「悩みを解決しようとしているのに、どんどん不安が大きくなった」「他人と比較して苦しくなった」そういった経験をしたことも多いのではないでしょうか?実際、藤田康男さんがCEOを務めるSmart相談室で実施するカウンセラーアンケートでも、半数以上の人が同じような悩みを抱えていることが示されています。
では、そうした悩みを抱えたときに、どのような行動を心がければよいのか。誰もが経験しそうな具体的なケースを例に、心理学・行動科学を踏まえた対処法を紹介します。
※本稿は、藤田康男著『悩みの統計学』(扶桑社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
62.4%が、悩みを「整理する前に解決」しようとしている
悩みを抱えたとき、多くの人は、「どうすれば解決できるのか」を真っ先に考えます。インターネットで情報を検索したり、経験者の話を聞いたり、すぐに行動を起こそうとしたりすることもあるでしょう。このような状態は決して珍しくありません。カウンセラーアンケートによると相談者の62.4%が、「悩みを十分に整理しないまま解決しようとしている」ことが分かっています。
しかし、対処法を探しているにもかかわらず、かえって迷いや不安が大きくなってしまった経験はないでしょうか。その理由は、対処法が見つからないからではなく「何に悩んでいるのか」が整理できていないまま答えを探しているからかもしれません。
【ケース1】どうすれば上司との関係を変えられるのか
仕事で上司との関係に悩んでいるAさんは、「どうすれば上司との関係を変えられるのか」と、答えを探し始めました。インターネットで情報を集め、本を読み、友人にも相談しましたが、意見がバラバラでかえって混乱してしまいます。
【対処法】「何に悩んでいるのか」を言葉にする
悩みに対処する第一歩は、答えを探すことではありません。そこが鍵です。
まずは、「自分は何に困っているのか」を整理しましょう。たとえば、「上司が嫌だ」という悩みであっても、その中には「ちゃんと評価されていない、評価してもらえるか、という不安」「期待に応えられない焦り」「人前で叱責された悔しさ」など、さまざまな感情が混ざっていることがあります。
これらを1つずつ言葉にしていくことで、問題の輪郭が見えてきます。すると、「上司との面談を増やす」「評価基準を確認する」といった、より現実的な選択肢が見えてくることも少なくありません。
悩みは、急いで答えを出そうとするほど複雑になりがちです。だからこそ、まずは立ち止まり、「私は何に悩んでいるのか」「何が一番つらいのか」を言葉にしてみてください。悩みは整理されることで初めて、解決への道筋が見えてくるのです。
57.8%が、「やらないこと」を選択できない
現代は「やるべきこと」が次々と増えていく時代です。仕事でもプライベートでも、目の前には無数の選択肢や依頼が存在します。タスクと言ってもいいかもしれません。そのため、多くの人は「何をやるか」を考える一方で、「何をやらないか」を決めることができません。
しかし、時間や体力、集中力には限界があります。すべてを引き受けようとすると、結果として重要なことに十分な力を注げなくなります。忙しさに追われているのに成果や充実感が得られない場合、その原因は能力不足ではなく「やらないこと」を決められていないことにあるのかもしれません。
【ケース2】依頼された仕事を何でも引き受けていたら、訳が分からなくなった
量が質を担保するという考え方に基づいて、依頼された仕事や頼まれごとをすべて引き受けていたBさん。最初は評価されていましたが、次第に「あの人に頼めばやってくれる」と認識され、さらに多くの仕事が集まるように。その結果、自分が本当にやるべき仕事が見えなくなり、気づけば、何が重要で何が重要でないのか分からなくなってしまいました。
【対処法】TODOリストの上位5つだけを実行しよう
まずは機械的に、TODOリストの上位5つだけを実行することにしましょう。自分の中のルールです。それ以外のタスクは、ひとまず後回しにします。すると、「なぜこの仕事をやっていないのか」といった反応やクレームがくるかもしれません。しかし、その反応こそが優先順位を見直す材料になります。本当に重要なものなのか、それとも緊急そうに見えるだけなのかを判断できるようになるからです。
この作業を繰り返していくと、自分にとって価値の高い仕事と、そうでない仕事が少しずつ見えてきます。私たちは「何をやるか」を決めることばかりに意識を向けがちですが、成果を生み出している人ほど「何をやらないか」を明確にしています。限られた時間を有効に使うためには、必要なことを選ぶのと同じくらい、不要なことを手放す勇気が必要なのです。
57%が、「他人と比較」している
半分以上の方の悩みは、「他人との比較」から生まれています。前出の社会的比較によれば、人は社会的な生き物であり、自分の状況を理解するために他人と比較する習性を持っています。人は自分の能力や意見、価値を判断するときに、他人との比較を通じて自己評価を行うのです。
人間は身長や体重のように簡単に測れるものだけでなく、「自分は仕事ができるのか」「年収は高いのか」「幸せなのか」「良い親なのか」といった曖昧な事柄についても評価したいと考えてしまいます。
社会的比較は、上方比較(自分より優れている人と比較すること)と、下方比較(自分より恵まれていない人と比較すること)の2つに分けられます。上方比較は、「自分も頑張ろう」というモチベーションになることがあり、一方で、「自分はダメだ」「なぜ、自分だけ」と劣等感や嫉妬を生みやすい面もあります。下方比較は安心感や優越感を与えますが、成長への意欲を失わせる面もあります。
ポイントは、比較するに当たって、絶対的な基準は存在しないことをきちんと理解しておくことです。それがないから、周囲の人を基準にして自分を判断することになるのです。自分の年収が500万円として、Aさんが400万円なら満足し、700万円なら不満を感じる。つまり、絶対的よりも相対的に評価するのです。比較そのものは自然な行為ではあるのですが、自分を苦しめる原因にもなります。
【ケース3】自分の給料が低い気がする
Cさんは、「自分の給料は低い気がする」と悩んでいます。それは給料の額そのものが問題なのではなく、同じ会社の同僚が昇給した、友人が転職して年収が上がった、SNSで知人の活躍を目にした......そのような情報に触れた瞬間、自分の状況を相対的に評価し始めてしまうのです。
【対処法】何と比較しているかを明確にする
比較によって生じた悩みに対処する第一歩は、自分が何と比較しているのかを明確にすることです。給与であれば、同僚と比べているのか、友人と比べているのか、それとも理想の自分と比べているのか。評価基準、役割、成果、交渉の有無、市場環境、業界動向など、何と比較しているのか確認します。比較対象が見えるだけでも、悩みの正体はかなりはっきりします。
その上で、感情ではなく事実を確認してみましょう。評価基準は同じなのか、役割や責任範囲に違いはないか、成果の差はあるのか、給与交渉をしたかどうか、市場環境や業界動向はどうなっているのか。こうした要素を整理することで、「不公平だ」と感じていたことが、実は異なる条件による結果だったと気づくこともあります。
さらに、具体的な行動につなげることが大切です。スキルを身につける、上司と話し合う、異動を希望する、副業を始める、転職市場を調べる、キャリアパスを変更するなど、取れる選択肢は数多くあります。「不満を我慢する」か「すぐ辞める」かという極端な二択で考えがちですが、現実には、その間にさまざまな選択肢が存在します。
比較によって生まれた感情を否定する必要はありません。ただ、その比較を分析し、行動につなげることができれば、悩みは前進するためのヒントへと変わるのです。社会的比較は人間の本能なので、完全になくすことはできません。
重要なのは「比較しないこと」ではなく、「何と比較しているのか」に気づくことです。「自分は何と比べているのだろうか」 「その比較は妥当なのか」「比較から何を学べるか」「どんな行動につなげられるか」。こうした視点を持つだけで、比較による苦しみは小さくなります。