1. PHPオンライン
  2. ニュース
  3. 「作家だけで食べていけない悔しさ」を創作の力に 野宮有さん『殺し屋の営業術』が乱歩賞に輝く

ニュース

「作家だけで食べていけない悔しさ」を創作の力に 野宮有さん『殺し屋の営業術』が乱歩賞に輝く

PHPオンライン編集部

2025年11月05日 公開 2025年11月13日 更新

第71回江戸川乱歩賞の授賞式が11月4日に東京・東池袋の劇場「あうるすぽっと」で開催されました。受賞作は野宮有さんの『殺し屋の営業術』です。応募総数は402編で、選考委員は有栖川有栖さん、貫井徳郎さん、東野圭吾さん、湊かなえさん、横関大さんの5名が務めました。

 

・日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門受賞『崑崙奴』の古泉迦十さんのスピーチはこちら

・日本推理作家協会賞 短編部門受賞『黒い安息の日々』の久永実木彦さん、評論・研究部門受賞『日本の犯罪小説』 の杉江松恋さんのスピーチはこちら

・日本推理作家協会賞 翻訳部門受賞 スティーヴン・キング著『ビリー・サマーズ』翻訳者の白石朗さんのスピーチはこちら

 

「営業職×殺し屋」という奇抜な発想

講談社代表取締役社長・野間省伸さんは「本年度はどの作品が受賞してもおかしくないほどの実力作がそろい、白熱した議論が交わされたと聞いています」と振り返りました。

受賞作『殺し屋の営業術』については、「優秀な会社員が殺人事件に巻き込まれた結果、殺し屋の"営業マン"を担当することになるという、奇想天外なミステリーです。スピード感にあふれたエンターテインメント作品で、発売直後から書店や業界各所で大きな話題になっています」と紹介しました。

野宮さんの経歴にも触れ、「野宮さんはこれまでもプロの作家としてライトノベルや漫画原作を手がけてこられました。これからのミステリー界を牽引する即戦力としてのご活躍を心より期待しています」と祝辞を述べました。

さらに、「『殺し屋の営業術』は既に映像業界からも注目を集めていると伺っています。フジテレビの力によって、さらに輝きを放つことを期待しています」と語りました。

フジテレビジョン代表取締役社長の清水賢治さんは、『殺し屋の営業術』について「まず、企画の素晴らしさに驚きました。"営業職×殺し屋"という発想は、まったく思いつかなかったです。まさに天賦の才だと思いました」

さらに、「映像化するならどうなるのか、とてもワクワクしました。現場でもさまざまな案が出ていると聞いています」と期待を寄せました。「もしドラマ化するなら連作にしなければいけないので、出来れば13本分あると1クールになるので、先生にはぜひ頑張っていただきたいと思います」と、今後の活躍にエールを送り、会場は笑いに包まれました。

 

全く先が読めない、優れたミステリーエンターテインメント

●横関大さんのコメント

横関大さんは選考経過について「候補作はどれもレベルが高く、読書体験として非常に有意義でした。私は野宮さんの作品を1位として選考会に臨みました。結果として3名が『殺し屋の営業術』を1位につけ、残りの2名も僅差の2位をつけて、受賞はすんなり決まりました」と説明しました。

作品については「アイデアに富み、ページをめくる手が止まらない、優れたミステリーエンターテインメントです」と高く評価しました。

 

●貫井徳郎さんのコメント

「僕は仕事柄、さまざまなストーリーを考える機会が多く、他の方の作品を読んでも展開を予測できることが多いのですが、『殺し屋の営業術』は全く先が読めませんでした」

さらに、「物語が思いがけない方向へ進んでいき、一読者として純粋に楽しめました。自信を持っておすすめできる作品です。ぜひ読んでみてください」と語り、作品の完成度に太鼓判を押しました。

 

●湊かなえさんのコメント

湊かなえさんも、「今回は非常に珍しく、全員の評価が一致した」と語りました。

「私は選考会で自分が1位に推した作品が選ばれることはあまりないのですが、今回は投票の段階で圧倒的な結果でした。普段は好みや重視する点が違うのですが、それでも全員が"1位"としたのは、この作品の総合力の高さ、そして物語の力がずば抜けていたからだと思います」

さらに、選考会の雰囲気については「この作品をさらに面白くするにはどうすればよいか、面白いところはどこだったかという、良いところをたくさん言い合う会になり、幸せな選考会だったと思います」と振り返りました。映像化にも触れ、「私はもう勝手に配役も思い描きながら読みました」と笑顔で期待を示しました。

 

『殺し屋の営業術』執筆の背景は?


(左)貫井徳郎さん、(右)野宮有さん

受賞者の野宮有さんは、別ジャンルでの活動経験を持ちながら、一般企業で働きつつ執筆を続けてきたことに触れました。

「私は完全な新人というわけではなく、別ジャンルで作家活動をしていましたが、作家だけでは食べていけず、一般企業で働きながら小説を書き続けてきました。悔しい思いを抱えながらも、仕事で営業のトップレベルの方々とご一緒する中で、小説に生かせる知見があると確信し、誰よりも真剣に話を聞きながら構想を練りました」と創作の背景を語りました。

「その結果、江戸川乱歩賞という、名誉ある賞を受賞して有難いです。多くの読者の皆様にも読んでいただき、今まで見たことがないような景色を見ることができたな、と思っております」

また、小説家としての姿勢について、こう語りました。

「小説家の仕事の良さは、自分の情けない境遇や悔しい思いの中から鉱脈のようなものを見つけて掘り進めることで、物語ができるところだと思います。これからもその作業を続けていば、また新しい景色を見られるのかなと思うので、今後も頑張っていきたいです」と感謝の言葉で締めくくりました。

第71回江戸川乱歩賞は、企画性と物語性の高さが選考委員の評価を集め、受賞作『殺し屋の営業術』が大きな注目を集めました。今後の映像化の動きにも期待が高まります。式は温かな拍手に包まれて幕を閉じました。

 

関連記事

アクセスランキングRanking