(宇宙兄弟(C)小山宙哉/講談社27巻#257)
メンバーの能力を引き出し、チームワークを最大化するために心得ておくべきことは? 今の時代に求められるのは「ファシリテーター型のリーダーシップ」と説く組織開発のプロ・長尾彰さんが語る、リーダーとして意識しておきたい「しないこと」リストを紹介する。
*本稿は、長尾彰著『宇宙兄弟「心理的柔軟性」リーダーシップで、チームが変わる! リーダーの話』(Gakken)より一部抜粋・編集したものです。
「しないこと」を増やしていく
「メンバーが受け身で、チームが思うように動いてくれない」
「チームワークが発揮できていない」
多くの組織で聞かれるこうした声に対して、リーダーは何ができるのでしょうか。
・上司や同僚、部下、後輩と面談し、自分に何を期待しているのかを聞く。
・仕事や作業を依頼されたときに、「自分の何に期待して、その作業を依頼してくれたのか」を聞いてみる。
・研修会を開催して、メンバー同士がお互いに何を期待しているかを話し合う。
など、複数のアイデアが出てくると思います。チームづくりにおいて「やれること」は無限ですが、こうしたアプローチを丁寧に実践していくことが効果的だと思います。
そしてもうひとつ、「リーダーができること」として、あえて「しないこと」を増やしていくというアプローチの方法もあります。
これは、ファシリテーターである僕自身が日々大切にしている視点であり、実際に取り入れた結果、多くのチームが自然とアクティブ(能動的)になっていったと実感しているもので、「しないこと20の原則」として次のようにまとめました。
褒美で釣るのは逆効果
【しないこと1. 同じことを同じようにさせない】
繰り返しの作業をするときには、ただ同じことを漫然と繰り返すのではなく、前回とは少しだけ違う環境を設定することで「飽きない仕掛け」をつくります。チャレンジと能力の度合いを調節しながら、繰り返しの作業であっても没頭できるような環境をつくりましょう。
【しないこと2. 選択肢を奪わない】
「自分で選んだ」という納得感が、仕事に対する積極性を生みます。「指示したやり方でやるように!」と選択肢を奪うのではなく、「この範囲(制限)のなかであれば、やり方は自分で自由に選んでね」と伝えましょう。
【しないこと3. コントロールしようとしない】
「管理しなければいけない」と、自分の思いどおりにメンバーを「動かす」のではなくて、「どうしたらメンバーが望ましい行動を取れるようになるか」という視点を持ちましょう。相手を操作しようとすると、不信感や抵抗感が募り、「言われたことしかしない」というパッシブ(受動的)な状況が発生してしまいます。
【しないこと4. 罰で脅し、褒美で釣らない】
「失敗したら、責任をとってもらうぞ」「目標が達成できなかったら、降格にするよ」「納期に間に合わなかったら、自分でどうにかしてよ」などの言葉をかけるのは、 罰を想像させる脅しです。
反対に、「成功したらボーナス」「無遅刻無欠勤が一定数続いたら表彰」「納期に間に合ったら評価に加点」というのは、褒美で釣る行為。
いずれもメンバーの主体性を奪います。短期的には効果があるかもしれませんが、中長期的には逆効果です。
【しないこと5. 答えがわかっていることを質問しない】
質問をすることで、相手に「思考」を促すことはあります。だからといって、質問者がすでに答えを持っていること―たとえば、「納期に遅れると、どうなるかわかっている?」「遅刻すると誰が迷惑すると思う?」「目標を達成できないと、どうなる?」といった質問は、答えが自明です。
答えがわかっていることを問うと、メンバーは質問ではなくて「詰問」されているように感じ、その結果、パッシブになります。
決めつけが主体性を奪う
【しないこと6. 盛り上げようとしない】
メンバーがお互いの様子をうかがっていたり、リーダーの問いかけに対して発言が出なかったり、いまいち活気がない状態を目にしたときに、つい雰囲気を盛り上げようとしてしまうことがあります。
しかし、無理をして盛り上げようとする必要はありません。「場を盛り上げようと、必死になる」という存在そのものが、メンバーをパッシブにしてしまいます。
【しないこと7. 「こうしなければならない」と決めつけない】
「決められたとおりに、やらなければならない」「会社の規則は、絶対に守らなければならない」「チームは一致団結しなければならない」。こういった考え方をしてしまうと、柔軟な発想はもとより、メンバーが「本当はこんなにいいやり方があるのに、そのやり方じゃなきゃダメなら、アイデアを出しても無駄だな……」と、パッシブになってしまいます。
【しないこと8. 感情を隠さない】
「大人気なく感情をむき出しにするなんて、チームワークを乱す」と思っていませんか? もちろん程度はありますが、喜怒哀楽を含めた感情のコミュニケーションは、豊かな人間関係を育みます。
何よりメンバーにとって、「〇〇さんは、こういうことで喜ぶんだ」「こんなことで怒ったりもするんだ」といった具合に、お互いのことをより深くわかり合うきっかけになります。
【しないこと9. 引っ張りすぎたり押しすぎたりしない】
リーダーシップを発揮する際、状況に応じてメンバーを引っ張ったり押したりすることがあると思いますが、やりすぎは注意です。その力があまりに強すぎてしまうと、相手の意思や自由を奪うことになりかねません。
引っ張りすぎると切れてしまいますし、逆に押しすぎれば、壊れてしまうこともあるのです。
【しないこと10. 流れに逆らわない】
あなたがリーダーだとして、もし自身が望まない状況が発生した場合、メンバーに対してどのような対処をしますか? 状況を打破するためにあがくことも大事ですが、起こるべくして起こる場合もあります。
いったん肩の力を抜いて、状況に逆らわず・抗わず、よく観察しながら様子を見ることも効果的です。そのうえでどうすればいいかをメンバーに相談し、解決策の実行を委ねると、チームがより主体的に行動し始めます。
「転ばぬ先の杖」が成長を妨げる
【しないこと11. 与えすぎたり教えすぎたりしない】
リーダーとして新しいチームを任されたり、新メンバーがチームに加わったりした際に、「仕事量を調整して無理をさせないようにしよう」という配慮や、「業務手順をきちんと教えてあげよう」と思うことは自然なことです。
しかし、余裕を与えすぎることでメンバーの習熟度の向上が阻害されていたり、教えすぎてしまうことで、自分で考える機会を奪っていたりする可能性もあります。
【しないこと12. 失敗と再挑戦の機会を奪わない】
誰でも、できることなら失敗は避けたいもの。けれど、「失敗すること」でチームが大きく成長する場合もあります。「失敗したらやり直せない」という気持ちは、チームの主体性を奪っていきます。特に、リーダー自身が失敗を避けるような姿勢でいると、メンバーはますますパッシブになってしまいます。
「失敗から学べることがある」「できなかったら、もう一度チャレンジすることができる」という心理的安全性を確保しましょう。
【しないこと13. 試行と思考の機会を奪わない】
メンバーが「決められたことを決められたようにやる」ことに慣れてしまうと、想定外の事態が起きた場合でも自分で考えて行動をせず、「どうしたらいいですか?」と、他者に依存してしまいます。
自分たちで考え、自分たちで動くためには、「とりあえず試しにやってみる」という試行の機会と、その結果起きた出来事に対して、振り返りと話し合いを十分にできる機会が必要です。
【しないこと14. 干渉したり割り込んだりしない】
仕事の進捗が思わしくないときや、メンバーの技術が未熟で思うように成果が生まれないときに、つい「もっとこうしなさい」と指示を出したり、「できないなら、引き取るから」と対応したりする経験が、誰でもあると思います。
成果を得るためにはやむを得ない場合もありますが、チームの発達を促すという視点では逆効果です。
「うまくいっている? 進み具合はどう?」「できないんだったら、いつでもサポートするからね」と、声のかけ方を工夫しましょう。
【しないこと15. 求められていないのにアドバイスしない】
経験豊富な人ほど、「そういうときは、こうすればいいんだよ」「それをやると大抵こうなるから、早めに対処しておいたほうがいいよ」と、親切心から「転ばぬ先の杖」を渡したくなると思います。アドバイスは相手が求めたときにする、を徹底することで相手の試行錯誤の機会を奪わずに済みます。
「正解」を渡すのではなく、「解答」を見つけられるようにする
【しないこと16. 相手の志向を否定しない】
「志向」とは、好き嫌いのことです。もしメンバーのひとりが「自分はチームで仕事をするの、嫌いなんですよね」と言ったとしても、「それは間違っている」と否定する必要はありません。
相手の「好き/嫌い」という感情は、あなたが否定することはできないからです。
それよりも「そうか、嫌いなんだ。何があって嫌いになったの?」と、相手の価値観を確認するような関わりを持つことで、人間関係を無理なく育むことができます。
【しないこと17. 断定しない】
自分自身の経験や知識に照らし合わせて、メンバーに「それはあなたが間違っているよ」「そうなったらもう取り返しはつかないね」「うまくいくわけないよ」と断定する言葉を投げかけると、あっという間にパッシブな状態が生まれます。
「そういう考え方もあるかもしれないね」「もしかしたら取り返しがつかないかもしれないけど、試してみようか」といった言い回しを心がけることで、メンバーは「柔軟な思考ができる人」という認識をしてくれるはずです。
【しないこと18. 裁かない】
「裁く」とは、理由や非の所在を明らかにすることです。
「この仕事が失敗したのは、あいつのせいだ」「目標が達成できなかったのは、会社が悪いからだ」といった具合に、自分自身が責任を負わず、原因や非を外部・他者に求めるとチームはパッシブになります。
たとえ自分に直接の原因がなかったとしても、間接的に関与していることがあるのであれば、「私たちにできたことはなんだろうか?」と、まずあなたが責任の所在について振り返り、メンバーの主体性を促しましょう。
【しないこと19. 相手の感情と自分の感情を混同しない】
メンバーの喜怒哀楽に寄り添っているうちに、まるで自分がその感情を持っているような錯覚をしたことはありませんか? ポジティブな感情ならまだしも、メンバーが怒っている様子を見て、自分も段々腹が立ってくる。または悲しんでいる姿を見て、自分も悲しい気持ちになるといったように、感情は伝染します。
チームの雰囲気をネガティブにしたくないのであれば、メンバーの感情に共感しつつ「気持ちを切り替えよう」という声がけをしてみましょう。
【しないこと20. 相手が答えを見つける機会を奪わない】
チームの発達を促し育むために大切なのは、「代わりにやってあげること」「自分が率先してお手本を見せること」よりも、メンバーが「自分でできるようになること」「リーダーのフォローを、メンバーがしてくれるようになること」です。
あなたが持っている「正解」を渡すのではなく、メンバー自身が「解答」を見つけられるような関わり方が、主体性を生みます。
あくまで僕自身がファシリテーティブでありたいがために生まれた心がまえなので、この20項目に固執する必要はありません。まずは一日1項目ずつ意識するのでもよいと思いますし、振り返りのポイントとして眺めてみると、新たな発見があるかもしれません。
【「しない」を意識した関わり方が、メンバーの自主性や主体性を育てていく。】