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「回転率こそ命」は間違いだった つけめんTETSU創業者に学ぶラーメン店の新常識

井手隊長(ラーメンライター)

2026年04月08日 公開

ラーメン店の経営で重視すべきは「回転率」だーーこれは長らく語られてきた「常識」だが、それは果たして本当か。「つけめんTETSU」創業者の小宮氏は、「行列のない店が回転を上げることに注力するのは逆効果」と指摘する。では、行列のない店がとるべき戦術とは?全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター井手隊長が、人口減少や多様化が進む現代で生き残るラーメン店の条件を語る。

※本稿は、井手隊長著『ラーメンビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。

 

行列店の「常識」は意味を持たない

ラーメン業界を語る際、しばしば持ち出されるキーワードが「回転率」である。駅前の狭小立地・限られた席数・昼夜を問わぬピーク需要─こうしたイメージが強く結びつき、ラーメン店は客席の回転を最優先に考えるべきだという通念が半ば常識として語られてきた。しかし、「つけめんTETSU」創業者の小宮氏は、この"回転論"が実態を大きく誇張しているという事実を指摘する。

そもそも回転率に悩むのは、行列のできるごく一部の繁盛店に限られる。行列があるからこそ、1時間あたり何人をさばけるかが死活問題となる。
一方で、行列のない店が回転を上げることだけに注力してしまうと、かえって店内がガラリと空いて見え、逆効果になる場合すらある。
雨の日に「どうぞゆっくりしていってください」と声をかけるような店で、回転率をあえて引き上げる必要性は薄い。むしろ多くの店にとって優先すべき課題は、回転以前の「集客」そのものにある。

にもかかわらず、業界全体が「ラーメン店=回転命」という固定観念に強く縛られてしまっている背景には、駅前の人気店を中心とした語りが一般化してしまったことがある。しかし、実際のラーメン業界はもっと多様であり、回転を意識しているお店ばかりではない。行列店の事情がすべての店の前提として語られてしまうのは、やはり極端すぎると言わざるを得ない。

 

「ロット制」のデメリット「食券制」のメリット

ラーメン店が回転を高めようとする際、しばしば引き合いに出されるのが「ロット制」のオペレーションだ。席の埋まり具合に関係なく、数杯ずつまとめて調理し、客席が一斉に交代するシステムで、確かに効率はいい。

しかし、ロット制は行列が常態化していて需要の読める名店だから成立する手法であり、新規店や客入りが安定しない店がこれを目指すと、逆に「席が空いているのに提供が遅い」という失望を生む恐れがある。つまり、目指すべきは有名店型ではなく、目の前の1杯に集中しつつ、無理のない範囲で効率化を図るバランス感覚である。

興味深いのは、回転重視をしない店でも、工夫次第で自然と回転は上げられるという指摘だ。代表的なのが「食券制」の導入である。客が店に入ってから注文を決め、支払いを済ませるまでにかかる時間は数分。行列がある場合、この数分の積み重ねが回転率を大きく左右する。事前に食券を買ってもらい注文が確定していれば、着席する前から調理を開始でき、提供も格段に早くなる。

さらに意外な盲点として、注文の聞き間違いや客側の注文忘れといったトラブルも、食券なら解消される。オーダーミスの防止は、単なる心理的ストレスの軽減にとどまらず、オペレーションの遅延防止に直結する。店主いわく、「客が券売機でどのボタンを押すかを見て、食券が渡される前に作業に入ることもある」というほど、細部の工夫が積み重なることで、自然と回転が上がるのだ。

 

「回転重視」から脱却している店の戦略

では「回転重視」から脱却できている店は、どのように成立しているのか。近年の動きとして挙げられるのが、予約制や記帳制の導入、そして売価を上げるという戦略である。客数あたりの収益を押し上げることで、回転への依存度を下げ、ゆとりある導線を確保しているのだ。

しかし、この方式は立地・ブランド力・価格帯など、いくつもの条件が揃って初めて成り立つ。すべての店が同じ方法を採れるわけではない。回転を気にしなくていい店と回転を気にせざるを得ない店を同列に論じても意味がないのだ。

結局のところ、ラーメン店が回転から脱却できるかどうかは、単純な二項対立では語れない問題だ。行列店は回転が必要。しかし多くの店は、回転以前に集客の課題がある。そして、回転を無理に上げなくても、日々の工夫によって自然と効率化は実現できる。

人口減少や客層の多様化が進む中、ラーメン店が生き残るために求められるのは、画一的な「回転命」モデルから距離をおき、店の規模・立地・ブランドに合わせた柔軟なオペレーションを設計することである。行列店の特殊な事情が業界の常識として語られてしまう風潮こそ、いま見直すべき時期に来ているのではないだろうか。

著者紹介

井手隊長(いで・たいちょう)

ラーメンライター

flier公式チャンネル総合プロデューサー。「東洋経済オンライン」「プレジデントオンライン」「AERA DIGITAL」等の連載のほか、メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」「個人店の事業承継」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。テレビ・ネット番組への出演は「羽鳥慎一モーニングショー」「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」「5時に夢中!」「サクサクヒムヒム ☆推しの降る夜」など多数。東洋経済オンラインアワード2024にて「ソーシャルインパクト賞」を受賞。

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