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「計算ずくなら恐ろしい作家」 古泉迦十さん24年ぶりの超大作『崑崙奴』の底知れぬ魅力

PHPオンライン編集部

2025年11月06日 公開 2025年11月13日 更新

「計算ずくなら恐ろしい作家」 古泉迦十さん24年ぶりの超大作『崑崙奴』の底知れぬ魅力

第78回日本推理作家協会賞の授賞式が11月4日、東京・東池袋の劇場「あうるすぽっと」で開催されました。
今年は、長編および連作短編集部門に古泉迦十さん『崑崙奴(こんろんど)』が選ばれました。

贈呈式では選考委員による講評の後、受賞者本人がスピーチを行い、会場は温かな拍手に包まれました。

 

・日本推理作家協会賞 短編部門受賞『黒い安息の日々』の久永実木彦さん、評論・研究部門受賞『日本の犯罪小説』 の杉江松恋さんのスピーチはこちら

・日本推理作家協会賞 翻訳部門受賞 スティーヴン・キング著『ビリー・サマーズ』翻訳者の白石朗さんのスピーチはこちら

・『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞を受賞された、野宮有さんのスピーチはこちら

 

530ページの大作に込められた物語の密度

江戸川乱歩賞

長編および連作短編集部門の選考経過を報告した山田宗樹さんは、まず今回の候補作がいずれも高水準であったことに触れました。

伊岡瞬さん翳りゆく午後』は現代社会が抱える問題をリアルに描いた点が見事で、川瀬七緒さん『詐欺師と詐欺師』は夢に出てきそうな衝撃的な真相が強い印象を残したと述べました。倉知淳さん『死体で遊ぶな、大人たち』については緻密なロジックと奇抜なトリックが楽しく、潮谷験さん『伯爵と三つの棺』は、周到な伏線や、安定したストーリーテリングなど、選考委員からも高く評価する声が上がったと振り返りました。

そのうえで山田さんは『崑崙奴』への支持が突出していたことを強調しました。

「最終選考で圧倒的な支持を得たのは古泉迦十さんの『崑崙奴』でした。5人の選考委員のうち4人が最高評価をつけ、残る1人も僅差での高評価。ほぼ満場一致の決定でした」と振り返りました。

山田さんは本作の決定的な魅力として、文章そのものの力を挙げました。

「『崑崙奴』の文章はリズムが安定しており、驚くほど読みやすい。一切の無駄がなく、引き締まってテンポがいい。声に出して読むとよく分かります。言葉が心地よく口に乗ってくるんです」

また、「難しい語も意図的に使われているが、それが不思議と負担にならず、むしろ見慣れない語から唐・長安の空気が立ち上がってくるように感じる」と語り、「もしこれを計算してやっているのだとしたら、恐ろしい作家だなと思いました」と称賛しました。

『崑崙奴』は530ページに及ぶ大作です。山田さんは「密度が非常に濃く、情報量も多い。人によっては難解に感じる箇所があるかもしれませんが、読み込むほどに面白さが増していく。底知れぬ魅力を持つ作品です」と総評しました。

山田宗樹さん
山田宗樹さん

 

古泉迦十さん「23年眠っていた自分に声をかけてくれた」

(左)貫井徳郎さん、(右)古泉迦十さん(左)貫井徳郎さん、(右)古泉迦十さん

受賞の挨拶に立った古泉迦十さんは、「このような晴れの舞台は苦手で、いまも緊張しています」と語りつつ、「2001年にデビューし、そこから23年も作家として生きることをサボっておりました。今回、このような素晴らしい賞を受賞させていただけたのは、本当にこのような23年も眠っていた人間に対して声をかけていただいた、皆様のおかげだと思っております」と感謝を述べました。

また、「最大の恩返しは、時間をおかずに次の作品を書くことだと自覚しています。なるべく早く3作目に取りかかり、皆さまのご期待に応えたいと思います」と力強く語り、会場は温かな拍手に包まれました。

左から、白石朗さん、久永実木彦さん、野宮有さん、貫井徳郎さん、古泉迦十さん、杉江松恋さん
左から、白石朗さん、久永実木彦さん、野宮有さん、貫井徳郎さん、古泉迦十さん、杉江松恋さん

 

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