オウンドコミュニティ」です。
SNSマーケティングの限界
SNSを活用したマーケティングは、長らくゲーム業界のスタンダードとして機能してきました。しかし、2023年半ばにTwitterがXへ移行した後は、プラットフォームの方向性や仕様が不安定になり、ブランドが一貫したテーマや話題を維持することが難しくなっています。
コミューン株式会社エンタープライズ事業部の真殿晃輔さんによると、SNSマーケティングには「タイムライン上での話題/情報の混線」「人への向き合いを前提にした体験設計(Xでは特定の個人をフォローする必要がある)」「常に共感・高潔な態度が求められるオープン空間」という3つのハードルがあるといいます。
実際、SNSのタイムラインでは、自社ゲームの情報が他ジャンルの話題や広告に埋もれ、ゲームの世界観やブランドメッセージを継続的かつ一貫して届けることが難しい状況にあります。
さらに、ユーザーに投稿を見てもらうには、まずアカウントをフォローしてもらう必要がありますが、アルゴリズムの影響でフォロワー全員に情報が届くわけではありません。特に新規タイトルや小規模デベロッパーにとっては、情報拡散のハードルが高くなっています。
また、SNS上では公式アカウントが常に公的で慎重な態度をとることを求められます。ネガティブな反応や炎上を避けるため、柔軟なコミュニケーションやユーモアのある発信がしづらく、結果として熱量の高い交流が生まれにくい傾向にあると言えるでしょう。
かつてTwitterには、ゲーム業界向けの公式アカウント「@Twitter Gaming」が存在しました。2015年の立ち上げ以降、リーグ・オブ・レジェンド世界選手権やSummer Game Fest、The Game Awardsといった大型イベントと連携して積極的な情報発信を行い、ゲーム業界の盛り上げに大きく貢献していました。
しかし、Xへの組織再編に伴いTwitter Gamingのマーケティング部門は縮小し、ゲーム関連の情報発信力は明らかに低下したといわれています(※1)。
注目される「オウンドコミュニティ」
2023年、Twitter Gamingのマーケティング部門が縮小され、プラットフォーム全体が混乱したことを契機に、ゲームクリエイターや公式アカウント運営者の間では、SNSへの依存リスクを回避する動きが一気に加速しました。その結果、DiscordやYouTubeといった代替プラットフォームへの移行が顕著になっています。
この潮流の中で、特に注目されているのが、企業が自ら運営する「オウンドコミュニティ」です。外部SNSに依存することなく、ファンが一か所に集まり、ゲームの世界観やアップデート情報、イベントを軸に交流できる場を提供することで、熱量の高いファン層を長期的に維持することが可能になります。
海外ではDiscordを活用した大規模なコミュニティ運営が定着しつつあります。たとえば、日本でも人気の中国発タイトル『原神』の公式Discordは参加者数218万人を突破しています。さらに『Marvel Rivals』ではその規模が418万人を超えており、世界中のプレイヤーが集う巨大コミュニティとなっています。
コミュニティでの活動は情報共有だけに留まりません。たとえばFortniteでは、公式コミュニティ内で「シーズン限定ミッションチャレンジ」が開催され、達成者にはゲーム内アイテムが配布されます。BungieのDestiny 2コミュニティでは、定期的に「開発者Q&Aセッション」や「ファンアートコンテスト」が開かれ、優秀作品は公式SNSやゲーム内で紹介される仕組みが整っています。
miHoYoが運営するHoYoLABでは、ゲーム内イベントと連動した「スクリーンショットコンテスト」や、特定キャラクターの誕生日に合わせた「ファンアート募集イベント」が行われ、コミュニティが一種の「拡張されたお祭り空間」として機能しています。こうした企画は、参加者のロイヤリティを高め、継続的なアクティブ率の向上にもつながっています。
コミューン株式会社が提供するオウンドコミュニティサイトでは、プレイヤーがゲーム内でプレイ継続を妨げる壁に直面した際、コミュニティ内で他のプレイヤーに質問することで解決の糸口を得られる仕組みを提供しているといいます。これにより、課題突破や成功体験が生まれ、その体験を再び投稿・共有することで活動意欲が高まり、助け合いの循環が実現できているそうです。
このように、コミュニティは単なるPRの場ではなく、開発者とユーザー、あるいはユーザー同士が双方向で関わる場としても重要な役割を担っています。
飽和する市場の中で、プレイヤーとの直接的かつ継続的な接点を持てるオウンドコミュニティは、ブランド価値とユーザー定着率を高める戦略としてますます重要性を増していくことは間違いないでしょう。
【参考文献】
※1:https://www.washingtonpost.com/video-games/2022/11/11/twitter-gaming-elon-musk/
(取材・執筆:小林実央)