労働生産性で世界5位を誇るスウェーデンでは、17時には仕事を終え、家族や趣味の時間を楽しむのが一般的だといいます。なぜ短い労働時間で成果を出せるのでしょうか。スウェーデン在住の久山葉子さんは、著書『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』にて、現地でのインタビューをもとにスウェーデンの働き方・生き方を解説しています。本稿では同書より、ワークライフバランスのカギとなる朝の習慣についての一節をご紹介します。
※本稿は、久山葉子著『スウェーデン人はなぜ朝の3時間で仕事が片づくのか』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・編集したものです。
定時退社は朝が9割
スウェーデンの一般的なオフィスの出社時間は朝8時。それどころか8時より早く来て、16時~16時半くらいに仕事を終える人もいる。
なぜこんなに朝型なのだろうか。実は、朝型生活の一番の目的は「早く出社すること」ではない。肝心なのは、「早く退社する」ことだ。
17時頃に保育園に迎えに行くと、「迎えに来るのが遅すぎる」と娘に泣かれた。その時間帯には園全体でも3~4人しか子供が残っていない。実際、夕食は17時という家庭が多い。
保育園のお迎えはもちろん、子供が大きくなってくると親は夕方から習い事の送迎係となり、子供が2、3人いたりするとやれ今日はサッカーだ、明日はダンスだと、夫婦で手分けして送迎や夕食づくりをこなすことになる。
じつは、この「予定」こそが、朝型生活に切り替えるキーポイントなのだ。
IT系でも、「7時出社、16時退社」
夜型なイメージのIT系だが、ダニエルさんは普段7時に出社して16時に退社する。子供のペースで自然にそうなったという。
保育園時代は子供が朝早く起きたし、小学校に上がってからはサッカーの練習が17時からなのでそれまでに送っていかなければいけない。そのためには16時には職場を出なければいけない。
会社の定時は8時だが、16時に帰るために7時に出社している。単純明快に、理由はそれだけ。
夕方に予定が入っていると、その時間に退社せざるを得ない。人間は締め切りがあるとそれを目指す。
子供がいない人も、残業しない理由
生活の予定が一番融通の利かない「子供のいる人」のペースに合わせて、社会全体が自然と朝型になっているわけだが、では子供がいない人は長く働くのかというとそうではない。
子供がもう大きい人や独り暮らしの人も朝早く来ているし、定には帰っていく。
独り暮らしでも、自分のプライベートを最優先する点は同じだ。あくまで自分の人生があったうえで仕事をして、仕事は仕事と割り切っている。
子供が高校生になった経理の智子さんも、だからといって好きなだけ残業するわけではない。もちろん職種柄、残業のある時期もあるが、後日早く帰ることで清算する。
そして普段は「毎日気分良く働くために、定時まで働かない!」と語る。定時より10分でも早く終わらせられれば、「今日の私、うまくやった!」とハッピーな気分で職場を出られるという。
スウェーデンでは週40時間労働が標準だが、吉澤さんの会社のように週に37.5時間の会社も出てきている。そうすると社員は生真面目に今までより2.5時間早く帰る。これが「仕事が終わるまで帰らない」というスタンスのままだと、せっかく2.5時間短くなっても、実労働時間に変化は生じない。
仕事が終わるまで帰らないというスタンスが当たり前になっていると、「気分良く働くために残業しない」とか「自分の人生があったうえで、仕事は仕事と割り切る」と言われても、ピンとこないかもしれない。
しかし、夕方からは今日の〈第2幕〉が控えていると考えれば、何をしたいだろうか。仕事はあくまで〈第1幕〉だと捉えてみよう。
仕事とプライベートの線引きがしやすくなるのではないだろうか。
朝から運動…1日をベストな自分で過ごすために
スウェーデンの朝の通勤風景で特徴的なのは、運動している人が多いことだ。
スニーカーを履き速足で歩く人、自転車に乗る人、ジムで汗を流す人など、通勤時間あるいは仕事前の時間を運動に充てている人が目につく。
集中力と記憶力、クリエイティビティがアップ
運動は脳の認知機能に良い効果を与え、集中力、記憶力、クリエイティビティを上げる効果がある。さらに、ストレスホルモンのレベルも下げてくれる。
その効果を仕事の生産性につなげたいなら、仕事後に運動するのではなく、仕事前にしなければ意味がない。朝から運動するのは、ベストな自分になり、その日のパフォーマンスと生産性を上げるためだ。
夜に運動しても同じ効果は得られるが、時間的にそのまま寝るだけだとせっかくの効果を活用できないということになる。ただし、運動は定期的に続けることで認知機能やメンタルが強化されていくので、夜でも運動することには意味がある。
時間をかけずに運動を採り入れる方法
スウェーデン第2の都市ヨーテボリに住むマッティンさんは自転車通勤を8年続けている。
家から会社までは11キロで、自転車でもバスでも通勤時間はそれほど変わらない。そこで、通勤しながらトレーニングを兼ねようと思い、競技用バイクを全速力で漕いで会社に向かう。毎朝25分、毎夕25分でいい運動になる。かなり汗をかくが、会社にシャワーがあるので大丈夫。そのおかげで雨や雪の日にも自転車通勤ができる。
シャワーを浴びてすっきりして、仕事着に着替えて仕事開始。会社には毎朝ランニングして出勤する女性もいたという。通勤時間を運動に充ててしまえば、それ以外の時間から運動時間を捻出する必要がない。
会社に到着したらエレベーターは使わずに、7階のオフィスまで階段で上がる。医療機器の会社なので取締役に医師もいるが、「エレベーターは使っちゃダメ!」と言うそうだ。日常の中にある運動の機会を逃さずに活用する――忙しい大人には特にそれが大切だ。
会社側も「運動は仕事の一部」として支援
スウェーデンの大人も、自分の運動不足はよく認識している。だからこそ、意識的に運動する時間を確保する。そのおかげで、仕事の生産性も上がる。最近では会社も「運動も仕事の一部」「社員への投資」と位置づけるようになった。
智子さんが働いた会社にはトレーニングマシンやシャワーがあったので、外のジムに行く必要はなかったという。現在はオフィスを建て替え中で、社員へのアンケートで新しいオフィスに望むことを聞いたところ、第1位は「ジム」だった。社長も「何しに会社に来るんだ」と笑っていたそうだ。
また、これまで働いた4社のうち2社に「健康ケア時間」と呼ばれる制度があり、勤務時間中に運動に使っていい時間が設けられている。会社にもよるが、1週間に1~2時間程度だという。その時間を利用して、社内外のジムに通ったり、ジョギングに出ることができる。
運動に会社が実費を出してくれる
社内に運動できるスペースを設けていない会社も、外部のジムやプールの年会費など、健康促進につながるアクティビティの料金を会社の経費で落とすことができるようになっている。いったん自分で立て替えて、レシートを会社に出せばお金を返してもらえるシステムだ。
この制度は会社に導入義務があるわけではないが、国も奨励していて、会社が税金を控除できるようになっている。その結果、スウェーデンの雇用主の85%が導入している。
社員1人が使える金額の上限は会社によって異なるが、会社側は1人あたり年間5000sek(8万5000円)まで税金を控除できる。
朝から運動するために、早く寝る
都市圏では朝6時半くらいから走っている人やジムに行く服装の人を見かける。
身体を動かすことで頭がすっきりした状態で仕事を開始、昼間は仕事に集中、夕方以降のんびりして、夜も早く寝る。そんな1日のリズムになっている。仕事前に運動するためには、当然、前日夜ふかしせずに早く寝なければいけない。スウェーデン人が、独り暮らしであっても定時に帰っていく理由がわかってきただろうか…?