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生き方

「断れない...」から卒業!無理せずNOと言える自分軸の作り方

和田秀樹(精神科医)

2026年09月11日 公開

頼まれると断れない、頼まれてもいないのに引き受けて後悔してしまう―。そんな「いい人」をやめられずに疲れていませんか? 精神科医・和田秀樹氏は、他人軸から「自分軸」へと発想を切り替えることが心を軽くする第一歩だと語ります。本記事では、「Iメッセージ」を活用して角を立てずに「NO」を伝える方法や、自分も相手も尊重する人間関係のコツを解説します。

※本稿は、和田秀樹著『落ち込まない 考えすぎない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「NO」と言える人になる

1989年に、『「NO」と言える日本』というタイトルの本が出版され大ベストセラーとなりました。作家の石原慎太郎氏と当時ソニー会長の座にあった盛田昭夫氏による共同執筆の著作です。

日米貿易摩擦の真っ只中で、経済、外交、文化に至るさまざまなシーンにおいてアメリカ社会に批判的な目を向け、日本政府の自己主張のなさに言及し、日本人は、自分の意見や権利をより主張し、「NO」と言うことも必要だと論じています。

本書が幅広い読者の反響を呼んだのは、このタイトルに帰するところも大きいといえるでしょう。「NOと言え○○」が流行語となり、1989年の流行語大賞特別部門・語録賞を受賞したことがそれを物語っています。

ただ、これほどのベストセラーになり、流行語にもなったときから、約40年の歳月を経た今、日本人が「NO」と言えるようになったかというと、そうでもないというのが現実です。

日常生活でも、周りに気を配り、「相手はどう思うか」「相手は自分に何を期待しているか」を考えて悩んでしまう。そんなふうに他人軸で考えて、心がへとへとになってしまっている人がたくさんいます。

例えば、いつも何かと目をかけてくれる職場の先輩に「この作家のSF小説、すごく面白いから読んでみたら?」と言われ、その本を借りたDさん。

しかしDさんは、SF小説を読み慣れていないせいか、面白さがよくわからないまま読み終えて本を返しました。感想を求められ「面白かったです」と言ってしまったので、先輩はDさんが気に入ってくれたものと思い込み、次々とSF小説を貸してくれるようになりました。

「今さらSF小説は読まないんですとも言えないし、読みたくもない本を読むのもつらい。あんなこと言わなきゃよかった」と後悔しても、後の祭りです。

この手の経験をしたことがある人は少なくないと思います。もしも、心あたりがあるなら、私がお勧めしたいのは、「自分軸で生きる」ことです。これは「私はどう思うか」「私は何をしたいか」を軸にして判断する生き方です。

これまでずっと他人の期待を軸にしてきたなら、いきなり自分軸といわれてもあまりよくわからないかもしれません。

もしそうなら、「私は」「私が」を主語にして、心の中にあることを頭の中で言葉にしてみることから始めてみてください。「私はこう思う」「私はこうしたい」と「私」を主語にして、考えてみるのです。

先の例でいえば、好きでもないSF小説を「読んでみたら?」と勧められたら、「私はSF小説は苦手なんです」。あるいは、毎日一緒にランチに行く同僚は、行くのはいつも和食の店ばかり。そこで、「私はイタリアンが好きだな」。周りが残業していて帰りづらい雰囲気でも「私は今日は早く帰りたい」。そう考えてみるのです。

最初のうちは、うまく言葉にならないかもしれません。しかし、自分の本当の気持ちにフォーカスを当てる習慣ができると、自分軸のありかが次第に見えてきます。自分軸が明確になれば、次第に「NO」と言えるように変わっていけるのです。

いつも自分の感情や気持ちを抑えてきた人にとって「NO」と言うのは勇気がいることです。しかし、素直に「NO」と言えることも、大事なコミュニケーション能力です。本当の意味でのよいコミュニケーションをするために「NO」と言えることが不可欠といっても過言ではありません。

立場の上下に関係なく、我慢できないこと、納得できないことなど、思っていることを相手に素直に伝えられてこそのグッド・コミュニケーションなのです。もちろん「NO」を言うためには、表現にそれなりの配慮や工夫が必要です。つい相手を否定したり、非難したりする言葉が出てくるかもしれませんが、それも相手軸での言葉です。「あなたは○○だ」と相手軸で考えている自分に気づいたら「私は」と自分軸に戻してみてください。

「私は」を主語にして伝える方法を「Iメッセージ」と言います。こうすることで、表現はやわらかくなり、お互いを尊重しながら、自分の気持ちを伝えられるようになります。

「私は、昨日も残業して、あまり眠れていないんです」
「私は、イタリアンが好きなので、今日はそっちにしてみない?」
「私は、SF小説が苦手なんです。でも、勧めてくれて私は嬉しかったです」

 

「断れない自分」から抜け出す方法

こんなふうに自分軸で伝える練習をしてみると、やわらかく自分の気持ちを伝えられます。相手を否定も非難もしていません。こうすることで相手を尊重しつつ、自分も尊重してもらえるようになるのです。

頼まれると、つい引き受けてしまう。でも後で後悔したり、苦しくなったりしてしまう。そんなことが多い人も、先ほどお話しした要領で「NO」と言えるようになれば、「頼まれたら断れない」悩みから解放されるはず…なのですが、これが一筋縄ではいかないものです。

やりたくないことでも、忙しくて手が回らなくても、「つい、助けてあげたくなる」心理、これが前述した社会間接互恵性というものです。

人から頼まれるということは、自分が信頼されているからだと考えると、悪い気はしません。「ここはやっぱり期待に応えたほうがいいのかな」そんなふうに思って引き受けることもあるでしょう。

しかし、ここでも自分軸で考えてみることが大事なことに変わりはありません。自分軸で考えて「面倒だけれど、私は助けてあげたい」という気持ちが浮かび上がってきたなら、引き受けます。

自分軸で「私はその余裕がない」「私は助けてあげる必要はないと感じる」という答えが出てきたなら、やめればよいのです。

さらに考えたいのは「助けてあげたい」「信頼に応えたい」という気持ちに従うことが、実際に相手のためになっているのかどうかです。

本人がやり遂げてこそ意味のあることなのに「ちょっとやってできなかった」「面倒だから代わりにやってほしい」くらいの考えで頼ってきたのだとしたら、単に利用されているだけですし、相手のためになるともいえません。

人に頼られると、自尊心が満たされて、嬉しい気持ちになるのは人の自然な心理ですが、冷静に判断しなければなりません。頼まれごとを、無条件に何でも引き受けていると、まるで雑用係のように、どんどん仕事を押しつけられることにもなりかねません。

仕事上の頼まれごとは、慎重に考える必要があります。

まずは、断ることで将来生じる状況を予想して判断することです。

例えば、日頃からお世話になっている人からの頼みを断ると良好な関係にヒビが入るかもしれません。そう感じるなら、すべてを引き受けるのは無理でも、その一部を引き受けることを相談したり、別の形で協力できる方法を検討してみたりするというのも一つの手です。

次に、緊急度・重要度を考慮して優先順位をつけることも大切です。

急ぎの仕事があるときに依頼されたら、その仕事が終わるまで待ってもらえるかどうかをまずは尋ねましょう。それでもOKなら引き受けるとよいでしょう。あるいは現在取り組んでいる仕事をいったん休止しても大丈夫なら、引き受けてもいいでしょう。

いずれの場合も、自分ならいつまでに仕上げられるのかを見積もり、そのうえで相手と交渉するといいのです。

著者紹介

和田秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、立命館大学生命科学部特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長。著書に、『医学部にとにかく受かるための「要領」がわかる本』(PHP研究所)、『老いの品格』『頭がいい人、悪い人の健康法』(以上、PHP新書)、『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書)、『感情的にならない本』『[新版]「がまん」するから老化する』(以上、PHP文庫)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『自分は自分 人は人』(知的生きかた文庫)など多数。

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