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「体験格差」に直面する児童養護施設出身の若者 宮崎を出て初の東京旅行で知った“可能性の大きさ”

PHPオンライン編集部

2026年08月25日 公開

「体験格差」に直面する児童養護施設出身の若者 宮崎を出て初の東京旅行で知った“可能性の大きさ”


青島学園の高校3年生9名

宮崎県の児童養護施設・青島学園で暮らす9人の高校生が、今年6月に東京への卒業旅行を経験しました。生まれた家庭や地域の環境によって、子どもが得られる経験の機会に差が生じる「体験格差」。近年注目を集めるこの社会課題に向き合うべく、実業家・投資家・映画プロデューサーとして活躍する嶋村吉洋さんが企画したのが、このプロジェクトです。「子どもたちが社会の広さを実感し、自ら未来を選択できるきっかけをつくりたい」——そんな願いから実現しました。

 

初めての「県外」へ

東京タワー、国会議事堂、歌舞伎座——東京の街を巡り、宮崎では見たことのない景色に触れた2日間。青島学園の職員・小山田さんは、子どもたちの様子をこう振り返ります。

「人が多くて、ビルが高いっていうので驚いていました。疲れも見えていましたけど、人混みに入ったりとか、普段はそういった経験もないので、逆にいい体験ができたんじゃないかと思っています」

参加した男子生徒は、ディズニーランドでみんなとアトラクションに乗ったことを一番の思い出として挙げました。旅行後、彼はこんな言葉を口にしました。

「働いてお金を稼いで、今度は一人で東京を観光したい」

そして、また東京を訪れることができたら、秋葉原に行ってみたいとはにかみながら教えてくれました。

一方、別の女子生徒が最も驚いたのは、ホテルでの夕食の場面だったといいます。「外国の方がたくさんいて、英語が飛び交っていたのがとても驚いた」と教えてくれました。今後挑戦したいことを問われると、「いろんな国に旅行してみたい」と語ります。東京のみならず、海外への興味もこの旅行が引き出してくれました。

 

「言葉だけでは、埋められない」

青島学園では、施設として県外旅行を行ったことがこれまでありませんでした。施設長の大坪さんは、今回のプロジェクトの意義をこう語ります。

「言葉だけではできないし、実際に行ってみないとわからない。体験してみないとわからないことがある。そこはどうしても埋められない部分なんです」

日常の中にも、体験格差の影は潜んでいます。職員の一人は、料理をする場面で野菜の見分けがつかない子どもがいることに触れ、「普通の家庭で生活していたら目にするものや、やることの経験が少ない」と語りました。自立に向けた支援を重ねながらも、「生活の中で気づいて、いかに支援していくかがポイント」と話します。

卒業後に県外へ出る子どもも少なくありません。東京を希望する子もいる中で、電車の改札で立ち止まる場面があったことも、小山田さんは率直に語りました。

「次の電車に乗るために急がないといけない場面で、いろいろ教えることができた。今後、宮崎を出て生活するときに必要な力だと思う」。旅行の何気ない一瞬が自立の練習にもつながっていたことを明かしてくれました。

 

「願望を作るために、見て触れて感じる」

このプロジェクトを支援したのは、宮崎・青島をこよなく愛するという実業家の嶋村吉洋さんです。サーフィンや仕事で週に一度通ううちに青島学園の存在を知り、施設を訪問。スタッフの誠実な運営姿勢に触れ、支援を決めました。

子どもたちを東京に連れて行くことにこだわった理由を、嶋村氏はこう説明します。

「意志は弱い。しかし願望は強い。その願望を作ったり磨くためには、見て触れて感じることが重要だと思うのです」

東京で子どもたちに特に触れてほしかったものを問われると、答えは一言でした。「人の可能性はとっても大きいということです」。

社会課題への関わり方についても、嶋村さんは慎重な視点を持っています。「支援したいという善意や熱意が逆効果にならぬよう、対象とする団体と十分にコミュニケーションをとることが重要」と語ります。それぞれの施設には、長年培ってきた文化や秩序があります。その歴史を尊重することが、支援の前提にあるといいます。

 

旅行が残したもの

大坪施設長は、今回のプロジェクトをこう振り返りました。「ちっちゃい頃からずっと一緒に生活してきた子たちが、一緒に旅行に行けた。家族以上の絆を持つ彼らにとって、本当にいい思い出になったと感じています」。

さらに「『働いてお金を貯めて、もう一度東京に行きたい』という目標ができあがった生徒もいる」——大坪施設長はそう目を細めました。漠然としていた将来に、小さくても確かな灯りがともった2日間でした。

生まれた環境が、子どもの未来を本当に左右してしまうのだろうか。このプロジェクトは、そんな問いを社会に静かに投げかけています。

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