《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年11・12月号 特集 志を立てる より》
新連載『 朝倉千恵子の「社会を変えたい人」列伝 』は、情熱研修講師で知られる〔株〕新規開拓社長・朝倉千恵子氏が"スジの通った活動家"に斬り込むインタビュー・シリーズ。
第1回のゲストは杉良太郎さんです。
<構成:阿部久美子/写真撮影・提供:〔株〕杉友(対談風景)、永井 浩(朝倉氏)>
<ゲストのプロフィール>
杉 良太郎(すぎ・りょうたろう)
1944年兵庫県生まれ。1965年に歌手デビュー、1967年にテレビドラマ『文五捕物絵図』で脚光を浴び、『遠山の金さん』『一心太助』などテレビ時代劇や舞台で活躍。俳優・歌手として活躍する傍ら、法務省「特別矯正監」、外務省「日本アセアン特別大使」「日本ベトナム特別大使」、厚生労働省「肝炎対策国民運動特別参与」など、社会貢献活動や福祉活動に尽力する。
人の痛みを知ったらやらずにはおれない 杉良太郎
杉良太郎さんといえば、100万枚を超える大ヒット曲『すきま風』を持つ歌手にして、多くのファンから「杉様」と呼ばれる大スター。一方で、刑務所の視察や慰問、ベトナム支援、阪神・淡路大震災や東日本大震災でのボランティア活動など、芸歴より長い活動歴を持つ福祉活動家でもあるといいます。莫大な私財を投じて、なぜそこまでブレずに活動を続けられるのか――いつか必ずお会いしてお訊きしたいと願ってきました。
そして今回、新シリーズの記念すべき最初のゲストにお迎えできたのは、このうえない幸せ!芸能と福祉に一本のスジを通す“男・杉良太郎”の熱い思いに迫りたいと思います。(朝倉)
「杉塾」の基本は正座
朝倉 私は9年前に社員教育・「人財」育成の会社を起ち上げ、「人が変われば、組織は変わる」「人が変われば、社会も変わる」という信念でさまざまな企業の人財育成のお手伝いをしてきました。そんな私が、各界で活躍されている「社会を変える」パワーをお持ちの方にお目にかかって、ものの考え方や行動力の一端に触れさせていただくというのが、今回スタートする企画の趣旨です。
最初のゲストとして、編集部からお名前が挙がったのが杉良太郎さんでした。以前から、一度お話をお訊きしたいと願っておりましたが、今回あらためてご著書や雑誌のインタビュー記事を読ませていただいて、私は杉さんの、一本ピシッとスジの通った姿勢にたいへん共鳴し、「ぜひともお話しさせていただく機会をつくってください」と勇んでお願いして、実現していただいたという次第です。
杉 そうですか。人財教育の仕事をしておられる。
朝倉 はい。ゼロから会社を興し、自分自身も研修やセミナーの講師を務めています。もともとは小学校の教員をしておりまして、「落ちこぼれの子どもを絶対につくらない。できない子をなくすことこそが教育だ」と思ってやっていました。それが私の原点です。
杉 ぼくはビジネスのことはよく分からないけれど、教育のことでしたら、思うことがいろいろあります。きょうこのような稽古袴姿なのも、ついさっきまで「杉塾」で若い俳優たちの指導をしていたからなんですよ。
朝倉 「杉塾」ではどんなことを教えていらっしゃるのですか。
杉 時代劇ができる人を育てるのが目的です。今は生活が完全に洋式になってしまって、日本人らしい所作、立ち居振る舞いができないんですよ、みんな。家に襖も畳敷きの部屋もなかったりするでしょう。立ち方、歩き方、正座の仕方、襖の開け閉めのような基本的なことから体に叩き込まないといけない。たとえば、女性は着物を着たら、足をちょっと内側に入れて歩く。そうすると、足から膝、膝から腰、腰から肩、そして目に、風情が出る。足元からずっと上がっていって目まで、身のこなし全体が柔らかくなる。それが時代劇に登場する日本の女らしさです。今教えているのは、芸能人として世の中に名前の出ている俳優、女優ばかりで、素人は1人もいないんですが、そういう根本的なところから教える必要がある。
杉 姿勢を正して話を聞かなければ、物事が入っていかない。「杉塾」の基本は正座です。子どもを育てることのできない親がほんとうに増えましたね。家は、まずいちばんの教育の場です。人間として社会に出てやっていいこと悪いこと、行儀を教えて、大人になったときに恥ずかしくないように、社会に適応できるようにしてあげなきゃいけないのに、それをしなくなった。「教育というのは学校がしてくれるものでしょう」と、すべて学校の先生のせいにするようになった。一方、学校の先生も、子どもたちのウケをねらって友だちのように接する。お笑い芸人かと思うようなものの言い方をする先生も多い。人として大事なことを、教えない。
朝倉 はい。その結果、礼儀・礼節をはじめ、親や先生を敬うという、日本人の本来持っていた古きよき部分がどんどん失われています。親にも先生にも叱られたことがないまま社会に出て、企業の研修やセミナーで私どものような教育機関で指導を受けて、「こんなふうに叱られたのは初めて」という人が多いんです。
杉 甘やかされて育って、「働く」ということの意味が分かっていない人も増えていますね。ぼくの事務所の社員は辞めないんですが、ぼくの知っているある芸能事務所では、社員が続かないんだそうです。芸能事務所ですから、勤務時間が9時~5時というわけにはいきません。「あしたは最終の新幹線で大阪から帰ってくるので、その時間に東京駅まで迎えに行ってください」と言うと、「そんな遅い時間に私が行かなきゃいけないんですか」とか、「都合が悪くて行けません」という答えが返ってくるという。働くとはどういうことなのか、全然分かっていないんですね。就職難、非正規雇用の増加、失業率の高さなどいろいろ言われていますが、新聞を開けば求人広告がたくさん載っている。ほんとうに働くところがないのか。そうではなくて、本気で働こうという気持ちが育まれていないところに、むしろ問題の根っこがあるのではないか、ぼくはそんな気がしています。
朝倉 まったく同感です。本気で働く気になったらいくらでもあります。特に営業のような仕事は、「やらせてください」と自分で飛び込んでいけば、いかようにもなります。それを、「あれもイヤだ、これもイヤだ」と選り好みしてわがままを言う人が多すぎます。
杉 そのとおりですよ。日本人がみな甘えすぎになった。
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