孤立する社員が減ると業績が上がる? データで証明された「優れた組織の人間関係」
2025年11月13日 公開
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『トリニティ組織 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』(矢野 和男著、草思社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
組織づくりのための革新的な指針が誕生
会社を見渡すと様々な形の組織があります。組織のマネジメントを機能させるためには、ある程度の人数規模を超えてくるとほぼすべての会社組織がピラミッド構造をもっています。
ただ、いわゆるピラミッド構造の中で組織の歯車になりたくない人もいるのではないでしょうか。指揮命令系統の中に組み込まれると、その情報経路の画一性から息苦しさすら感じさせるかもしれません。
そのような組織の中でのコミュニケーションルートを意図的に三角形にすることで、社員の幸せも生産性も上がるという画期的な理論が本書で紹介されます。その理論は物理学の特に物性を研究されていた著者により、ウエラブルセンサーを使った大量のデータを分析して導かれていることが、さらなる驚きでもあります。
組織論は様々な概念がありどれも重要ではありますが、ここまで客観的で大量のデータを重視された研究は珍しいのではないでしょうか。その斬新でわかりやすい主張について、次の章から紹介していきたいと思います。
孤立を防ぐ新しい指針
本書が提示する組織理論のコンセプトは驚くべきほどシンプルでクリアです。組織の中で生産性や幸福度に大きな影響を与えるのが人の孤立感だと言われています。その傾向は下記に示されています。
・ある人のまわりにV字が多いと、その人は孤立感を抱きやすい。
・ある人のまわりに三角形が多いと、その人は孤立感を抱きにくい。
その人のまわりのコミュニケーションラインを結んだときに、自分をハブにして別の2名とつながっていたとして、自分を介する2方面のコミュニケーションだけにとどまっていたらV字のコミュニケーション、自分以外の2人も連携できていれば三角形のコミュニケーションとなります。
V字型は用事を伝えるだけのつながりであり、三角形になっているときは仲間関係のつながりであるとも言い換えられます。V字となってしまうケースとして、例えば自分の仕事に対して2人の報告相手がいて、その2人同士は連携することがほとんどないときは、自分が板挟みになってうまく事が運ばないことは想像できるでしょう。
また、自分がチームリーダーだった場合には、メンバー同士の会話がなければ、V字型になってしまっているとも言えます。そのような状況を解消できるのが、三角形の仲間関係のコミュニケーションです。
研究アプローチ
人事評価プロセスでは個人の能力を評価する傾向があります。成果を上げるのは、個人の能力によるところが大きく、その能力向上が求められるという思想が背景にあります。ただ、著者が物性研究をする中で、例えば水分子であれば同じ分子だったとしても、水と氷と水蒸気のようにまったく異なる特性を示すことが頻繁にあります。つまり、個々の分子は同じでも、その構成要素の相互作用や関係性が大きく物質の特性に影響するのです。
そして、人と組織においても個人の能力以上に相互作用や関係性が重要な影響を及ぼすのではないか、という仮説が研究の起点となっています。
では著者の研究の中では、どのようにコミュニケーションラインの違いを識別していったのでしょうか。著者の研究チームはキャラメルほどの小型計測装置を開発したといいます。それは、各種センサとコンピュータ機能と通信機能が内蔵されたウエラブルな装置となっています。
このシステムは、人と人との接触とその関係性をデータとして収集でき、誰と誰がいつどのくらいの時間を接触していたのかがわかるそうです。毎秒150個のデータを集計する形になっていて、1か月で約3億レコードという膨大なデータとなります。100人の組織でそれぞれの関わり合いのデータを合わせると、たった1か月で1兆個ものデータになるそうです。
赤外線通信の仕組みにより誰と誰が会話をしているかや、上下運動などの履歴でそれぞれがどのようなコンディションなのかもわかります。活き活きしているときや、落ち込んでいるときもわかりますし、人同士の動きが同調しているのかどうかも把握できるようになっています。
よい人間関係とは何なのか
研究データにより、三角形の関係が築けている組織はより良い人間関係が築けており、構成する個人の幸福度が高いことがわかってきます。そして幸せと経済性は両立されているのか、というところも気になるところです。
例えば、幸福度と受注率のような成果の指標の関係についてです。研究でわかったことは、休憩所での会話中に、身体が盛んに動いたという活発度が高い状態にあるほど、受注率が高いという傾向があったそうです。つまり、業務とは関係のない雑談でも、うなずきや相づちや身振り手振りが頻繁に行われていたと解釈できます。
会話中の活発度が高い組織は、三角形が豊かなトリニティの豊かな職場だったと言えます。そのような職場では、個人の幸福度だけでなく生産性も高いことが示唆されているのです。
なお、例えば学習塾で成績のよいクラスでは、子供同士の三角形のコミュニケーションが多いことが示されています。それに加えて、授業中の動きを観察すると、クラス全体の動きに一体感があり、身体運動が同期していたといいます。
三角形が豊かであることは、幸せで生産的な人や集団を表し、よい人間関係を表し、それらは身体運動がシンクロしていることで明らかになるとも言えるのです。
さらに、どうすれば三角形のコミュニケーションを豊かにし、組織の身体運動がシンクロしていくかについても本書では触れられています。
コミュニケーションラインのモデルを組んだ研究では、隣同士の人とのコミュニケーションラインをつなげるだけよりも、別々のチーム同士をつなぐコミュニケーションラインを作ると、一気に身体運動の同期が組織全体で起こりやすくなるといいます。このような結果は、多くの組織がピラミッド構造で想定するレポートラインとは異なったチーム間の横のコミュニケーションの重要性を示唆しているとも言えるでしょう。
人の関係に形を当てはめる面白さ
組織文化を語るときに、フラットな関係、風通しの良い組織、和気あいあいとした組織、などといった表現がされることがあります。その時には、漠然とした組織の雰囲気を想像しながら話をしていて、具体的にどのような取り組みをするのかをイメージしにくいこともあります。
そこで本書の知見が有効に機能します。本書によれば、組織内のコミュニケーションラインにおいて、三角形の関係の豊かさが組織風土と成果に大きな影響を与えることがわかっています。
つまり、組織横断の研修・活動やプロジェクトチームでの仕事を通じて三角形のコミュニケーションを築く努力をすれば、優れた組織に近づくことができることがわかります。V字から三角形にすることを意識すれば、他にも様々な取り組みを企画する発想が広がりそうです。
本書の理論は元々が組織の研究者ではなく、物理学の専門家から見出されている点がユニークでもあります。仮説を元にして、大量のデータという事実を大切にして分析を施し、組織や人間関係というあいまいなものにクリアな示唆を与えていることは、今後の組織研究の手法にも影響を与えるものになるかもしれません。
本書は組織風土をより良いものにしたいと考えていて、どのようなアプローチや施策をすればよいのか迷っているだろうリーダーにお薦めしたい一冊です。