「偽物の自然」でもストレス減?体の炎症を防ぎ寿命を延ばす新常識
2026年07月24日 公開
ストレスや肥満、慢性疲労など、現代人が抱える不調には、「文明病」というべき環境と遺伝のミスマッチが深く関係しているといいます。なかでも多大な影響を受けていると考えられるのが「自然」と「友人」。
本記事では、ハーバード大学などの膨大なデータをもとに、「自然」と「友人」への投資効果について解説。心身を健やかに保ち、仕事のパフォーマンスを最大化するため、今日から始められる新常識をお届けします。
※本稿は、鈴木祐著『新版 最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。
孤独だった人に友人ができると寿命が延びる
「友人を大切に」と言われれば、古臭い道徳訓のように響くかもしれません。しかし、ここ数年のデータは、いずれも良好な人間関係がもたらすメリットをはっきりと示しています。
代表的なのは、ブリガムヤング大学による2010年のメタ分析です。研究チームは、過去に行われた「孤独と健康」に関する研究から31万人分のデータを精査し、人間の寿命を延ばす効果が高い要素を抜き出しました。
その結果は、「良好な社会関係」の数字がずば抜けており、孤独だった人に友達ができた場合は最大で15年も寿命が延びる傾向があったとのこと。健康への効果はエクササイズやダイエットの約3倍に当たり、なんと禁煙よりも「友人」のほうが影響が大きいというから衝撃的です。
もうひとつ興味深いのが、ハーバード大学が行った「成人発達研究」です。
これは1939年からスタートした研究で、約80年間にわたって724人の人生を記録し続けたもの。全員が10代の学生だったころから調査を始め、定期的に体調や幸福度を尋ねるのはもちろん、かかりつけの医者からカルテを手に入れたり、家族との会話をビデオで収めたりと、膨大な労力が注ぎ込まれました。
参加者の行く末は幅広く、弁護士や医者になった者、サラリーマンや工場労働者になった者、ボストンのスラム街でホームレスになった者まで様々。彼らの多様な人生をすべてパッケージ化したうえで、「人間の幸福にとって最も大事なものとは?」の答えを数字で割り出したわけです。
研究のリーダーであるロバート・ウィルディンガー教授は言います。
「彼らの人生から得られた、何万ページにもなる情報から明らかになった事は何でしょう? それは富でも名声でもがむしゃらに働く事でもありません。私たちの体を健康にし、心を幸福にしてくれるのは『良い人間関係』です。これが結論です」
考えてみれば当然でしょう。いくら富や名声を得ようが、病気にならない完璧な肉体を持とうが、人類の3つの感情システムは最適化されません。身近な人たちとの関係が悪ければ「満足」の機能は活性化されず、手に入れたものはすべて無に帰すはずです。
もしあなたが幸福よりも富や名声を追うタイプの人間だったとしても、良い友人の重要性は変わりません。「成人発達研究」のデータでは、人間関係が悪い人にくらべて、良い友人が多い人は3倍も仕事で成功しやすく、年収も高い傾向が見られたからです。
再びウィルディンガー教授の発言を引きましょう。
「良い人間関係は私たちの脳も守ってくれます。周囲との良い関係を80代までキープできた人や、何か困ったときに助けを求められる相手がいる人は、はっきりした記憶を長く持ち続けられます。しかし、困ったときに頼る相手がいないと、早い段階で記憶力が低下し始めるのです」
孤独から来る炎症で体調が崩れ、さらには脳の機能まで衰えてしまうのだから、仕事のパフォーマンスが下がっていくのは当たり前の話。幸福、富、名声、健康は、すべて人間関係の土台があってこそです。
最新の科学からみれば、「自然を大事に」や「友人を大切に」といったフレーズは、古臭いお説教などではありません。遺伝と環境のミスマッチが起きた現代においては、「自然」と「友人」への投資こそが、もっとも費用対効果が高い行為なのです。
"偽物の自然"にもリラックス効果がある
もっとも、いくら自然が体にいいと言っても、現代人が急に「森の生活」を始めるわけにもいきません。いまの暮らしの範囲内で、できるだけ自然を取り入れていく方法を模索するのが現実的でしょう。果たして、自然のメリットが得られる最低ラインはどこにあるのでしょうか?
スタートとして効果的なのは、「自然音」または「自然画像」です。川のせせらぎ、木々を吹き抜ける風の音、雄大な森林の映像、波が押し寄せる海の光景など、種類はなんでも構いません。まずはデジタルのデータを使い、スピーカーやモニタ越しに自然との接触回数を増やすのです。
狩猟採集民とくらべればささいなものですが、これがどうしてバカにできません。自然に飢えた現代人の脳には、たとえ偽物の自然でもかなりのインパクトがあることがわかっています。
たとえばアムステルダム自由大学の実験では、60人の学生に複雑な数学の問題を解かせて精神的なストレスをあたえた後、半分には緑が豊かな公園の写真を5分だけ見せ、残りには一般的な都市の光景を眺めるように指示。それから全員の自律神経を計測したところ、公園の写真を見た学生は2倍も副交感神経が活性化し、心拍数も有意に低下していました。自然の写真を5分ほど眺めるだけでも、かなりのリラックス効果が得られるようです。
また、自然の写真ほどではないものの、自然音についても研究が進められています。
2017年にサセックス大学が行った実験では、風の音や虫の声を5分25秒ほど聞いた被験者は、車のエンジンやオフィスのざわめきを聞いたときよりも、有意にリラクゼーション反応が起きていました。
まずはPCやスマホの壁紙を森や海の風景に変え、通勤電車の中では風や潮騒の音を聞くのが、いまの暮らしに自然を取り込むはじめの一歩になります。
自然の写真と音声で副交感神経が鎮まったら、次のステップです。
ここからは、一歩進んで「観葉植物」を取り入れてみましょう。やはり狩猟採集民の暮らしにはほど遠いものの、こちらも多くのデータで効果が示唆されています。
ノルウェーで行われた実験では、385人のオフィスワーカーの年齢や仕事内容といった因子をコントロールしたうえで重回帰分析を行ったところ、はっきりとした違いがみられました。デスクの上に観葉植物を置いた従業員ほど主観的なストレスが低く、病気で会社を休む回数は少なく、仕事の生産性まで高い傾向が見られたのです。
このような現象が起きる理由には諸説あるものの、1998年のデータでは観葉植物の近くで働くオフィスワーカーは肌荒れが減ったとの報告も出ており、やはり副交感神経の活性化によって体内の炎症が治まったのが大きいようです。
さらに嬉しいことに、観葉植物には幸福度や集中力を上げる効果も確認されています。
350人のオフィスワーカーを対象にしたある実験では、観葉植物を前にしながら作業をした被験者は幸福感が47%アップし、作業の効率が38%も上がったそうです。これは、観葉植物のおかげで作業中の緊張がやわらいだために起きる現象で、心理学の世界では「注意回復理論」と呼ばれます。これほど手軽で生産性が上がるテクニックも珍しいでしょう。
身近に置く観葉植物の種類はなんでも構いません。多くの実験ではポトスやドラセナを使うのが定番ですが、基本的には自分が好きな植物を選べばいいでしょう。
ただし、ここでは観葉植物選びの参考として、1989年にNASAが行った「クリーンエア研究」のデータを紹介しておきます。
NASAが推奨する観葉植物
◆スパティフィラム(Peace lily):日陰に置くことでベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。ただし、葉の部分にシュウ酸カルシウムがふくまれており、体内に入れば体調を崩すことも。そのため子どもやペットがいる家庭には不向き。
◆ポトス(Pothos):ホルムアルデヒドを吸い込む効果が認められている。週に1度の水やりでも十分なので初心者向け。
◆セイヨウキヅタ(Ivy):ホルムアルデヒドを取り除くのに有効。直射日光でも日陰でも普通に育つが、やはり毒性を持っているので子どもやペットがいる家庭には不向き。
◆キク(Chrysanthemum):ベンゼンとホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。
◆ガーベラ(Gerbera daisy):ベンゼンとトリクロロエチレンの両方を吸収してくれる。
◆サンセベリア(Sansevieria):ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。水やりが少なくてもいいのでメンテナンスは楽だが、水の加減を間違えると枯らしやすい。
◆チャメドレア(Bamboo palm):ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。直射日光を避ければ、毎日の水やりが不要なので育てやすい。
◆ツツジ(Azalea):ホルムアルデヒドをフィルタリングしてくれる。現在のツツジは品種改良がされていて育てやすい。
これは、観葉植物の空気を清浄化する働きを調べたもので、一部の品種には、ベンゼンやホルムアルデヒドといった大気中の有機化合物を吸い取る作用が認められました。つまり、観葉植物は天然の空気清浄機としてシックハウスの対策にも使えるわけです。
植物の清浄効果を高めるには、およそ10平方メートルごとに直径15〜20センチの鉢植えを1個置くのがベストです。