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なぜ伝えたいことが伝わらないのか 考えを具体化する「3ステップ」で解決する

川岸宏司(株式会社DIL 共同創業者)

2026年06月22日 公開

文章や話す内容が伝わらないのはなぜなのか。それには決定的な理由があると、起業家の川岸宏司さんは語ります。川岸さんの著書『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』では、具体的に物事が伝えられるようになる3つのステップが紹介されています。本稿では、「具体の階段」と呼ばれるその内容をお届けします。

※本稿は、川岸宏司著『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

同じ内容でも、動きたくなる言葉がある

「コミュニケーションが大事」と言われて、明日から何をしますか? 何もしなければおそらく何も変わりません。

では「朝、出社したら最初に会った人の目を見て、笑顔で名前を呼んで『おはようございます』と言ってください」と言われたら。行動できそうな気がしませんか?

言っていることは同じ。でも、片方は空気のように通り過ぎ、もう片方は身体が動く。この差が「具体の階数」です。

私、実は10000本以上の投稿を裏側として書いてきた経験があります。同時に、自身のアカウントで何千本と投稿をつくり、多くの人に共感のお声をいただいてきました。

文章を書いてきて、「伝わらない文章」に共通する特徴は1つだけです。書いている本人は地上にいるつもりなのに、言葉がビルの屋上から降りてきていない。本人の頭の中では映像が再生されているのに、読み手の頭には何も映らないのです。

私はこの技術を「具体の階段」と呼んでいます。上図のように具体の階段には3つのフロアがあり、多くの人は3階に住んでいます。頭の中では1階の映像が再生されているのに、言葉にするときに3階から投げ落とす。エレベーターで降ろさずに、屋上から叫んでいる。だから届きません。

 

階段を降りる「3ステップ変換法」

この「具体の階段」、文章だけの話だと思っていませんか? 実は、会議での発言、部下への指示、プレゼン、日常会話......すべてに使えます。「伝わらない」と感じる場面のほとんどは、言葉が3階にいるだけです。

では、どうやって1階まで降りるのか。私が実際に使っている方法をフレームワークにしました。3つのステップを踏むだけで、誰でも「3階の言葉」を「1階の映像」に変換できます。

ステップ1:概念を書き出す

まず、伝えたいことを1文で書いてください。「思いやりを持つ」「日々改善する」「信頼が大事」......抽象的で構いません。ここでのポイントは、「自分が本当に言いたいことは何か」を1文に絞ること。多くの人は、伝えたいことが5つも6つもある状態で話し始めます。だから散らかる。まずは1文。たった1文でいい。これが階段を降りるための「出発点」になります。

ステップ2:「誰が、いつ、どこで、何を」に変換する

書き出した1文に、4つのWを当てはめてください。Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)

たとえば「思いやりを持つ」という概念。これに4Wを当てると「雨の日に、玄関で、相手の傘を受け取る」になります。3階にいた言葉が、2階まで降りてきた感覚がありませんか?

このステップで大事なのは、「動詞」を入れること。「思いやり」という名詞は映像になりません。でも「受け取る」という動詞が入った瞬間、身体が動き始めます。概念を行動に変える。それがステップ2の役割です。

ステップ3:五感を1つだけ足す

ここが最後の仕上げです。ステップ2で作った行動文に、「音」「温度」「匂い」「表情」「触感」のどれかを1つだけ足してください。

「雨の日、玄関先で、びしょ濡れの傘を受け取りながら、タオルをそっと差し出す」

「びしょ濡れの」で触感が入り、「そっと」で動作の温度が入りました。たった数文字を足しただけなのに、読み手の頭に映像が流れ始めます。

注意点として、五感は「1つだけ」で十分だということです。全部盛りにすると、文章がくどくなります。匂いだけ、音だけ、温度だけ。1つあれば、読み手の脳が勝手に残りの感覚を補完してくれます。

実際にもう少し変換してみます。

「信頼が大事」(←3階)
・ステップ2:「約束を守る」(←2階。まだぼんやり)
・ステップ3:「会議の5分前に資料を開いて、最初の一言を声に出して練習してから部屋に入る」(←1階)

「成長し続けよう」(←3階)
・ステップ2:「毎日学んだことを記録する」(←2階)
・ステップ3:「寝る前に枕元にあるノートを開いて、今日学んだことを3行だけ走り書きして眠る」(←1階)

どうですか? 3階にいた言葉が1階まで降りてくる感覚、わかるはずです。

 

「伝わらない」の正体は情報量じゃない

以前、ある経営者のスピーチ原稿を書いたときの話です。最初にいただいた原稿はデータと数字がびっしり。売上推移、前年比、市場規模。情報としては完璧です。でも、聞いている社員の目が死んでいました。なので書き直したのは1か所だけです。

冒頭に「昨年の4月、新入社員の○○さんが緊張で声を震わせながら自己紹介していたのを覚えていますか」と入れただけ。会場の空気が変わったそうです。全員が「あのときの映像」を再生したからです。

具体の階段を降りるとは、情報を増やすことではなく、映像を1つ置くことです。データは3階の住人。映像は1階の住人です。

自分の言葉が何階にいるか確認する方法を1つご紹介します。書いた文章に対して、こう問いかけてください。「この言葉を聞いた相手は、頭の中に絵を描けるか?」描けるなら1階。描けないなら、174ページの3ステップ変換法で降ろしてください。

ただし「降りすぎ問題」もあります。地下に潜って「昨日の14時23分に、会議室Bで......」と延々描写する。理想は3階と1階を自在に行き来できることです。つまり、相手の理解度に応じて切り替えられる状態です。

私は、「言葉に階数がある」と書きました。でも本当は、階数があるのは言葉じゃなくて、あなたの想像力です。相手がどこまで見えているか。上から叫ぶのではなく、相手のいるフロアまで降りていく。隣に立って、同じ景色を見せる。それが「具体の階段を降りる」という技術の本質です。

 

「それって具体的には?」は最強の質問

会議でこんな場面に出くわしたこと、ありませんか?「もっとユーザー目線で考えましょう」「全員が当事者意識を持つことが大事です」「スピード感を持って対応しましょう」。言っていることは正しい。でも、会議が終わったあと、誰も行動しません。なぜか。「何をすればいいのか」がわからないからです。

こういうとき、たった一言で空気を変える質問があります。必殺技です。「それって具体的には?」

この一言だけで、相手の脳が動き始めます。私はこの質問を、自分自身にも使っています。文章を書いているとき、投稿をつくっているとき、必ず一度は自分に問いかけます。「この部分、具体的には?」と。

なぜ「それって具体的には?」がこれほど強いのか。理由は3つあります。

1つ目、相手を否定しない。「それ違うんじゃないですか」や「もう少し考えて」は、相手の意見を否定しています。でも「それって具体的には?」は、相手の考えを認めた上で、進化を促している。だから相手も構えずに考え始められます。

2つ目、答えを強制する。「どう思いますか?」だと、「いいんじゃないですか」と逃げられます。でも「具体的には?」には、具体で答えるしかない。抽象で返すと、また「具体的には?」と返るだけですから。

3つ目、自分にも使える。これが一番大きい。他人に向けるだけでなく、自分の思考にも向けられる。「もっと頑張ろう」と思ったら、「具体的には?」。「生活を変えたい」と思ったら、「具体的には?」。この質問を繰り返すだけで、思考は勝手に階段を降りていきます。

 

抽象的だったものが勝手に動き出す

試しに、次の抽象的な言葉に「それって具体的には?」をぶつけてみてください。

「チームワークを大事にしたい」→具体的には?→「毎朝の朝会で、1人ずつ『昨日助けられたこと』を発表する」

「お客様満足度を上げたい」→具体的には?→「購入後3日以内に、お礼メールを送る」

「健康に気をつけたい」→具体的には?→「夜10時以降はスマホをリビングに置いて寝室に持ち込まない」

「具体的には?」と問うだけで、抽象的だったものが勝手に行動になります。

一方で注意点があります。それは、この質問は「攻撃」にも使えてしまうということ。何度も繰り返すと、相手は詰められているように感じます。だからこそ、使うのは1回だけ。そのたった1回で、相手の脳が動き出せば十分です。

著者紹介

川岸宏司(かわぎし・こうじ)

株式会社DIL 共同創業者

貧困生活の中、16歳で社会に出て、17歳で貴金属事業を共同起業。自己成長のために本を読み始めるも、「面白いが時間がかかる」という悩みから速読教室に通う。しかし、多額を投じて試した手法はいずれも理解を置き去りにすると痛感する。速読手法を追い求める中で、読書は「文字を目で追いながら、脳内で音として理解する行為」と気づく。
そこで、読書速度の上限は、「脳の内なる声」の処理速度に基づくと仮説を立てる。高速音声を継続的に聴くことで、「脳の内なる声」の処理を鍛えるメソッドを開発。科学的根拠を踏まえた「理解を犠牲にしない速読法」を確立した。自身が運営していた有料読書コミュニティ内で速読講座を開いたところ、1000人以上から高い評価を得た。実務と研究を往復しながら、「速く、深く、人生を変える読書」の体験をひろげている。
現在は、株式会社DILを含む複数会社を経営し、SNS顧問/デザイン/営業代行/書籍プロデュースの業務を担う。Voicy『マグの1%読書ラジオ』は累計再生180万回超。2020年開始のXでは読書術/言語化術を発信し、5年で10万フォロワーを突破。

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