20年以上のリーダー経験を持ち、これまでに2万人以上の人材育成に携わってきた越川慎司さん。著書『一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本』では、リーダーの負担を軽減しつつ成果を最大化する方法を紹介しています。
本書では、全国678社・管理職1万7172名を対象に実施した調査をもとに、「働き方改革」以降、管理職の実労働時間が平均で17%増加していることが明らかにされています。
管理職の残業を減らすにはどうすればよいのか――本稿では、その解決策について越川さんに伺いました。
管理職の残業時間を減らすには?
――近頃「管理職はつらい」という声をよく耳にします。その背景には、多くの人が「やるべき」と思い込んでいる、実は不要な業務に時間を奪われている現状があるのではないかと思います。管理職が陥りがちな「不要な業務」にはどのようなものがあるでしょうか?
【越川】まず、「しっかりマネジメントすれば、必ず成果が出る」という考え方は、日本の管理職が抱きがちな妄想です。マイクロマネジメントを行えば、仕事が回るというメカニズムはとうに破綻しているにもかかわらず、多くの管理職はいまだに信じ込んでいます。その結果、チェックポイントが増えたり、「部下は出来ないだろうから自分がやる」という思考に陥ってしまいます。
リスクを塞いで、上司の言った通りに業務をこなさせて、これまでの成功例を真似させるのが、昭和・平成までの仕事のスタイルでした。しかし、変化の激しい現代においては、この「性悪説」に基づいたマネジメントはもはや機能しません。
現代のビジネスは、限られた時間の中で最大の成果を出すというゲームに変わりました。この新しいルールに対応するには、管理職は「いかに手放すか」を考える必要があります。そうしない限り、過剰な労働時間から逃れることはできないのです。
――「自分がやった方が早い」という思いで、業務を抱え込んでしまっている方は多いと思います。まず、任せるために意識を変える必要があるのかもしれませんね。
【越川】管理職がまず意識すべきは、個人の成果ではなく"チーム全体の成果"を最大化することです。そのためには、自分がいなくてもチームが回る状態を作る必要があります。
自走するチームを作るには、失敗を積み重ねて、逆境・挫折を次の行動に生かすというプロセスが必要です。成功を求め続けるだけでは失敗を乗り越える力も身に付きません。
指示されたことだけを忠実にこなす真面目なメンバーを育てるのではなく、自分で考えて行動できる人材を育成しなければ、管理職の労働時間は減りません。これは調査の結果でも明らかになっています。
ここでポイントなのは、業務に何かを「足す」のではなく、「引く」こと。できるリーダーは、何かを追加でやる人ではなくて、引き算ができるリーダーなんです。たとえば、過剰な気遣いや、過度な心配を手放すことです。
資料のチェックを3回も4回もやる管理職の方がいますが、そういったものを引いてみる。良かったら続ければいいし、駄目だったら元に戻せばいいんです。引き算の実験を積み重ねているリーダーが、結果的にはできるリーダーなのです。
仕事を「緊急度」で仕分けする
――部下に失敗させないと育たないのはわかっていても、自分がいっぱいいっぱいで失敗させたくないという方もいるのではないでしょうか。
【越川】自分の業務の中で削減できるものは、まず削減していかないといけません。リーダーが最初にやるべきは、仕事を「緊急度」という評価軸で仕分けすることです。
緊急度が高いもの、たとえばトラブル対応のように目の前で火が上がっている仕事は、部下にやり方を教えている余裕はないので、自分で対応した方がいい。課題に対して自分がすでに答えを持っていて、かつ緊急度が高ければ、それはすぐに自分でやらなければならない仕事です。
ただ、今すぐやらなければ全てが失敗に終わるようなタスクなんて、全体の2〜3割しかありません。にもかかわらず、すべてをトラブル対応のように自分で抱え込もうとするから、残念ながら時間が足りなくなってしまうのです。
緊急度と難易度の組み合わせで考えれば、緊急度が高くて簡単なものは、むしろ部下に任せた方がいい。さらに、緊急度が低く、しかもリーダー自身も答えを持っていないような課題も、さっさとメンバーに動いてもらった方がいいんです。指導に時間を割くより、現場での行動を加速させた方が成果につながります。
「それでは失敗してしまうのでは」と管理職の方はよくおっしゃいます。でも、実際には管理職が手を回せない状態に陥っていること自体が、すでに失敗なんです。「失敗しないためにはどうしたらいいか」と考えている人の大半は、すでに失敗している人たちなんですよ。
「時間がない」「そんな調整なんて無理だ」と言う方は多いのですが、挑戦ではなく"実験"と捉えればいいんです。小さく実験してみて、ダメだったらやめればいい。でもそこそこうまくいったら、そのまま任せておけばいい。挑戦ではなく実験を重ね、うまくいけば続ける。大きなトラブルになったら自分が入ればいい。そのくらいの覚悟が必要なのだと思います。