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ズーラシアで順番待ち ホッキョクグマ「ライ」が大興奮の“誕生日プレゼント”とは

辰巳出版まるごとBOOK編集部

2025年12月02日 公開 2025年12月02日 更新

よこはま動物園ズーラシアで昨年誕生したオスのホッキョクグマ「ライ」が11月18日に1歳の誕生日を迎えた。ライは10月に刊行された書籍『ホッキョクグマまるごとBOOK』の表紙を飾るなど今や横浜の大スター。誕生日の前後には記念イベントが開催され多くのファンが祝福に駆け付けた。

 

ホッキョクグマ・ライの誕生日イベントは、開園前から列が


生後88日のライ(『ホッキョクグマまるごとBOOK』より)

ホッキョクグマのライは2024年11月18日によこはま動物園ズーラシアで誕生。同園では初のホッキョクグマの繁殖・育成となった。父はゴーゴ、母はイッちゃん。両親ともに大阪の天王寺動物園にいた個体で、2頭の間にはホウちゃんというメスの子どもがおり、今も天王寺の人気者だ。

天王寺動物園でホウちゃんが誕生したのち、ゴーゴがズーラシアへ移動。ホウちゃんが親離れの時期を迎えたことで、母イッちゃんもズーラシアへ。そして再びペアとなって繁殖に成功し、ライが誕生した。ファンの間では、「ゴーゴ」「イッちゃん(イチ)」「ホウ」「ライ」というネーミングに、とある大阪名物が深く関わっているというウワサも聞かれ、ファミリー全員を推す「箱推し」のファンも多い。

ライの誕生と成長はズーラシア公式SNSでコンスタントに発信され、ぬいぐるみのような愛らしさと、すくすくと成長していく様子にファンが急増した。

10月刊行の『ホッキョクグマまるごとBOOK』では、ライを表紙および巻頭企画で取り上げている。誌面では、誕生時の状況、母親イッちゃんの子育ての経過、担当飼育員の記録やコメントなど、これまでの経緯を整理して紹介している。

発売告知後は、主要オンライン書店で予約が相次ぎ、一部店舗では一時的に受け付けが停止される場面もあった。Amazonでは和書の複数部門で予約時点から上位に入るなど、読者からの関心が寄せられていることがうかがえる(2025年10月4日時点)。

11月18日にライが1歳の誕生日を迎えた。前後の17日と19日には、ズーラシアでライの誕生日記念イベントが開催。スタッフによると、「今日は開園前からゲートに列ができていました。普段の営業ではこんなことはないので驚きました」とのこと。

開園すると、順路どおりに動物たちを観覧する一般客をよそ目に、ファンはホッキョクグマ舎へ一直線。あるファンの方は「ライに会ってから、ゆっくり他のエリアもまわります」と教えてくれた。

ホッキョクグマ舎は、展示場を見下ろす屋外デッキと、水中と陸上の様子を同時に楽しめる屋根つきエリアに分かれている。イベント開始前にざっと人数を数えると、200人に迫る勢い。当然、後方からは人の頭しか見えないので、「1分間で最前列の人は一度退出」という交代制がとられた。

あるファンの方によると、ライの展示場デビューの頃と同じくらいの混雑だという。荷物にライの缶バッジをつけたり、ぬいぐるみをぶら下げたりしている人も多い。


主役を心待ちにするファンの皆さん

 

誕生日プレゼントのドラム缶を満喫


三角コーンで独特な遊び方をするライ(写真提供:よこはま動物園ズーラシア)

主役が登場する前に、担当飼育員の伊藤さんによる記念日トークが始まった。
誕生日前日のイベントでは、ライとイッちゃんへの誕生日プレゼントとして、3台の三角コーンが贈られた。こうした取り組みは「環境エンリッチメント」とも呼ばれ、野生における狩りや採食などの自然な行動を引き出し、動物たちの心身の健康を保つために活用されている。ホッキョクグマは、三角コーンやブイ、ポリタンクなどをおもちゃにして遊ぶ。

19日のイベントでは大きなポリドラム缶が2台プレゼントされた。

母イッちゃんのほうがドラム缶遊びが大好きで、ドラム缶に執着し独占してしまう可能性が高いため、2台用意されたようだ。伊藤さんによる解説では、獲物となるアザラシなどを狩るために、かたい氷を両手で押し割るというホッキョクグマの習性が、このドラム缶を用いて再現されるという。

ひととおりの解説が終わると、いよいよ主役の登場。
今か今かと待ちわびる観客の前に、齢1歳と1日のライと母イッちゃんが姿を現した。


親子で登場(写真提供:よこはま動物園ズーラシア)

大きな歓声が起こる......と思いきや、「来た!!」という微妙な緊張感とともに、逆に場は静まり返り、カメラのシャッター音と動画の撮影音が響いた。1歳と1日ホヤホヤの瞬間を逃すまいというファンの熱意を感じられる瞬間だった。

しばらく静寂が続いたが、自然とライの一挙手一投足に歓声が洩れはじめる。

展示場の中央にドラム缶を見つけると、ライもイッちゃんもドラム缶に挑みかかった。飼育員の伊藤さんの話のとおり、イッちゃんはすぐさまドラム缶への執着を見せはじめる。まるで心臓マッサージのように、リズミカルに力強く、ドラム缶の中央を両手でプッシュ。ドラム缶が潰される音が響き渡った。


本能のままに遊ぶイッちゃん(写真提供:よこはま動物園ズーラシア)

氷下のアザラシを狩るために分厚い氷を打ち割る野生のホッキョクグマの姿が重なる。と同時に、大きなおしりをこちらに向けて一生懸命ドラム缶を押しつぶすイッちゃんの姿はなんともいえない可笑しみがあり、その愛らしさにおもわず笑みがこぼれる。

主役のライはというと、自分の背丈ほどもあるドラム缶に果敢に挑むも、母のようなドラムさばきを披露するにはまだまだ経験不足で、少々攻めあぐねている模様。


試行錯誤するライ(写真提供:よこはま動物園ズーラシア)

ドラム缶に嚙みついたり、押し倒したりしているうちに、ドラム缶をプールに落としてしまった。不測の事態に多少の戸惑いは見せるが、そこはホッキョクグマ。「海のクマ」を意味する学名「Ursus maritimus」のとおり、泳ぎはお手の物だ。生後3か月頃から水に慣れる練習を始め、生後半年にもなれば深いプールで危なげなく泳げるようになる。

プールに落ちたドラム缶を追い、ライもプールへ飛び込む。浮いたドラム缶にしがみついたり、ドラム缶を水中に押し込んで水面から足だけを出したり、誕生日プレゼントを満喫していた。

1分交代制の観客たちは、ときたま目の前に迫ってくるライに歓声を上げたり、シャッターチャンスをカメラに収めるなどして、思い思いにライとの時間を過ごした。


水中でドラム缶と格闘するライ

 

「ライの成長を見届けたい」


生後93日のライ(『ホッキョクグマまるごとBOOK』より)

イベントを訪れていた親子に話を聞いた。

もともとホッキョクグマが好きで、各地の施設に足を運び、ホッキョクグマたちに会いに行っているという。いちばんの推しは愛媛県立とべ動物園の「ピース」。日本で初めて人工哺育で育てられたことで知られ、26歳になった今も全国のファンに愛されている。

親子は、ピースには2度、そしてライの姉にあたる天王寺動物園のホウちゃんにも3度会いに行ったという。横浜在住のため、ライが誕生してからは何度も通っている。

「お母さんのイッちゃんはあまり水に興味がなさそうだけど、ホウちゃんもライも水の中が好きみたい。ライには約2か月ぶりに会ったけど、1歳になってからは今日が初めて。なんかデカくなってるな~と思いました」と教えてくれた。

「もうちょいで大人だな。でもまだ貫禄は足りないかも」と笑う。

「もし、またゴーゴとイッちゃんに赤ちゃんが生まれたら、ゴーゴ・イチ・ホウ・ライ......その次の名前はどうなるんだろう」とマニアックな疑問も聞かせてくれた。

同じく横浜在住のファンの方は、もとはパンダが好きで上野動物園に通っていたところ、ライ誕生の報に触れズーラシアを訪れるようになった。隔週で会いに来て、成長を見守ってきた。

「泳ぎがうまくなった。前は水中でバタバタしていたけれど、今は後ろ足がスーッと伸びてシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)みたい」と頬がゆるむ。

「親子の関係性にも変化があり、最近は母イッちゃんがライに厳しくなってきました。ライがちょっかいを出したり、おもちゃや食べ物を横取りしようとすると、以前は許していましたが、今は怒っています。感情的な怒りではなく、教育的指導です。展示場の隅で怒られているときもありますよ。怒られたライは、チラチラとイッちゃんの顔色をうかがっています(笑)。これからも元気に育ってほしいですね」としみじみ語ってくれた。


イッちゃんが寛容だったころ(『ホッキョクグマまるごとBOOK』より)

イベントでは、現在のライの体重も発表された。飼育員の伊藤さんによると、ホッキョクグマの出生時の体重は約600グラム、手のひらサイズだという。野生では厳しい環境で生きていくためにより早く成長することが求められ、高栄養の母乳で育つ。

「ライも栄養たっぷりのミルクですくすくと成長し、誕生日当日の体重は145キロでした!」と喜びを込めて発表。そして、ファンに感謝の気持ちを伝えた。

「ライはのびのびと成長しています。1歳の誕生日を迎え、今日このイベントを開催できることをスタッフ一同とてもうれしく思っています。5月にライが展示場デビューしてからは、動物園スタッフも知らなかった姿を、皆さんのSNS投稿を通して知る機会も多くありました。スタッフだけではなく、皆さんとライ親子を見守って今日の日を迎えられました。これからも、大人になっていくライの成長を皆さんと一緒に見届けたいと思っています。」

この日、イッちゃんとライ親子の展示は午前中で終了し、午後からはライの父ゴーゴの展示が始まった。イッちゃんよりもさらに大きな体を揺らして登場すると、「おお~」という声が漏れた。大きなゴーゴに、ライの未来の姿を重ねる。


ライの父・ゴーゴ(写真提供:よこはま動物園ズーラシア)

後ろ髪を引かれる思いで動物園を後にする。園を出てすぐの売店には、ライが表紙を飾った『ホッキョクグマまるごとBOOK』をはじめ、さまざまなライグッズが並ぶ。それらを手にするファンからは「会えない時も近くに感じたい」――そんな気持ちが伝わってくるようだった。

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