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『無能の鷹』作者・はんざき朝未の「地道なお笑い研究」 最新作でも光る“逆張り思考”

はんざき朝未(漫画家)

2026年07月21日 公開


(C)はんざき朝未/講談社(『消費生活者ターさん』1巻「消費生活王に、俺はなる」より)

唯一無二のキャラクター造形で注目の漫画『消費生活者ターさん』(コミックDAYS)。本作は、ジャングル育ちのターザン似男性・ターさんが、消費生活センターの相談員として働く姿を描いたコメディ漫画です。

作者のはんざき朝未さんへのインタビュー最終回となる本稿では、創作の舞台裏を深く掘り下げます。IT企業勤務から漫画家を目指した経歴や、お笑いコンビのコントから応用した緻密な笑いのロジックなど、はんざきさんの作品作りの根底にある思考に迫ります。

 

IT企業勤務から漫画家へ

(C)はんざき朝未/講談社(『消費生活者ターさん』1巻「あなたはトリセツを読みますか?」より)

――はんざきさんはIT企業に勤められたあと『無能の鷹』で漫画家デビューされたとのことですが、どうして漫画家の道に進まれたのでしょうか。

【はんざき】会社を辞めたあとに、1年くらいニートを楽しもうと思ったんです。ただ、ニートをしていても退屈だなと感じて「じゃあ漫画を描いてみよう」と思い立ち、今に至るという感じです。

――なぜ漫画を描こうと思われたのですか。

【はんざき】昔からうっすら憧れはあったんです。それに、ITの会社にいたといってもデザイン系の仕事で、イラストなどを扱う部署だったので、漫画を描くことが遠い場所にいたわけではなかったんです。

――もともとイラストを描かれていたのですね。

【はんざき】業務で少し描くことがあったくらいですが。本格的に漫画を描き始めたのは退職後からですね。ただ、大学時代に一度「描いてみよう」と思ったことがあったのですが、その時はまだ話作りが全然できなかったので、1ヶ月くらいで挫折してしまいました。

――はんざきさんが描かれる動物のイラストが魅力的です。特にオランウータンや犬の絵が可愛くて見入ってしまいました!

【はんざき】めちゃくちゃ嬉しいです。犬に関しては、最初はもう少しリアルに寄せようと思っていたのですが、担当編集さんたちから「ゆるい方がいいんじゃないか」という意見をいただいて今の形になりました。

――オランウータンも最初に登場したときは思わず笑ってしまいました。

【はんざき】オランウータンは描くのが難しいんですよね。これからもどんどん登場しますので、続きを楽しみにしていてください。

 

笑いを生み出すロジック

――作品づくりには、お笑いコンビの「アンジャッシュ」さんのコントを参考にされているというお話を以前されていましたが、会話の噛み合わなさや、すれ違いの面白さに活かされているのでしょうか。

【はんざき】はい。会話のズレの構造などは、アンジャッシュさんのコントを参考にしています。それ以外にも、テレビ番組の『有吉の壁』から勉強したりしています。

――テレビのバラエティやお笑いを見て、それを自分の漫画のテクニックに落とし込めるのが凄いと思うのですが、どのように学びをストックしているのですか。

【はんざき】番組を見ながら、気づいたことをメモしたりしています。例えば、ある芸人さんのコントで「街の小さな工場に、なぜか超エリートな人間が面接にやってくる」という設定があって、「やっぱり人間の描写にはギャップが大事なんだな」と考えたり。

面白さの構造を自分なりに抽象化してノートにメモするんです。普段そんなに頻繁に見返すわけではないんですけど、メモを取ることで「ネタの引き出しがあるぞ」と安心できるというか。お守りのような感覚ですね。

――本当にお笑いの研究をされているわけですね。他にも最近読まれた漫画で、刺激を受けたギャグやコメディ作品はありますか。

【はんざき】最近だと、少年ジャンプ+で連載されている『サンキューピッチ』という作品を読んだのですが、細かい小ネタをこれでもかと詰め込んで、それでいてちゃんとストーリーがテンポよく進んでいくので圧倒されました。私も、自分の作品には細かいネタをできるだけたくさん入れまくった方が、読んでいる人が楽しいだろうなと思って意識しています。

――漫画を描いている最中、「これは絶対に読者が爆笑するだろう!」というような確かな手応えはありますか。

【はんざき】あったりなかったり、ですね(笑)。自分では「あんまり自信がないな、大丈夫かな」と思って出したネームでも、担当編集者さんが「ここ、すごく面白かったです!」と言ってくれたりして、「あ、よかった!」とホッとしながら作画に入ることも多いです。そこは本当に、毎回手探りで頑張っています。

 

逆張りから生まれる「唯一無二のキャラクター」

――『無能の鷹』の主人公・鷹野ツメ子も、今回の主人公・ターさんも、これまでに見たことのない全く新しいキャラクターだと思います。どうしてこんなに面白いキャラクターを次々と思いつくことができるのでしょうか。

【はんざき】ありがとうございます。キャラクターの作り方でいうと、『無能の鷹』の時はコンセプトから逆算して作っていきました。「能ある鷹は爪を隠す」という言葉やそういうキャラクターがもともと好きだったので、「じゃあ、その真逆の『能は全くないのに爪を隠しているように見えるキャラ』がいたらどうだろう?」というコンセプトから始まっています。

――では、今回のターさんの場合はどうだったのですか。

【はんざき】ターさんに関しては、結構手探りでしたね。実は、この『消費生活者ターさん』の企画が決まる前に、"繊細なヤクザ"を主人公にしたコメディの企画を出していたんです。

――繊細ヤクザ、ですか。

【はんざき】一応起承転結まで書いたプロットを書いたのですがボツになりました。ただ、そのボツになった企画が「クレーマーっぽい細かい気質の人を主人公にしたら、消費生活センターを舞台にした時に相性がいいんじゃないか」というアイデアに繋がり、巡り巡ってターさんのキャラクター造形に活かされることになったんです。

――「ジャングル育ちのワイルドな野生児」なのに「細かいことが気になる」という、一見すると矛盾するような要素が同居しているのが魅力ですね。普通ならこの属性の人はこういう性格にはならないだろう、という相反する要素を組み合わせることで、面白さが生まれるのでしょうか。

【はんざき】そうですね。私は「逆張り」が好きなんだと思います(笑)。逆張りをすることで、他の人がまだ手をつけていないようなニッチな市場を見つけ出したい、という気持ちが常に根底にある気がします。

 

前作『無能の鷹』は時代を予言していた!?


(C)はんざき朝未/講談社(『消費生活者ターさん』1巻「消費生活王に、俺はなる」より)

――前作『無能の鷹』を今読むと、2019年の連載開始当初から登場人物たちが「AIが台頭する危機感」を持っていることに驚かされます。はんざきさんはビジネスの潮流を先取りされていた方なんだなと思ったのですが...。

【はんざき】でも、2022年から2023年頃には「AIが仕事を奪ってくれるというのは嘘だったのではないか」と、AIへの期待が薄れていったので、そのときは「やっちまったな」と思っていたのですが(笑)。最近になってやっぱり「AIは本当に仕事を奪うのかもしれない」という流れになってきましたね。

――今読むと、まるで時代の変化を予言していたかのようです。

【はんざき】そう言っていただけると嬉しいですね(笑)。

――最新作の『消費生活者ターさん』では、カリファ国のエピソードなどを通じて、現代の資本主義が抱える行き詰まりのようなテーマも描かれているように感じました。こうした視点は、現代社会の構造に対する問題意識から生まれたものなのでしょうか。

【はんざき】物語の面白みとして、多少は意識しています。そこまで何かをしっかり描こうというプランがあるわけではないのですが。

――今の時代、地方移住をする人も増えていますし、作中のカリファ国のような場所があれば行ってみたいと感じる読者も多そうです。

【はんざき】そうですね。今の世の中はあらゆるものがどんどん高度になり、仕組みがブラックボックス化しています。そうした資本主義社会と、ワイルドでシンプルな生き方への憧れ、その対比のようなものは作品の軸として意識しています。

――はんざきさんご自身は、カリファ国のような場所に行きたいという気持ちはありますか。

【はんざき】私はどちらかというと先輩相談員の保東純に近い側ですね。シンプルな生き方への憧れはあるけれど、自分は文明の中で生かされているという気持ちもあるし、体力的に無理だなという諦めもあります。そうやって文明を受け入れています(笑)。

 

著者紹介

はんざき朝未

漫画家

ハツキス10号(2019年3月刊)でデビュー。Kiss掲載の初連載作品『無能の鷹』(全8巻)がヒットし、TVドラマ化もされた。

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