部下の「良いところ」を伝えられない上司 なぜ厳しい指導ばかりしてしまうのか?
2025年08月30日 公開
フィードバックとは「部下やメンバーに成果を出してもらうために、上司やリーダーの視点から相手の行動を客観的に伝え、ともに改善を図る手法」のことです。立教大学教授の中原淳さんは、企業においてフィードバックのニーズの高まりを感じているといいます。
フィードバックは、ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックに分けられます。特に、日本のマネジャーの多くは、相手の良いところを通知し、それを強化させる目的の"ポジティブフィードバック"が足りていないのだそう。中原さんの著書『増補改訂版 フィードバック入門』より詳しくご紹介します。
※本稿は、中原淳著『増補改訂版 フィードバック入門』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです
日本のマネジャーの大半は「ポジティブフィードバック」が足りていない
日本のマネジャーの大半は、ポジティブフィードバックが足りていない。これでは部下は育たない――。
『フィードバック入門』(旧版)を上梓してから10年弱、さまざまな企業のマネジャーにその手法を伝える中で、そんな思いを強く抱くようになりました。
ポジティブフィードバックの話題に入る前に、改めて、そもそもフィードバックとは何かから復習しましょう。
受ける側の視点で定義すると、フィードバックには大きく二つの要素があります。
一つは「今、自分がどういう状態なのかを、他人の眼と言葉を通じて知ること」。もう一つは「その情報をもとに、自分の行動を改善したり、促進・継続したりすること」です。
一方、フィードバックする側の視点から定義すると、「相手がどういう状態なのかを、自分の言葉で伝えること」「そうすることで、相手に行動を改善・促進・継続してもらうこと」と言えます。
ビジネスパーソンにとって、フィードバックは成長に欠かせないものです。なぜなら、フィードバックを受けないと、「今、自分がどういう状態なのか」「このままの行動を継続していいのか」がわからなくなっていくからです。
私はよく、フィードバックを「鏡」にたとえます。自分の身だしなみは鏡がなければチェックできないように、ビジネスにおいても、「鏡」がなければ「自分の行動のよしあし」は見えてきません。
お客様との商談やプレゼンで適切な行動を取れているのか。チームで働いているとき、自分の役割を果たせているのか。そうした日々の行動を改めて自己認識(self-awareness:セルフアウェアネス)することが大事です。なぜなら、「自分の強みや弱みの正確な把握」ができていないと、何を改善し、何を磨けばいいのかがわからないので、成長が止まってしまうからです。
成長するためには、誰かに「鏡」の役目を果たしてもらい、フィードバックを受けることが不可欠なのです。
フィードバックが必要なのは若手だけではなく、中堅・ベテランも同様です。年齢が上がるにつれて周囲からのフィードバックが少なくなることで、自分がわからなくなり、パフォーマンスの低下につながるケースは少なくありません。
最近の若手はフィードバックの重要性を認識していて、自分から「今の自分の立ち位置や全体像を教えてほしい」とフィードバックを求めてくる人もいます。
25年前、私が教員になった頃は、「つべこべ言わずやれ」という教育スタイルが企業でも一般的だったと思いますが、今の若手にそれは通用しません。丁寧なフィードバックが求められています。
ポジティブフィードバックの三つの効果
ポジティブフィードバックを苦手とするマネジャーが多い理由の一つに、マネジャー自らが褒められて育てられていないことがあるでしょう。今の40〜50代には、褒めるどころか、怒鳴りまくるようなスパルタ上司に育てられてきた人がたくさんいます。自分が他者からしてもらったことがないことを、人にするのは難しいものです。
マネジャーの中には、ネガティブフィードバックは「難しい」ので「あえて学ぶ必要がある」が、ポジティブフィードバックは「褒めるだけなので簡単」だと考えている人も散見されます。部下を「よいしょ」しておけばいいんでしょ、と軽く考えてしまうのです。
しかし、PHP研究所が34名の若手ビジネスパーソンを対象に調査をしたところ、部下にまったく響いていないポジティブフィードバックが、想定よりも多いことがわかりました。マネジャーの中には「ポジティブフィードバック」をまったく学んでいない人が少なくないのです。学んでいないことは、なかなか実践できません。
チームをマネジメントする上でも、部下を育てる上でも、ポジティブフィードバックは欠くことができません。具体的には次の三つの効果があります。
一つ目は、部下の仕事の満足度やモチベーションが高まることです。仕事の成果や頑張ったプロセスを的確に褒められれば、成長を実感でき、さらに難しい目標に挑戦しようという意欲が湧いてきます。自分がこれまで担ってきたこと以上の仕事にも挑戦したり、他人の仕事をカバーしようとする行動を取るようになります。それがまた成果につながれば、良い成長サイクルに入っていきます。
また、自分の得意なことや強みがわかれば、どんなキャリアを歩んでいくといいかが見えやすくなります。そうなれば、仕事にも身が入ることでしょう。
二つ目は「信頼の貯金」が貯まっていくことです。上司がポジティブフィードバックをしていると、上司と部下の関係性がよくなり、信頼度も上がっていきます。すると、ネガティブなフィードバックをしたときに聞き入れてもらいやすくなるのです。
また近年の研究では心理的安全性を育むこともできると報告されています。心理的安全性の高い職場では、部下はリスクを取って主体的に行動できるようにもなるでしょう。
三つ目は、部下の革新行動を高めたり、役割外行動(組織市民行動)を高めることができ、そのことによってパフォーマンスを高めることができることです。より具体的には、ポジティブフィードバックを受けた部下は、主体的な行動を取り、新たな提案活動を行ったり、仕事をよりよくするための行動を取ってくれることがあります(革新行動)。
また、本来、自分の役割ではない行動を積極的に担ってくれることもあります(役割外行動・組織市民行動)。ポジティブフィードバックは、部下に望ましい効果を与え、タスクの生産性を高めることがあります。